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電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について

基発第810号
昭和51年11月8日
各都道府県労働基準局長 殿
労働省労働基準局長

電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について

 標記疾病の認定については、今後、下記によることとし、これに関する従来の通達(昭和38年3月12日付
け基発第239号(昭和39年9月8日付け基発第1049号により一部改正))は廃止することとしたので、了知され
るとともに事務処理に遺憾のないようにされたい。
 なお、この取扱いの改正は、「電離放射線障害の業務上外の認定基準の検討に関する専門家会議」にお
いて先般取りまとめられた結論に基づいて行ったものである。
 また、この通達の解説部分は、電離放射線障害の類型、電離放射線障害の認定基準及び被ばく線量の評
価について解説したものであり、通達本文と一体のものとして取り扱われるべきものである。
第1 電離放射線障害の類型について
   電離放射線障害防止規則(昭和47年労働省令第41号)第2条第1項に規定する電離放射線(以下「電離放
  射線」という。)に被ばくする業務に従事し、又は従事していた労働者に電離放射線に起因して発生す
  ると考えられる疾病は、次のとおりである。
 1 急性放射線障害
   比較的短い期間に大量の電離放射線に被ばくしたことにより生じた障害をいい、これに該当するも
  のは、次のとおりである。
  (1) 急性放射線症(急性放射線死を含む。)
  (2) 急性放射線皮膚障害
  (3) その他の急性局所放射線障害(上記(1)及び(2)に該当するものを除く。)
 2 慢性的被ばくによる電離放射線障害
   長時間にわたり連続的又は断続的に電離放射線に被ばくしたことにより生じた障害をいい、これに
  該当するものは、次のとおりである。
  (1) 慢性放射線皮膚障害
  (2) 放射線造血器障害(白血病及び再生不良性貧血を除く。)
 3 電離放射線による悪性新生物
   電離放射線に被ばくした後、比較的長い潜伏期間を経て現われる悪性新生物をいい、これに該当す
  るものは、次のとおりである。
  (1) 白血病
  (2) 電離放射線の外部被ばくによって生じた次に掲げる原発性の悪性新生物
   イ 皮膚がん
   ロ 甲状腺がん
   ハ 骨の悪性新生物
  (3) 電離放射線の内部被ばくによって生じた次に掲げる特定臓器の悪性新生物
   イ 肺がん
   ロ 骨の悪性新生物
   ハ 肝及び胆道系の悪性新生物
   ニ 甲状腺がん
 4 電離放射線による退行性疾患等
   上記1から3までに掲げる疾病以外の疾病で、相当量の電離放射線に被ばくしたことによって起こり
  得るものは、次のとおりである。
  (1) 白内障
  (2) 再生不良性貧血
  (3) 骨壊疽、骨粗鬆症
  (4) その他身体局所に生じた線維症等
第2 電離放射線に係る疾病の認定について
   電離放射線に被ばくする業務に従事し、又は従事していた労働者に上記第1の「電離放射線障害の類
  型」のうち、急性放射線症、急性放射線皮膚障害、慢性放射線皮膚障害、放射線造血器障害(白血病及
  び再生不良性貧血を除く。)、白血病又は白内障が発生した場合で、これらの疾病ごとに以下に掲げる
  要件に該当し、医学上療養が必要であると認められるときは、白血病以外の疾病については、労働基
  準法施行規則別表第1の2第2号5、白血病については同別表第7号14に該当する業務上の疾病として取り
  扱う。
   なお、以下に認定基準を定めていない電離放射線障害、認定基準を定めている疾病のうち白血病及
  び認定基準により判断し難い電離放射線障害に係る事案の業務上外の認定については、別添「電離放
  射線に係る疾病の業務起因性判断のための調査実施要領」(略)により調査して得た関係資料を添えて
  本省にりん伺されたい。
 1 急性放射線症
   次に掲げる要件のいずれにも該当すること。
  (1) 比較的短い期間に相当量の電離放射線を全身又は身体の広範囲に被ばくした事実があること。
  (2) 被ばく後数週間以内に発生した疾病であること。
  (3) 次のイからニまでに掲げる症状のうちいずれかの症状が認められる疾病であること。
   イ はき気、嘔吐等の症状
   ロ 不安感、無力感、易疲労感等の精神症状
   ハ 白血球減少等の血液変化
   ニ 出血、発熱、下痢等の症状
 2 急性放射線皮膚障害
   次に掲げる要件のいずれにも該当すること。ただし、①労働者が大量の電離放射線に被ばくしたこ
  とにより発生した疾病で、被ばく後おおむね1日以内の間に発症する一過性の初期紅斑を伴うもの、②
  大量の電離放射線に被ばくしたことにより発生した疾病で、水泡、び爛のような強度火傷と同様の症
  状が認められるもの及び③比較的短い期間に相当量の電離放射線に被ばくすることにより発生した急
  性放射線皮膚障害が治ゆしないうちに引き続いて生じた難治性の慢性皮膚潰瘍又は治ゆした後に再発
  した難治性の慢性皮膚潰瘍が認められる疾病については、下記(1)から(3)までに掲げる要件にかかわ
  らず業務との関連があるものとして取り扱う。
  (1) 比較的短い期間に相当量の電離放射線を皮膚に被ばくした事実があること。
  (2) 被ばく後おおむね数時間又はこれを超える期間を経た後に発生した疾病であること。
  (3) 充血、紅斑、腫脹、脱毛等の症状が認められる疾病であること。
 3 慢性放射線皮膚障害
   次に掲げる要件のいずれにも該当すること。
  (1) 相当量の電離放射線を皮膚に慢性的に被ばくした事実があること。
  (2) 被ばく開始後おおむね数年又はこれを超える期間を経た後に発生した疾病であること。
  (3) 乾性落屑等の症状を経過した後に生じた慢性潰瘍又は機能障害を伴う萎縮性瘢痕が認められる疾
   病であること。
 4 放射線造血器障害
   次に掲げる要件のいずれにも該当すること。
  (1) 相当量の電離放射線に慢性的に被ばくした事実があること。
  (2) 被ばく開始後おおむね数週間又はこれを超える期間を経た後に発生した疾病であること。
  (3) 白血球減少等の血液変化が認められる疾病であること。
 5 白血病
   次に掲げる要件のいずれにも該当すること。
  (1) 相当量の電離放射線に被ばくした事実があること。
  (2) 被ばく開始後少なくとも1年を超える期間を経た後に発生した疾病であること。
  (3) 骨髄性白血病又はリンパ性白血病であること。
 6 白内障
   次に掲げる要件のいずれにも該当すること。
  (1) 相当量の電離放射線を眼に被ばくした事実があること。
  (2) 被ばく開始後少なくとも1年を超える期間を経た後に発生した疾病であること。
  (3) 水晶体混濁による視力障害を伴う白内障であること。
 (解説)
第1 電離放射線障害の類型について
 1 疾病分類の趣旨
   本文記の第1は、電離放射線障害の業務起因性の判断上の便宜を考慮して分類したものである。
   なお、電離放射線被ばくには、外部被ばくと内部被ばく(吸入、経口摂取又は無傷な若しくは傷のあ
  る皮膚を通じて体内に入った放射性物質により受ける被ばくをいう。)があり、被ばくの態様により障
  害の発生のし方が異なる場合があるので分類の際は特にこれを考慮した。
 2 疾病の説明
  (1) 本文記の第1の1の(3)の「その他の急性局所放射線障害」には、エックス線回折ビーム等による
   眼結膜炎、部分的な大量の電離放射線被ばく又は放射性物質の摂取により生じた臓器・組織の急性
   疾患(例えば、放射線腎炎、放射線肝炎、放射線肺炎)等がある。なお、ここにいう「局所」とは、
   白血球減少のような全身症状を伴わないことをいう。
  (2) 本文記の第1の4の(4)の「その他身体局所に生じた線維症等」には、電離放射線被ばくにより生
   じた肺の線維症があるほか慢性化した放射線皮膚障害の場合には皮膚の線維化がみられることがあ
   る。
    なお、ここにいう「身体局所」とは臓器・組織をいう。
第2 電離放射線に係る疾病の認定について
   電離放射線障害は、その現われる症状や性質は極めて複雑多岐であり、かつ、特異性がなく、個々
  の例においては他の原因により生ずる疾病との識別が困難なものが多い。
   したがって、電離放射線障害に関する業務起因性の判断に当たっては、その医学的診断、症状のみ
  ならず、被災労働者の職歴(特に業務の種類、内容及び期間)、疾病の発生原因となるべき身体への電
  離放射線被ばくの有無及びその量等について別添「電離放射線障害に係る疾病の業務起因性判断のた
  めの調査実施要領」(略)により調査し、検討する必要がある。
 1 急性放射線症について
  (1) 本文記の第2の1の(1)の「比較的短い期間」とは数日以内をいい、「相当量」とはおおむね25レ
   ム(rem)又はこれを超える線量をいう。
  (2) 本文記の第2の1の(2)は、急性放射線症は一般に被ばく後数時間以内に発生することが多く、数
   週間以上経過した後には起こり難いとの医学的知見に基づいて定めたものである。
  (3) 線量と症状発現の関係については、一般に次のようにいわれている。
   イ おおむね25レムに満たない場合 一時的に血液変化を認める場合もあるが急性放射線症の症状
    は呈さない。
   ロ おおむね25レムから50レムである場合 血液変化を認める場合が多いが明らかな急性放射線症
    の全身症状は来たさない。
   ハ おおむね50レムを超える場合 線量の増加に伴って急性放射線症の症状が現われる。
 2 急性放射線皮膚障害について
  (1) 本文記の第2の2のただし書及び第2の2の(1)の「比較的短い期間」とは十数時間以内をいい、
   「相当量」とは次の線量をいう。
   イ 1回の被ばくによる場合 おおむね500レム又はこれを超える線量
   ロ 間歇的被ばく又は放射性物質の付着による場合 おおむね1000レム又はこれを超える線量
  (2) 本文記の第2の2の(2)については、急性放射線皮膚障害は2週間程度の期間を経た後に発生するこ
   とが多いことに留意する必要がある。
 3 慢性放射線皮膚障害について
  (1) 本文記の第2の3の(1)の「相当量の電離放射線を皮膚に慢性的に被ばくした事実があること。」
   とは、3カ月以上の期間におおむね2500レム又はこれを超える線量の電離放射線を皮膚に慢性的に
   被ばくした事実があることをいう。
  (2) 慢性的に電離放射線に被ばくしやすい部位は手指であるが、手指の被ばく線量が測定されていな
   い場合が多いので、このような場合には現地調査、モデル実験等を行って線量を推定する必要があ
   る。
 4 放射線造血器障害について
  (1) 本文記の第2の4の(1)の「相当量の電離放射線に慢性的に被ばくした事実があること。」とは、
   おおむね1年間に5レム又は3カ月間に3レムを超える線量の電離放射線を慢性的に被ばくした事実が
   あることをいう。
  (2) 本文記の第2の4の(2)については、放射線造血器障害は被ばく開始後数年間を経た後に発生する
   ことが多いことに留意する必要がある。
  (3) 本文記の第2の4の(3)の「白血球減少等の血液変化」については、過去の血液検査所見の経過を
   観察のうえ判断する。
    十分な検査成績が得られない場合等当該症状の有無の判断が困難な場合には、当分の間、次の表
   に示す各項目のいずれかの下限値を下廻り(すなわち、末梢血液1立方ミリメートル中の白血球数が
   男女ともそれぞれ4,000個未満であるか、末梢血液1立方ミリメートル中の赤血球数が男子において
   は400万個未満、女子においては350万個未満であるが、又は血液1デシリットル中の血色素量が男
   子においては12.0グラム未満、女子においては10.5グラム未満であるかのいずれかであること。)、
   かつ、それがウィルス感染症による白血球減少、慢性の出血による貧血のような他の疾患によるも
   のでないと認められるものについては、血液変化が認められたものとして取り扱う。
性別 男子 女子
項目
末梢血液1立方ミリメートル中の白血球数 4000〜9000個 4000〜9000個
末梢血液1立方ミリメートル中の赤血球数 400〜600万個 350〜550万個
血液1デシリットル中の血色素量 12.0〜17.0グラム 10.5〜16.0グラム
 (注) この表は、正常成人の大部分が示す範囲の数値を表示したものである。
 5 白血病について
  (1) 本文記の第2の5の(1)の「相当量」とは、業務により被ばくした線量の集積線量が次式で算出さ
   れる値以上の線量をいう。
    0.5レム×(電離放射線被ばくを受ける業務に従事した年数)
  (2) 白血病を起こす誘因としては、電離放射線被ばくが唯一のものではない。また、白血病の発生が
   電離放射線被ばくと関連があると考えられる症例においても、業務による電離放射線被ばく線量に
   医療上の電離放射線被ばく線量等の業務以外の被ばく線量が加わって発生することが多い。このよ
   うな場合には、業務による電離放射線被ばく線量が上記(1)の式で示される値に比較的近いもので
   これを下廻るときは、医療上の被ばく線量を加えて上記(1)で示される値に該当するか否かを考慮
   する必要がある。この場合、労働安全衛生法等の法令により事業者に対し義務づけられた労働者の
   健康診断を実施したために被ばくしたエックス線のような電離放射線の被ばく線量は、業務起因性
   の判断を行うに際しては業務上の被ばく線量として取り扱う。
 6 白内障について
  (1) 本文記の第2の6の(1)の「相当量」とは、次の線量をいう。
   イ 3カ月以内の期間における被ばくの場合おおむね200レム又はこれを超える線量
   ロ 3カ月超える期間における被ばくの場合おおむね500レム又はこれを超える線量
  (2) 電離放射線による白内障は、被ばく後長期間を経た後に発生するので、「老人性白内障」との鑑
   別が困難な場合が多い。したがって、被ばく線量を十分には握のうえ業務起因性を判断することが
   必要である。
  (3) 慢性的に電離放射線に被ばくしている場合には、眼の被ばく線量が測定されていることは稀であ
   る。
    全身にほぼ均等に被ばくしていると判断される場合には、下記第3の1の(1)の個人モニタリング
   による測定値に基づいて算出された集積線量をもって眼の被ばく線量として差し支えない。全身に
   均等に被ばくしていない場合で眼の被ばく線量が個人モニタリングによる測定値に基づいて算出さ
   れた集積線量より多いと判断されるときは、その集積線量、作業状況、作業環境、安全防護の状況
   等(以下「作業状況等」という。)を総合的に検討して被ばく線量を推定する必要がある。
第3 被ばく線量の評価等について
 1 個人モニタリング
  (1) 個人モニタリングとは、体幹部の着衣上にフィルムバッジ、ポケット線量計その他の個人モニタ
   ー(個人被ばく線量計)を装着してその部分に受ける被ばく線量を測定することをいう。この方法に
   よる測定は、外部被ばく線量の測定を目的としている。
  (2) 電離放射線障害の発現に関与したと考えられる被ばく線量を推定するためには、個人モニタリン
   グによる測定値を使用することを原則とするが、障害の発現に関与した被ばく線量と個人モニタリ
   ングによる測定値とは必ずしも一致しないので、環境モニタリングによる測定値、被災労働者と共
   に作業に従事した労働者の個人モニタリングによる測定値等を参考として被災労働者の個人モニタ
   リングの測定値を検討する必要がある。
  (3) 被ばく線量の値については、障害発生部位と個人モニターの装着部位との関連を考慮する必要が
   あり、測定された値を障害の発現に関与した被ばく線量としてそのまま用いることが適当でない場
   合があるので記録された値の妥当性、信頼性を検討することが必要である。
  (4) 個人モニターの着用中断期間がある場合、当該期間の被ばく線量は、個人モニターの着用期間中
   の個人モニタリングによる測定値及び作業状況等から推定し、個人モニター着用開始前の被ばく線
   量は、作業状況等に関し入手できた情報から推定する必要がある。
  (5) 内部被ばくの線量評価は、ホールボディカウンター、肺モニター等による直接計測、屎尿等の検
   査による間接計測又は環境モニタリングの結果からの推定によって行われるが、技術的に困難性が
   あるので、その測定の実施と評価については、特に留意する必要がある。
 2 線質による被ばく線量の評価等
  (1) 電離放射線には、次に掲げる粒子線及び電磁波がある。
   イ 粒子線 アルファ線、重陽子線、陽子線、ベータ線、電子線及び中性子線
   ロ 電磁波 ガンマ線及びエックス線
  (2) 線質により生物学的な影響の受け方が異なり、したがって線量評価の方法が異なるので、被ばく
   した電離放射線の線質をは握する必要がある。なお、放射性物質による電離放射線被ばくを受けた
   場合には、核種(ストロンチウム90、コバルト60のような放射性物質の種類)を確認することにより
   被ばくした電離放射線の線質が分る。
  (3) 電磁放射線の線量の単位としてラド(rad)が使用されている場合に、これをレム(rem)に換算する
   必要のあるときは、およその値として次の式によりその値を算定してよい。
    線量当量(レム)=吸収線量(ラド)×線質係数
    (ここでいう「線量当量」とは、計量単位である吸収線量に線質係数を乗じて得られる放射線防
    護上の量をいう。)
   なお、線質係数は次の表の値を用いること。
電離放射線の種類 線質係数
エックス線 1
ガンマ線 1
ベータ線 3 注)
電子線 1
中性子線 10
陽子線 10
重陽子線 10
アルファ線 20
 注) 皮膚に対する線量当量を計算する場合は線質係数は3を用い、皮膚以外については線質係数は1を
  用いる。