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石綿による疾病の認定基準の運用上の留意点について

改正履歴
                                     基労補発第0919001号
                                       平成15年9月19日

都道府県労働局労働基準部長 殿

                                  厚生労働省労働基準局
                                      労災補償部補償課長

          石綿による疾病の認定基準の運用上の留意点について

 石綿による疾病の認定基準については、平成15年9月19目付け基発第0919001号(以下「通達」という。)
をもって改正されたところであるが、その具体的運用に当たっては、下記事項に留意されたい。
 なお、改正認定基準のより正確な理解のため、「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する
検討会報告書」を活用するものとする。

                      記

第1 認定基準改正の経緯
  石綿ばく露労働者に発生した疾病の業務上外の認定については、昭和53年10月23日付け基発第584号
 「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(以下「旧認定基準」という。)
 により取り扱ってきたところである。
  しかしながら、石綿による疾病、特に中皮腫については、医学的知見の進歩等により診断技術が格段
 に向上していること、胸膜及び腹膜以外の部位(心膜及び精巣鞘膜)の中皮腫の労災認定事例もあること、
 さらに労災請求件数の増加が予想されるところであり、このような状況へ的確に対応するため、最新の
 医学的知見に基づき、認定基準の改正を行ったものである。
  今回の改正は、これまで本省りん伺事案として個別判断の対象とされていた石綿ばく露作業への従事
 期間の短い労働者に発症した中皮腫並びに胸膜及び腹膜以外の部位に発症した中皮腫に対する、最新の
 医学的知見に基づく認定要件の設定を主として行ったものである。
  今後とも、迅速、適正な労災認定に努めることはいうまでもないが、通達の周知徹底を通じ、石綿に
 よる疾病に対する関係労使、医療関係者等の理解を一層深めることにより、より効率的な事務処理を図
 ることとする。

第2 主な改正点
 1 石綿との関連が明らかな疾病として、旧認定基準には「胸膜又は腹膜の中皮腫」が示されていたが、
  これに「心膜、精巣鞘膜の中皮腫」を追加したこと。

 2 石綿との関連が明らかな疾病として、「良性石綿胸水」及び「びまん性胸膜肥厚」を新たに例示し
  たこと。

 3 石綿ばく露作業については、過去の認定事例等を踏まえて、
  (1) 「倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業」
  (2) 「石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業」
  (3) 「石綿又は石綿製品を直接取扱う作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける可能性のある
    作業」
   等を追加したこと。

 4 中皮腫に係る認定要件のうち、石綿ばく露作業への従事期間を「5年以上」から「1年以上」に短縮
  したこと。

 5 肺がん及び中皮腫の医学的所見に係る要件のうち、石綿ばく露指標として重要な「胸膜プラーク(胸
  膜肥厚斑)」及び「石綿小体又は石綿繊維」をそれぞれ独立させる等の見直しをしたこと。

 6 平成15年4月1日からじん肺法(昭和35年法律第30号)に基づく合併症に「原発性肺がん」が追加され
  たが、石綿肺に合併した原発性肺がんについては、従前のとおり、労働基準法施行規則(昭和22年厚生
  省令第23号)別表第1の2(以下「別表第1の2」という。)第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱う
  ことを明記したこと。

第3 運用上の留意点
 1 「石綿による疾病」について
  ア 通達の記の第1の1の「石綿に幸る疾病」については、現在の医学的知見において、石綿との関連
   が明らかな疾病を掲げたものである。
  イ 通達の記の第1の1の(3)に「心膜、精巣鞘膜の中皮腫」を追加したのは、国内外の症例報告等の集
   積を踏まえたものである。また、ここに掲げた四つの部位以外の部位に中皮腫が発症することは極
   めてまれであり、中皮腫が、ある部分に限局している場合には、その臓器・組織名が診断名とされ
   ることがある。例えば、「腸間膜中皮腫」、「骨盤中皮腫」とされたものであっても、これらはい
   ずれも「腹膜中皮腫」に該当するものである。
    したがって、労災請求された被災労働者の診断書における診断名の記載が、胸膜、腹膜、心膜、
   精巣鞘膜及び胸腹膜(原発部位が胸膜か腹膜のいずれかが不明な場合に記載されることがある。)中
   皮腫と異なる際には、医療機関に対し、その病理組織検査結果等について確認することが必要とな
   る。
  ウ 通達の記の第1の1の(4)の「良性石綿胸水」及び同(5)の「びまん性胸膜肥厚」を新たに例示する
   こととしたのは、胸水が消失せず遷延した場合や、胸水が自然消退した後にびまん性胸膜肥厚を残
   した場合、治療が必要な種々の肺機能障害等を引き起こすことがあるからである。
    なお、「良性石綿胸水」の約半数は胸痛、呼吸困難等の自覚症状がある一方、自覚症状がなく健
   康診断等による胸水で発見される場合がある。いずれの場合も、胸膜中皮腫を鑑別するための精密
   検査が必要となる。
    また、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が壁側胸膜の病変で、臓側胸膜(肺側胸膜)との癒着を伴わない
   のに対して、「びまん性胸膜肥厚」は、臓側胸膜の病変で、壁側胸膜との癒着を伴うものである。

 2 「石綿ばく露作業」について
  (1) 通達の第1の2の「石綿ばく露作業」については、これまで旧認定基準で示されていたものを、過
    去の労災認定事例等をもとに追加、見直しを行うとともに、[1]「石綿原料に関連する作業」、[2]
    「石綿製品の製造工程における作業」、[3]「石綿製品等を取扱う作業」等に分類、整理したもの
    である。
  (2) 中皮腫は、肺がんに比べ、低濃度の石綿ばく露によっても発症することがある。
     特に、石綿を不純物として含有する鉱物等の取扱い作業及び間接的なばく露を受けた可能性のあ
    る作業については、労働者等が、石綿にばく露していたことを認識していない場合があることに留
    意の上、職業ばく露歴の調査に当たること。このような作業に係る労災認定事例として、次のもの
    がある。
    [1] 被災労働者は、石筆を削り、その削った石筆を用いたけがき(鉄板に切断のための線を引く)
      作業に約25年間従事し、その後、「心膜中皮腫」を発症したものである。石筆の原料である当時
      のタルク(滑石)には、石綿が不純物として含有されており、この石筆を削る作業及びけがき作業
      において、石綿のばく露を受けたものである。
    [2] 被災労働者は、玉掛け工として約12年間従事し、その後、「胸膜中皮腫」を発症したものであ
      る。被災労働者は直接石綿を取り扱っていなかったが、玉掛け作業に従事していた造船所内の建
      造船ドッグ、溶接工場等には石綿を取り扱っている現場があったため、そこで間接ばく露を受け
      たものである。

3 石綿による疾病の取扱いについて
 (1) 「石綿肺」
    通達の記の第2の1の石綿肺に合併した疾病について、じん肺法施行規則(昭和35年労働省令第6号)
   第1 条第1号から第5号までとし、同第6号「原発性肺がん」を含めていないのは、石綿肺の所見を有
   する者に発症した「原発性肺がん」については、従前のとおり、別表第1の2第7号7に該当する業務上
   の疾病として取り扱うためであるものである。
 (2) 「肺がん」及び「中皮腫」
   ア 通達の記の第2の2の(1)のア及び同3の(1)のアで「じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が
    第1型以上の石綿肺の所見が得られている」ものについて、石綿ばく露作業の従事期間を要件とし
    ていないのは、次の理由によるものである。
     石綿肺とは、石綿による間質性肺炎・線維症であり、単なる不整形陰影を呈する「じん肺」では
    なく、診断には明確な石綿ばく露歴が不可欠なものである。したがって、石綿肺の臨床診断には、
    高濃度の石綿吸入歴を疑わせるだけの職業歴が必要であり、明らかな職業ばく露歴の証拠となるた
    めである。
     なお、明らかな石綿の職業ばく露歴のない石綿肺様の胸部エックス線所見(下肺野の線状影を主
    とする異常陰影)は、石綿肺以外の疾患が疑われるものである。
   イ 通達の記の第2の2の(1)のイの(ア)及び同3の(1)のイの(ア)の「胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)」に
    ついては、過去(概ね15〜40年前)の石綿ばく露の指標として極めて重要であることから、これを独
    立した要件とし、その具体的確認方法を記載したものである。このうち、胸部CT検査の方が胸部
    エックス線検査よりも検出率は高く、胸壁軟部陰影や肋骨随伴陰影との鑑別も容易である。また、
    胸腔鏡検査、開胸手術及び剖検時に肉眼で観察することができるものである。
   ウ 通達の記の第2の2の(1)のイの(イ)及び同3の(1)のイの(イ)の「石綿小体又は石綿繊維」につい
    ては、「石綿肺の所見」及び「胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)」のいずれもが認められない場合におい
    て、石綿ばく露歴を推定し得る重要な指標である。
     石綿小体の検索は多くの医療機関等で実施可能である。
     また、石綿の職業ばく露の機会があったにもかかわらず、石綿小体が検出されない場合には、分
    析透過型電子顕微鏡による石綿繊維の検索が必要になることもあるが、この分析が実施可能な機関
    は限られていることから、石綿繊維の検索が必要な場合には、本省に照会されたい。
   エ 通達の記の第2の2の(2)及び同3の(2)において、石綿ばく露作業への従事期間に係る要件又は石
    綿ばく露の医学的所見に係る要件(石綿肺の所見のある者を除く。)のどちらか一方が該当しない事
    案を本省協議としたのは、職業ばく露以外の石綿ばく露の有無の確認等業務上外の判断に当たって、
    より慎重な判断を要するためである。
 (3) 「良性石綿胸水」及び「びまん性胸膜肥厚」
    通達第2の4の「良性石綿胸水」及び「びまん性胸膜肥厚」について、その取扱いを本省協議とした
   のは、確定診断が困難な場合が多く、その報告例も少ないこと、個々の障害の程度も様々であること
   等から、当分の間、個々の事案ごとに業務上外を判断する必要があるためである。
    なお、石綿ばく露以外の事由によっても、胸水及びびまん性胸膜肥厚が発生する可能性もあること
   から、これらを除外するための診断の有無を医療機関に確認すること。

4 認定基準に掲げられていない疾病の取扱い
  通達第1の1の「石綿による疾病」に掲げられたもの以外の疾病については、現在の医学的知見において、
 石綿ばく露との関連は明らかにされていないので、原則として労災補償の対象とならない。
  しかしながら、石綿ばく露作業への従事歴及び石綿ばく露の証拠となる医学的所見(石綿肺、胸膜プラー
 ク、石綿小体又は石綿繊維)が認められる事案であって、通達の記の第1の1に掲げられたもの以外の疾病
 を発症したとされる事案については、本省に照会されたい。

5 認定基準め周知徹底等について
 (1) 認定基準の周知
    改正された認定基準については、関係労働者(離職した労働者を含む。)及び事業者への周知はもと
   より、医療機関への周知についても行う必要がある。
    医療機関への周知に当たっては、労災指定医療機関のみならず、すべての医療機関に対する周知を
   行うため、都道府県医師会、都道府県産業保健推進センター、地域産業保健センター等との連携を図
   ること。
    また、離職した労働者への周知に当たっては、市町村広報紙等の活用、労働安全衛生法第67条に基
   づく健康管理手帳による健康診断を実施する委託医療機関への協力要請に配意すること。
 (2) 石綿ばく露チェック表の活用
    主治医の診断時においセ職業歴の聞き取り等適切な問診の実施を促進するため、医療機関に対して、
   別添「石綿ばく露歴チェック表」の活用についても併せて周知されたい。