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プレス災害防止総合対策の推進について

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                                                                          基発第519号の3
                                                                          平成10年9月1日

  プレス労働災害防止対策について、その周知と効果的な推進を図るため、別添のとおり関係団体に協力
を要請したので了知されたい。

基発第519号の2
平成10年9月1日

別記団体の長あて

労働省労働基準局長

プレス災害防止総合対策の推進について 

  労働基準行政の推進につきましては、日頃より格別の御配慮を賜り、厚く御礼申し上げます。
  プレス機械による労働災害の防止については、これまで数次にわたり総合的な対策を推進してきたとこ
ろであり、災害は着実に減少してきました。特にポジティブクラッチプレスについては、安全対策を重点
的に進めてきたところから、災害は大幅に減少したところです。
  しかしながら、近年プレス災害の減少傾向は鈍化しており、平成9年には約2,400件の休業4日以上の労
働災害が発生し、その4割が身体に障害を残す災害となっているところです。
  こうした状況にかんがみ、今後もプレス機械による労働災害の防止を積極的に進めることとし、今般、
別添のとおり新たにプレス災害防止総合対策を策定したところです。
  つきましては、貴団体におかれても、本対策の趣旨を御理解いただき、会員事業場に対する周知、指導
方、格別の御協力をお願い申し上げます。
  (別記団体)
中央労働災害防止協会
(社)産業安全技術協会
(社)日本金属プレス工業会
(社)日本鍛圧機械工業会
日本プレス安全装置工業会
日本金型工業会
(社)日本産業機械工業会
(社)日本自動車工業会
(社)日本自動車部品工業会
(社)日本産業車両協会
(社)日本電機工業会
(社)日本電子機械工業会


(別添)  

プレス災害防止総合対策
 
第1  基本的事項
  1  プレスをめぐる状況と問題点
    (1) 災害の発生状況
        最近のプレス災害の発生状況からみたプレス災害防止に係る主な問題点は、次のとおりである。
      イ  プレス災害は減少傾向にあるものの、その減少傾向はこの数年鈍化しており、平成9年で約
        2,400件の死傷災害が発生し、その約40%が身体に障害を残す災害となっている。
      ロ  操作方式別では、設置台数で全体の約20%の足踏み操作式プレスの災害が、災害の大半を占め
        ている。
      ハ  クラッチの種類別には、従来最も多かったポジティブクラッチプレスによる災害の占める割合
        が大幅に減少し、これに代わってフリクションクラッチプレスによる災害が最も多くなっている。
      ニ  災害が発生した機械の安全措置の状態についてみると、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令
        第32号。以下「安衛則」という。)第131条第1項ただし書の機構を含めた安全装置等がなかった
        ものが全災害の約40%、安全装置等はあったもののその機能や取付方法が不完全だったものが約
        25%であり、これらを合わせ安全装置等の不備によるものが約65%を占めている。
      ホ  災害発生時の作業者の行動についてみると、手工具の代わりに手を使っていたもの、安全装置
        を外していたもの等、不安全な行動に伴って発生した災害が多く、こうした災害はプレス災害全
        体が減少する中にあって減少傾向が鈍い。
      ヘ  業種別には、金属製品製造業、一般機械器具製造業、輸送用機械器具製造業等で多発している。
    (2) プレス機械の安全措置状況
        プレス機械の安全措置状況についてみると、安衛則第131条第1項又は第2項の措置が講じられ
      ていないプレスを有する事業場が依然多く見受けられる。
        一方、制御機能付き光線式安全装置(以下「PSDI」という。)の導入が進むことに伴い、そ
      の機能及び特徴に対応した安全管理が普及することが必要である。
    (3) プレス機械作業主任者の選任状況等
        動力プレス機械を5台以上有する事業場におけるプレス作業であるにもかかわらず、プレス機械
      作業主任者の選任がなされていないもの、選任されていても職務が実施されていないものが依然多
      く見受けられる。
    (4) 特定自主検査の実施状況
        特定自主検査が実施されていない事業場が依然多く、また、その検査結果をみると特にポジティ
      ブクラッチプレスについて何らかの異常が指摘される割合が高く、その場合補修等の的確な措置の
      徹底が必要である。
    (5) 計画の届出状況
        動力プレスを新たに設置又は変更する場合の労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛
      法」という。)第88条に基づく計画の届出が徹底されていない。
  2  重点とする対策
    (1) プレス機械の安全化の促進
        プレス災害を防止するためには、安衛則第131条第1項本文の安全囲いの設置等により身体の一
      部が危険限界に入らない「ノーハンド・イン・ダイ」の措置を講ずることが最も安全な対策であり、
      これを基本に対策を推進すべきであるが、作業の性質上これが困難である場合には、安衛則第131
      条第1項ただし書に規定する安全プレスの使用による災害防止措置を講ずることとし、さらに安全
      プレスの使用も困難な場合に限り、安衛則第131条第2項の安全装置の取付けによる災害防止措置を
      講ずることが必要である。
        なお、プレス機械の安全化を促進する具体的方策として、足踏み操作式から両手押しボタン操作
      式へ切り換えることが、多くのプレス機械にとって有効な対策であるが、ノーハンド・イン・ダイ
      方式への改善が根本的な災害防止対策であることに留意することが必要である。
    (2) プレス機械及び安全装置等の管理の徹底
        安全装置及び安全プレスの安全機構(以下「安全装置等」という。)については、その種類がプ
      レス機械の種類や作業内容に応じ適切でないこと、又は安全距離の不足など使用方法が適切でない
      こと等を原因として安全装置等が有効に機能しないことによる災害を防止するため、プレス機械の
      安全装置等の適正な選択と使用等を徹底することが重要である。
        このため、プレス機械作業主任者等の選任と職務の実施の徹底を図るとともに、事業者、プレス
      機械作業主任者、プレス作業従事者に対する安全教育等により、プレス機械作業主任者を中心とし
      た積極的な安全管理活動を展開することが必要である。
    (3) プレス設置事業場に応じた効果的な対策
        大規模事業場及びその系列企業集団においては、プレスに関する安全を協議する組織を運営し、
      これらを通じ複次の下請けを含めた自主的安全活動を展開するよう努めることが必要である。
        また、労働災害防止団体、プレス関連工業会等においては、プレス機械を設置する非会員事業場
      の加入促進を含め、自主的安全活動を充実強化するよう努めることが必要である。さらに、技術面、
      資金面の問題によりプレス災害防止措置を十分に講じることが困難な中小規模事業場においては、
      外部からの技術的な指導等を受けるとともに、安全融資制度等の各般の支援制度を活用し、継続的
      な自主的安全活動を展開することが重要である。
第2  具体的実施事項
  1  安全管理体制の確立等安全活動の実施
    (1) 安全管理体制の確立
        事業場の規模、プレス作業の状態等に応じ、安全管理者、安全衛生推進者、プレス機械作業主任
      者等を選任し、それぞれの責任範囲及び業務分担を明確にすること。
    (2) 安全委員会における審議
        プレス作業の安全に係る規程の作成、新規に導入するプレス機械に係る危険の防止等について審
      議すること。
    (3) 作業主任者等による管理の徹底
        プレス機械の保守点検、適正な作業を事業場に定着させるため、プレス機械作業主任者の選任に
      ついては、プレス機械の設置台数、プレス作業の態様等を勘案した上、プレス機械作業主任者とし
      ての職務の励行のために必要な人数を選任することとし、個々のプレス機械ごとに管理の責任と権
      限を明確にした安全管理活動の確立を図ること。このため、プレス機械作業主任者の選任の徹底は
      もとより、選任を要しない事業場においても安衛則第134条第1号、第2号及び第4号の事項を担当す
      る者を選任し、下記の事項に関する実務を担当させること。
        また、個々のプレス機械ごとに管理を担当するプレス機械作業主任者等の氏名はもとより、金型、
      安全装置の取付け、調整等を実施する担当者の氏名を掲示すること。
      イ  特定自主検査及び作業開始前点検
          「動力プレスの定期自主検査指針」(平成24年自主検査指針公示第1号)に定められた検査項
        目、検査方法及び判定基準に基づく特定自主検査の実施を徹底するとともに、作業開始前点検の
        実施についても徹底すること。
      ロ  安全点検
          機械設備の安全性と機能の保守のため、点検の責任者、具体的な点検項目、点検方法と適否の
        判定基準、点検時期(頻度)等を定める安全点検マニュアルを作成し、これに基づく点検の実施
        を徹底すること。
          プレス機械作業主任者等には、これらの点検が確実に実施されているか確認すること。
      ハ  異常(故障)の早期発見と処置
          安全点検、特定自主検査の結果何らかの異常が認められた場合、あるいは加工作業中に異常
       (故障)を発見した際には職長等上級の管理者に報告させること。この際、報告を受けた職長等
        は、直ちに作業を中止させ、必要な場合はプレス機械のメーカー等外部の専門機関に依頼し、適
        切な補修措置を講じること。
  2  プレス機械の安全化の促進
    (1) プレス機械の安全確保措置
        プレス災害を防止するに当たっては、安衛則第131条第1項の措置を講ずることが根本的な対策で
      あるため、それ以外の安全措置を講ずることとするプレス機械は極力少数に限定させる必要があり、
      作業の性質上困難である場合に限り、安衛則第131条第2項の安全装置の取付けによる安全措置を講
      じること。
      イ  安衛則第131条第1項の措置
          身体の一部が危険限界に入らないような措置として、安全囲い(危険限界を囲い手指が届かな
        いもの)、安全型(すきまが8mm以下で身体の一部が入らない構造の金型)が設けられたプレス
        機械、専用プレス(特定の用途に限り使用でき、かつ、身体の一部が危険限界に入らない構造の
        もの)又は自動プレス(自動的に材料の送給、排出を行うもの)による安全措置をとること。
          しかしながら、作業の性質上、材料の供給、排出のため開口部を大きく取らなければならない
        等により、危険限界に手が入らない措置を採ることが困難な場合には、製造時から安全機構がプ
        レス機械本体に設けられている安全プレスを使用すること。
      ロ  安衛則第131条第2項の措置
          作業の性質上、上記イの安衛則第131条第1項の措置が困難な場合に限り、ガード式、両手操作
        式、PSDI、光線式、手引き式、手払い式等の安全装置を設けること。また、より安全性を高
        めるために、安全装置を複数設置したり、取り外しや無効化が容易に行われない構造とすること。
          これらの安全装置の設置については、材料又は製品の出入れを行うために必要な箇所を除き安
        全囲いを確実に設けること。
    (2) 安全装置の適正な選択と管理
        平成5年7月9日付け基発第446号の2「プレス機械の安全装置管理指針について」に示された
      指針並びに平成10年3月26日付け基発第130号「制御機能付き光線式安全装置に対するプレス機械
      又はシャーの安全装置構造規格及び動力プレス機械構造規格の適用の特例について」に示された安
      全基準及び同日付け基発第130号の4「制御機能付き光線式安全装置の取扱いについて」に示された
      PSDIの設置、使用、保守管理等における措置に基づき、安全装置の適正な選択及び使用を徹底
      すること。
    (3) 足踏み操作式から両手押しボタン操作式への切換え
        足踏み操作式プレスの災害が依然多発している中、ポジティブクラッチプレスに限らずフリクシ
      ョンクラッチプレスについても足踏み操作式から両手押しボタン操作式へ切り換えることが重要で
      ある。この切換えのためには、加工物を手で保持しなければならない作業については金型の改善、
      治具台の使用等による改善が必要となるが、これらに関して平成6年7月15日付け基発第459号の2
      「足踏み操作式ポジティブクラッチプレスを両手押しボタン操作式のものに切り換えるためのガイ
      ドラインの策定について」に準拠して足踏み操作式フリクションクラッチプレスの両手押しボタン
      操作式への切換えを積極的に行うこと。
        なお、ポジティブクラッチプレスを両手押しボタン操作式のものに切り換える場合、一般に安全
      距離の確保が困難である場合が多く、この場合には安衛則第131条第2項に基づく措置を講じてい
      るとはいえないことから、手引き式安全装置等を的確に使用しなければならないことに留意するこ
      と。
    (4) プレス機械作業の安全化
        プレス災害の防止のため、プレス機械、安全装置及び関連諸設備の安全化とともに、作業標準を
      作成し、これに基づいた作業を確実に実施すること。この作業標準は、定常作業だけではなく、安
      全点検及び異常時の措置、金型・安全装置の取付け、調整等の非定常作業についても整備すること。
    (5) 適正な金型の使用
        加工時に破損した金型部品の飛散等による災害を防止するため、「プレス機械の金型の安全基準
      に関する技術上の指針」(昭和52年技術上の指針公示第9号)をもとに適正に設計、作製された金
      型を用いるとともに、使用前点検の実施及び金型部品の寿命管理を行うこと。
        また、重量物である金型の交換作業における災害防止のため、金型取扱い作業の省力化等の安全
      対策を実施すること。
    (6) 製造・設置段階の安全確保
        プレス機械、安全装置及び金型のメーカーは、構造規格への適合はもとより、より安全なプレス
      機械等を製造するよう努めるとともに、ユーザーからの補修の依頼に適切に対応できる体制の整備
      を行うよう努めること。
        また、安衛法第88条に基づき、動力プレス機械の設置、変更を行う事業者は労働基準監督署に
      提出する計画の届出を徹底するとともに、各メーカーにおいても計画の届出制度についてユーザー
      へ周知すること。
  3  安全教育
      プレス機械作業従事者の雇入れ時教育、金型の取扱い等の特別教育等法定の安全教育の実施を徹底
    はもとより、経営首脳者に対する安全衛生セミナー、プレス機械作業主任者能力向上教育、プレス機
    械作業従事者に対する安全教育についても積極的に受講すること。
      また、これらの教育は、計画的に実施すること。
  4  自主的安全活動の展開
    (1) 系列企業集団
        一般機械器具製造業、自動車製造業、電気機械器具製造業等のプレス作業を行う系列企業集団に
      おいては、安全協議組織を設置し、関係法令の遵守はもとより、系列企業のプレス作業従事者を含
      めた安全教育の実施等、親企業主導による自主的な安全管理活動を展開すること。
    (2) 中小規模事業場
        中小規模事業場においては、労働安全衛生融資制度、企業集団に対する中小企業安全衛生活動促
      進事業助成制度等の活用を検討するとともに、外部の専門技術の導入を積極的に実施すること。
    (3) プレス災害防止協議会等
        災害防止団体、プレス関係工業会等におけるプレス災害防止協議会等において、特に中小規模事
      業場の参加勧奨を図るとともに、プレス災害事例集・改善事例集の作成、モデル作業標準・安全点
      検マニュアルの作成、自主パトロールの実施等により、構成事業場の自主的な安全管理活動を活性
      化すること。これらの活動は、協議会を構成する事業場だけでなく地域の関係事業場にも波及させ
      るよう努めること。