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土石流等による労働災害防止対策の徹底について

改正履歴
	
                                                                         基発第454号の3
                                                                         平成9年6月20日

  標記については、平成8年12月9日付け基発第710号により関係団体に対して自主的な総点検の要請を
行うとともに、平成8年12月12日付け基発第715号により一斉監督を実施し、平成9年5月15日付け基発第
379号により梅雨期における当面の対策を示したところであるが、今般、労働省に設置した12.6蒲原沢土
石流災害調査団(団長  川上浩  信州大学工学部教授)の調査結果が別添1のとおり取りまとめられたと
ころである。
  これを踏まえ、関係業界団体及び関係発注機関に対して別添2及び3のとおり、土石流等(雪泥流を含
む。以下同じ。)による労働災害防止対策の徹底を要請したところである。
  ついては、各局においても、土石流等の発生のおそれのある河川等における工事について、下記事項に
留意の上、土石流等による労働災害の防止に万全を期されたい。
記
1  管内の土石流等の発生のおそれのある河川等における工事の施工状況等を踏まえ、関係事業者及び関
  係発注機関に対し要請内容の周知徹底を図ること。
2  集団指導、各種協議会、計画の届出に係る審査、実地調査、監督指導等様々な機会を活用し、関係事
  業者及び関係発注機関が要請内容を十分に検討の上、土石流等による労働災害防止対策を適切に策定し、
  実施するよう指導、援助すること。
3  複数の元方事業者が近接して工事を施工している場合には、関係発注機関とも密に連携の上、関係元
  方事業者に定期的な協議の場を設けさせる等により、一元的な安全管理対策が実施されるよう指導、援
  助すること。

別添1−1

調査結果の概要

1  災害の発生状況
    平成8年12月6日(金)10時40分頃、新潟県糸魚川市平岩地区及び長野県北安曇(きたあずみ)郡小谷
  (おたに)村にまたがる姫川支流の蒲原沢地区において、災害復旧工事(平成7年に発生した集中豪雨に
  よる土砂崩壊等による災害復旧のため、姫川との合流部から上流約1kmの区間において施工されていた
  砂防ダム、護岸等の工事)を行っていたところ、姫川合流地点から上流約2.7kmの地点で発生した土砂
  崩壊が引き金となり土石流が発生し、蒲原沢を流れ落ち、姫川まで流れ込んだ。
    このため、作業中の68名のうち、14人が行方不明(その後全員が遺体で収容)となり、9人が負傷し
  た。(災害発生時の作業状況及び被害状況等は(別紙)のとおり。)
2  土石流の発生状況等
  (1)  現場付近の地形、地質等
        蒲原沢が流入する姫川は、川に沿って糸魚川−静岡構造線が走り、その活動の影響を受けて地す
      べり地が密集している。蒲原沢の左岸側は、緩やかな傾斜をなし、右岸側は急傾斜の地形をなす。
      その流域面積は4.0km2、流路延長は4.6 kmである。
        土石流が発生した蒲原沢は、平均河床勾配20°という急傾斜の細い渓流である。その地質は、姫
      河との合流部で古生界の粘板岩、少し上流で蛇紋岩、さらに上流で来馬(くるま)層と呼ばれる礫岩、
      泥岩、砂岩の互層が分布し、その上を火山噴出物が覆っている。
  (2)  降雨等の気象条件
      [1]  蒲原沢と姫川の合流点付近の雨量

            蒲原沢と姫川の合流点付近(標高約320m)では、後藤組及び日産建設に雨量計が設置され
          ていた。12月4日午後0時から土石流発生時までの雨量計の測定結果は、後藤組の雨量計が
          73.5mmであるのに対し、日産建設の雨量計が38.5mmと35mmの差がある。これは後藤組の雨量計
          は12月1日から2日にかけての降雪を捕捉していたのに対し、日産建設の降雨計は捕捉率が悪
          かったためと考えられる。
      [2]  崩壊地点での供給水量の推定
            平成8年12月4日から6日の日本付近には発達した低気圧が日本海を通過し、南からの暖か
          く湿った空気が流れ込んでいた。低気圧の中心が蒲原沢周辺を通過した12月5日夜は融雪が進
          みやすい高温、高湿度、強風の条件がそろっていた。蒲原沢周辺のスキー場のデータ等から推
          定すると、気温上昇による融雪と降雨量を合わせて、崩壊地点(標高約1,300m)で蒲原沢に
          供給されていた水量は約60mmから100mm程度であったと考えられる。
  (3)  土石流の発生端緒及び流下状況
      [1]  上流部の土砂崩壊

            土石流の発端となった土砂崩壊は、平成7年7月の崩壊と同じ地点(姫川との合流点より約
          2.7km上流の標高約1,300mの地点)で当時崩壊しなかった山腹に拡大する方向で発生している。
          この崩壊の規模は、長さ120m、幅60m、最大深さ20mに達し、崩壊土量は約33,000m3である。
          斜面下部の土塊は13,000m3であり、この土塊は流出せず、差し引き20,000m3が土石流となっ
          て流下したと考えられる。
            今回の崩壊は来馬層と火山噴出物の境界で発生している。崩壊後の滑落崖には、安山岩の巨
          礫を含む火山噴出物が10m以上露出しており、そのマトリックス(素地)は軟弱な粘土である。
          その滑落崖の数カ所に地下水の噴出口が認められ、地下水が流出している。崩壊発生時には、
          雨水及び融雪水が浸透してこの火山噴出物中より地下水が流出したものと考えられる。
      [2]  崩壊の規模及び降水量
            今回の蒲原沢の土石流の端緒となった崩壊は、過去に長野県及び新潟県で発生した主な土石
          流と対比すると、規模は小さく、崩壊を引き起こした降雨・融雪量も少ない。過去の例をみる
          と、崩壊歴のない場所では、1日200mm程度の降雨がないと土石流の端緒となる崩壊は発生し
          ないが、既に崩壊地が形成され、その中で小崩壊が発生して土石流になる場合には、少量の降
          雨によっても土石流が発生している。
            このようなことから、今回の土石流は、平成7年7月の崩壊によりその後の崩壊が発生しや
          すい条件が整っていたため、比較的少量の降雨により小規模な崩壊が発生し、それが土石流に
          つながったと考えられる。
  (4)  蒲原沢における土石流等の発生経歴
        平成7年7月11日から12日にかけて姫川、関川、黒部川では観測史上最大規模の梅雨前線豪雨
      があり、大きな被害をもたらした。蒲原沢では今回の土石流の発端となった崩壊と同地点で山地斜
      面が崩壊して大規模な土石流・土砂流が発生した。このときの土石流の量は約110,000m3とされ
      ている。
        また、姫川との合流点には、年代は特定できないが過去数回にわたる土石流堆積物が認められる。
  (5)  河川の渇水期と土石流の一般的な発生時期等
        姫川の20年間の月平均流量から、流量が最も少ないのは、1月、2月であり、12月は3番目であ
      る。1月、2月はこの地方は積雪が多いことを考えると、11月、12月は、河川の水が少なく河川工
      事には都合のよい季節であり、建設業者には12月は工事を進捗させる時期という経験的知識があっ
      た。
        「砂防便覧」に示されている最近の土石流発生事例251例の発生時期を調べると、土石流の発生
      は7月から9月に集中しており、12月、1月、2月の発生例は皆無である。土石流を発生原因別
      に集計すると、梅雨前線、台風、集中豪雨によるもので発生件数の96%を占め、秋雨前線、融雪
      によるものがそれぞれ1%である。つまり、土石流は多量の降雨によって発生しているとみること
      ができる。
        また、朝日新聞の50年間の見出しを検索して、「土石流」、「山津波」、「鉄砲水」の用語が見
      られる記事全数202件を月別に集計しても、12月に記事が見られるのは、平成4年12月8日富士山で
      土石流が発生したことを報じる記事のみである。
3  事業場等における土石流災害を防止するための安全管理状況
  (1)  元請事業者、下請事業者の安全管理状況
      [1]  警報設備等の設置状況
            土石流等の発生を検知した場合に、作業者に緊急連絡を行うためのサイレン等の警報設備は
          設置しておらず、また、合図の方法についても定められていなかった。
      [2]  作業中止のための基準等について
            建設省発注工事を施工する事業者間の連絡調製のために設置されている「葛葉(くずは)・蒲
          原連絡協議会」において、降雨量による警戒・退避基準(後述)が設定されており、降雨量が
          定められた基準値を超えた場合には会員事業場へ連絡されることとなっていた。一方、雨量計
          も設置せず、他の事業場との間に雨量に関する連絡網も整備していない事業場もあった。
      [3]  機械監視装置の設置及び監視人の配置状況
            発生した土石流を検知するための機械監視装置の設置や監視人の配置は行われていなかった。
      [4]  避難のための措置
            作業中に土石流が流下してきた場合を想定した緊急連絡体制の整備、避難訓練の実施や避難
          設備の設置は行われていなかった。
  (2)  蒲原沢全体を対象とする安全管理状況
      [1]  「葛葉・蒲原連絡協議会」による警戒・退避基準の設定
            現地における土石流等による災害防止の対策として、「葛葉・蒲原連絡協議会」により平成
          8年6月6日に警戒・退避基準が設定されていたが、6月25日にかなりの出水があったことか
          ら、その後この基準を、「時間当たり雨量が15mmを超えた場合又は6時間での連続雨量が50mm
          を超えた場合」には作業を中止し、退避することと強化されている。
      [2]  長野県姫川砂防事務所による警戒避難雨量の設定
            蒲原沢において当該事務所の発生に係る工事は施工されていないが、当該事務所では、「葛
          葉・蒲原連絡協議会」とは別に警戒避難雨量(連続雨量75mm、24時間雨量60mm、1時間雨量
          15mm)を設定し、工事受注者及び姫川建設業協会あてに平成8年5月28日付けで文書で通知し
          ている。
      [3]  その他
            大町労働基準監督署においては、平成8年6月の大雨の際に緊急情報を発出するとともに、
          同年7月に「小谷地区豪雨災害復旧工事労働災害防止協議会」が主催した労働災害防止大会等
          の場において、土石流に対する注意喚起を行っている。
4  災害の原因
  (1)  土石流の発生要因
      [1]  地質等の要因
            蒲原沢上流部は崩壊が発生しやすい地質的特性を有しており、また、平成7年7月の集中豪
          雨によって上流部に発生した崩壊により、その後の崩壊が発生しやすい条件が作られていた。
      [2]  降雨量等の要因
            平成8年12月1日及び2日に積雪があり、12月5日(災害発生前日)には気温の上昇に加え
          降雨があった。そのため、降雨に融雪が加わり、崩壊地付近の12月5日の融雪量も加味した降
          水量は、崩壊地付近では最大で100mm程度に達しており、土石流の引き金となる地下水の供給
          に寄与したと考えられる。
      [3]  地形等の要因
            蒲原沢は、平均河床勾配20°という急傾斜の渓谷であり、沢に崩落した土砂は、増水した渓
          流の流れと崩壊地から流出する地下水により容易に土石流となり得た。
  (2)  労働災害につながった原因
        蒲原沢は、過去に土石流が発生していること、上流における平均河床勾配が急峻であることなど
      から、土石流が発生する可能性が高い渓流であったと考えられる。
        しかし、土石流が通常、多量の降雨により発生すると考えられていたことから、降雨のみに着目
      した基準等を設定し、この値により警戒・退避を行うことが一般的であった。また、この地方では、
      12月は河川の水が少ないこと、土石流の発生例が知られていないこと等から、建設業者にとって
      工事を進捗させる時期という経験的知識があった。
        このため、降雨のみに着目した警戒・退避基準の設定は行われていたものの、融雪等の要因につ
      いては考慮されることなく、また、一部の事業場においては、これらの設定も行うことなく工事が
      実施されていた。
        このように、施工時期等からみて、土石流に対する警戒心が、工事関係者に薄れていたものと考
      えられる。
        しかし、蒲原沢は土石流が発生する可能性の高い渓流であることを考慮すると、設置等に困難性
      が認められるものの土石流の早期検知のための措置及び警報設備の設置、避難設備の設置等の措置
      のいずれも講じないまま作業が行われていたことが、被害の拡大につながった要因とも考えられる。
5  再発防止対策
    今回の土石流災害は、この地域では従来考えられなかった初冬期に、降雨と融雪が引き金となって発
  生したものであり、今後は、このような土石流災害にも対応できる防止対策が必要である。このような
  観点から再発防止のための諸対策を検討すると、次のような対策が有効であると考えられる。
  (1)  事前調査の実施及びその結果に基づく警戒・退避基準の設定
      [1]  作業箇所及び河川上流の地山、河川の状況、気象データ、過去の土石流の発生状況等に関す
          る事前調査を実施すること。
      [2]  [1]の調査結果に基づき、適切な警戒・退避基準を設定すること。なお、警戒・退避基準の設
          定に当たっては、降雨量のみならず、融雪量についても十分に考慮すること。
  (2)  雨量・融雪量等の的確な把握
      [1]  雨量、融雪量、気温等の的確な把握を行うこと。また、雨量計の取扱いの習熟及び適切な管
          理について徹底すること。
      [2]  降雨量、融雪量については、作業箇所における測定のほか、広域的なデータを収集するなど
          により、警戒・退避基準の信頼性の向上を図ること。
  (3)  土石流等の検知及び連絡方法の確立
      [1]  土石流等の発生を早期に検知して退避につなげるシステムを確立すること。なお、検知の方
          法としては、監視人による監視(ビデオカメラの設置及び映像の事務所での監視を含む。)と
          高感度地震計、ワイヤーセンサー等の機械的な検知方法があること。また、土石流等の検知の
          ための装置等については、河川の状況、想定される土石流等の発生場所、流下速度、工事施工
          場所等を十分に考慮すること。
      [2]  土石流等が発生した際の労働者に対する緊急連絡方法を確立すること。なお、複数の事業者
          が存在する場合には、警報等を統一すること。
  (4)  避難訓練の実施及び避難訓練の確保
      [1]  土石流等の発生のおそれのある現場で工事を施工する場合には、避難訓練を定期的に実施す
          ること。
      [2]  土石流等が発生した場合に使用する避難設備を整備すること。
  (5)  安全教育の充実
      [1]  工事施工計画の策定時における検討体制の充実を図るため、施工計画を担当する者の資質の
          向上を図ること。
      [2]  工事施工中においても、土石流等に対する各種の安全対策を適切に行う必要があることから、
          現場の安全責任者に対する安全教育の徹底を図ること。
      [3]  現場に入場するすべての現場作業者に対して、土石流等の危険性、退避の方法等に関する教
          育を実施すること。特に地域の実情に不慣れな出稼ぎ労働者等に対して行う教育について十分
          に配慮すること。また、元請事業者は関係請負人に対して資料の提供を行うなど、必要な指導・
          援助を行うこと。
  (6)  関係事業者による一元的な安全管理対策の推進
        複数の元請事業者が同一区域内で工事を行う場合は、すべての関係事業者が参加できる定期的な
      協議の場を設置するなどにより、土石流等の検知・警報装置の共同設置等の関係事業者による一元
      的な安全管理対策を推進すること。
  (7)  発注者による情報の提供等
      [1]  発注者による各種情報の提供
            河川等に係る地形、地質、過去の土石流の発生状況等に関して発注者が保有する情報を、必
          要に応じ施工業者に対して提供すること。
      [2]  発注者による協議会等の設置についての指導援助
            多数の元請事業者が同一区域内で工事を施工している場合には、相関連する工事区域全体を
          対象とする一元的な安全対策が必要であることから、関係事業者間の連絡協議を行うための組
          織を設置するよう指導援助すること。
      [3]  複数の発注者が同一区域内で工事を発注する場合の措置
            複数の発注者が同一区域内で工事を発注する場合において、個々の発注者が別々に実施する
          よりも発注者が共同して実施する方が効果的かつ効率的なものについては、発注間で調整を行
          った上で、施工業者に対し必要な指示等を行うこと。
  (8)  行政が取り組むべき事項
      [1]  安全基準等の整備
            土石流等による労働災害防止対策を総合的に進めるため、工事着手前に調査すべき項目、調
          査結果の判断の基準、判断結果に基づく事前の安全対策及び着手後の具体的な安全対策の在り
          方等について、必要に応じて関係法令を整備するとともに、事業者が自主的に検討することが
          可能となるよう、ガイドライン等を策定すること。
      [2]  研究開発の推進
            土石流等について、その発生メカニズムを解明するため、国の調査研究機関等が調査研究を
          推進すること。また、土石流の早期検知システムの開発等への支援を行うこと。
      [3]  安全確保対策に対する支援策
            雨量計、土石流等の検知システムの円滑な導入を図るための支援を行うこと。
      [4]  安全教育の実施等に対する支援
            工事計画の策定を担当する者、現場安全責任者、現場作業者等に対する各種教育について、
          その実施を支援すること。

(別紙)


(図)(蒲原沢流域全体図)

(図)(蒲原沢地質断面図)

(図)(工事施工状況図)

(図)(上流部崩壊地の平面図)

(図)(上流部崩壊地の断面図)


「労働省12.6蒲原沢土石流災害調査団」の構成及び調査検討経過

1  構成
    団長  川上  浩    信州大学工学部教授
    団員  大西外明    東京理科大学理工学部教授
          北山宏幸    建設業労働災害防止協会専務理事
          堀井宣幸    労働省産業安全研究所建設安全研究部主任研究官
          山田  正    中央大学理工学部教授
2  調査経過
    平成8年12月6日  災害発生
            12月9日  「12.6蒲原沢土石流災害調査団」結成
            12月25日  ヘリコプターによる現地調査及び第1回検討会
            12月26日  踏査による現地調査
    平成9年2月5日  第2回検討会
            3月12日  第3回検討会
            4月25日  第4回検討会
            5月11日  踏査による崩壊地調査
            5月21日  第5回検討会
            6月13日  第6回検討会及び調査報告書のまとめ


別添2

基発第454号
平成9年6月20日

建設業労働災害防止協会会長
社団法人全国建設業協会会長
社団法人日本土木工業協会会長
社団法人全国中小建設業協会会長
社団法人全国森林土木建設業協会会長  殿

労働省労働基準局長

土石流等による労働災害防止対策の徹底について

  建設業における労働災害の防止については、労働基準行政の最重点課題として対策を推進しているとこ
ろでありますが、平成8年12月6日に長野県と新潟県の県境をなす蒲原沢で土石流が発生し、作業員14人
が死亡、9人が重軽傷を負うという近年まれにみる規模の重大災害が発生したことは、誠に遺憾に堪えま
せん。
  労働省では、本災害の重大性にかんがみ、12.6蒲原沢土石流災害調査団(団長  川上浩  信州大学工学
部教授)を設置し、現地調査をはじめとして災害原因の究明と同種災害の防止対策の検討を行ってまいり
ましたが、今般、この調査結果が別添のとおり取りまとめられたところであります。
  今回の土石流災害は、初冬期に降雨と融雪が引き金となって発生したものでありますが、今後は、この
ような土石流災害にも対応できる防止対策が必要であり、調査団においてこのような観点から再発防止の
ための諸対策を検討した結果、下記の対策が有効であると提言をいただいたところであります。
  つきましては、貴協会におかれましても、土石流等(雪泥流を含む。以下同じ。)の発生のおそれのあ
る場所において工事を施工する場合には、下記事項に留意し、土石流等による労働災害の防止について万
全を期するよう、会員事業場に対し周知徹底されたく要請いたします。
記
1  事前調査の実施及びその結果に基づく警戒・退避基準の設定
  (1)  作業箇所及び河川上流の地山の状況、河川の状況、気象データ、過去の土石流等の発生状況等に
      関する事前調査を実施すること。
  (2)  (1)の調査結果に基づき、適切な警戒・退避基準を設定すること。なお、警戒・退避基準の設定に
      当たっては、降雨量のみならず、融雪量についても十分に考慮すること。
2  雨量・融雪量等の的確な把握
  (1)  雨量、融雪量、気温等の的確な把握を行うこと。また、雨量計の取扱いの習熟及び適切な管理に
      ついて徹底すること。
  (2)  降雨量、融雪量については、作業箇所における測定のほか、広域的なデータを収集するなどによ
      り、警戒・退避基準の信頼性の向上を図ること。
3  土石流等の検知及び連絡方法の確立
  (1)  1の(1)の調査結果を踏まえ、土石流等の発生を早期に検知して退避につなげるシステムの確立を
      図ること。なお、検知の方法としては、監視人による監視(ビデオカメラの設置による事務所での
      監視を含む。)と高感度地震計、ワイヤーセンサー等の機械的な検知方法があること。また、土石
    流等の検知のための装置の選定、設置等については、河川の状況、想定される土石流等の発生場所、
    流下速度、工事施工場所等を十分に考慮すること。
  (2)  土石流等が発生した際の労働者に対する緊急連絡方法を確立すること。なお、緊急連絡のための
      警報は、複数の元方事業者が存在する場合には、それぞれ独自に定めるのではなく、統一すること。
4  避難訓練の実施及び避難訓練の確保
  (1)  避難訓練を定期的に実施すること。
  (2)  土石流等が発生した場合に使用する避難設備を整備すること。
5  安全教育の充実
  (1)  施工計画の策定時における検討体制の充実を図るため、施工計画を担当する者の資質の向上を図
      ること。
  (2)  工事施工中においても、土石流等に対する各種の安全対策を適切に行う必要があることから、関
      係元方事業者の安全担当者に対する安全教育の徹底を図ること。
  (3)  現場に入場するすべての現場作業者に対して、土石流等の危険性等及び退避の方法等に関する教
      育を実施すること。特に地域の実情に不慣れな出稼ぎ労働者等に対して行う教育について十分に配
      慮すること。また、元方事業者は関係請負人に対して資料の提供を行うなど、必要な指導・援助を
      行うこと。
6  関係元方事業者による一元的な安全管理対策の推進
    複数の元方事業者が同一河川内で土石流等によって被害が発生するおそれのある区域内で工事を施工
  している場合には、すべての関係元方事業者が参加できる定期的な協議の場を設置するなどにより、土
  石流等の検知・警報装置の共同設置等、関係元方事業者による相関連する工事区域全体を対象とする一
  元的な安全管理対策を推進すること。


別添3

基発第454号の2
平成9年6月20日

建設省河川局長
林野庁長官      殿

労働省労働基準局長

土石流等による労働災害防止対策の徹底について

  労働災害防止対策の推進につきましては、平素より格段の御協力を頂き、厚く御礼申し上げます。
  さて、建設業における労働災害につきましては、平成8年は前年より若干の減少を見たものの、依然
1,000人を超える高水準にあり、憂慮すべき状況にあります。
  このような中、平成8年12月6日に長野県と新潟県の県境をなす蒲原沢で土石流が発生し、作業員14人
が死亡、9人が重軽傷を負うという近年まれにみる規模の重大災害が発生したことは、誠に遺憾に堪えま
せん。
  労働省では、本災害の重大性にかんがみ、12.6蒲原沢土石流災害調査団(団長  川上浩  信州大学工学
部教授)を設置し、現地調査をはじめとして災害原因の究明と同種災害の防止対策の検討を行い、今般、
この調査結果が別添1のとおり取りまとめられたところであります。
  つきましては、貴職におかれましても、同種災害の防止のために、土石流等(雪泥流を含む。以下同じ。)
の発生のおそれのある場所において工事を施工する際には、下記の点につきまして格段の御配慮を賜りた
く、また、別添2のとおり建設業関係団体に対して要請いたしましたので、趣旨を御理解いただき、その
徹底について御協力を賜りますようお願い申し上げます。
記
1  複数の発注機関が同一河川で近接して工事を発注する場合の措置
    複数の発注機関が土石流等の発生するおそれのある河川等において近接して工事を発注する場合には、
  警戒・退避基準の設定、監視人の配置又は検知システムの設置、緊急連絡設備の設置等の措置は、個々
  の元方事業者が独自に実施するよりも共同して実施する方が効果的かつ効率的と考えられることから、
  これらの措置が適切に実施されるよう、発注機関の間で必要な調整を行った上で、関係元方事業者に対
  し一元的な指導等を行っていただきたいこと。
2  複数の元方事業者が同一河川等で近接して工事を施工する場合の措置
    複数の元方事業者が土石流等の発生するおそれのある河川等において近接して工事を施工している場
  合には、監視人の配置等、個々の元方事業者が独自に実施するよりも共同して実施する方が効果的かつ
  効率的と考えられる措置が適切に実施されるよう、すべての関係元方事業者が参加できる協議会等の設
  置について指導、援助いただきたいこと。
3  土石流等に関する情報の提供
    発注者が保有している各種情報のうち、河川等に係る地形、地質、過去の土石流等の発生状況等、関
  係元方事業者が講ずる安全対策の基礎データとして有益であると考えられるものについては、必要に応
  じ関係元方事業者に対して情報を提供していただきたいこと。