第12次労働災害防止計画の推進について

基発0225第4号
平成25年2月25日
都道府県労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長

第12次労働災害防止計画の推進について

 平成25年度を初年度とする第12次の労働災害防止計画(以下「12次防」という。)の策定については、平
成25年2月25日付け厚生労働省発基安第1号により、厚生労働事務次官から通達されたところである。
 12次防は、今後5年間にわたる労働災害防止対策を進めるために、中長期的な視点から、国が重点的に
取り組むべき対策を示したものであるので、貴職におかれては、下記の事項に留意の上、その効果的な推
進を図られたい。
1 12次防について
 (1) 12次防の考え方
   これまで5年ごとに策定してきた労働災害防止計画では、過去の社会情勢や労働災害発生状況を踏ま
  えて、中長期的な視点から、5年間に国が自ら取り組むべき施策及び事業者等において取り組むことが
  求められる事項について、重点を定めつつも網羅的に示してきた。
   12次防では、労働災害が平成22年から平成24年にかけて3年連続で前年に比べ増加する見込みという
  厳しい情勢下にある一方で、行政の減量、効率化が求められる中、限られた資源を最も合理的、効率
  的に配分し、労働災害防止対策を効果的なものとするため、重点対象や対策手法を絞り込み、国が重
  点として優先的に取り組む事項を明確化した。また、絞り込んだ重点対策ごとに、取組の成果が評価
  できるよう、具体的な数値目標を設定した。
   さらに、行政による事業者に対する直接的指導だけで十分な効果を得ることは難しいため、専門家
  や労働災害防止団体などの外部資源の活用、個別企業の労働環境水準の評価や公表など企業自らが安
  全衛生対策に取り組むインセンティブを高めるための仕組みづくり、発注者、製造者等の上流の段階
  での対策にも重点を置いた。
 (2) 目標設定について
   重点業種別の目標では、労働災害件数を減少させるための重点業種(小売業、社会福祉施設、飲食店、
  陸上貨物運送事業)は死傷者数を目標の指標とし、重篤度の高い労働災害を減少させるための重点業種
  (建設業、製造業)は死亡者数を目標の指標とした。なお、最も大幅に労働災害が増加している社会福
  祉施設は、雇用者数の大幅な増加を考慮した目標数値として10%以上の減少という全体目標よりも低
  い数値としたところであるが、雇用者の増加による影響を排除した場合には25%以上の減少に相当す
  る水準であるので、社会福祉施設の事業者に対しては、雇用者数に変動がない場合には25%以上の減
  少に相当する旨を合わせて説明するなど、10%という数値が一人歩きすることのないよう、配慮する
  こと。また、熱中症の目標は、気象条件の影響が大きいことから、単年の数値を比較した目標ではなく、
  5年間の合計値を比較した目標とした。
 (3) 労働災害統計について
   労働災害統計については、これまで対外的な公表統計として、主に労災給付データに基づく数値を
  用いてきたが、労働者死傷病報告に基づくデータの集積が進んだため、12次防では、労働者死傷病報
  告に基づく数値を用いて、労働災害動向の分析、目標の設定等を行った。また、今後の対外的な公表
  統計でも、労働者死傷病報告を用いる予定であるので、各局におかれては了知いただきたい。
   ただし、労働者死傷病報告のデータは平成11年以降に限られるため、平成10年以前の労働災害統計
  については引き続き労災給付データを用いることとする。
 (4) 計画の評価について
   これまでの労働災害防止計画は、計画最終年度に、計画に基づく4年目までの取組の実施状況や得ら
  れた成果を検証、評価し、その結果を踏まえて次の労働災害防止計画の策定につなげてきたが、12次
  防では、着実に取組の推進を図るため、計画に基づく取組の実施状況及び得られた成果について、毎
  年1回、検証、評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告することとした。
   また、評価に際しては、機械的に目標値の達成の成否を判定するのではなく、計画に基づく取組の
  効果のほか、雇用者数の増減などの社会経済の変化も含め、背景要因を分析し、総合的に評価を行う
  こととした。
 (5) 重点施策ごとの留意事項
   12次防では重点対策として6つの柱を掲げており、それぞれについての留意事項は以下のとおりであ
  る。
 ア 労働災害、業務上疾病発生状況の変化に合わせた対策の重点化
 (ア) 重点とする業種対策
   ・第三次産業
     第三次産業は、労働災害全体に占める割合が増加し、減少の傾向が見られないことから、12次
    防の重点業種として位置づけ、その中でも特に労働災害発生件数の多い小売業、社会福祉施設、
    飲食店を最重点対象としたこと。なお、小売業は規模の小さい事業場が多く、業種も多種多様で
    あるため、限られた行政資源を効果的に投入する観点から、まずは大規模店舗、多店舗展開企業
    を重点として取組を進めることとしたこと。
     第三次産業のうち、労働安全衛生法令上で安全管理体制の整備が求められていない業種では、
    安全担当者が明確に定まっていないため各種指導が十分に浸透しない例もあり、業種の実態に即
    した安全衛生体制について検討することとしたこと。
   ・陸上貨物運送事業
     陸上貨物運送事業は、これまで交通労働災害対策及び荷役作業中の災害対策に取り組んできた
    が、労働災害全体の7割を占める荷役作業中の災害件数には減少の傾向が見られないため、荷役作
    業中の労働災害防止に重点を絞り、国土交通省とも連携しながら、対策を強化することとしたこと。
   ・建設業
     建設業は、長期的には大幅に労働災害が減少してきたものの、平成23年以降、労働災害に増加
    の傾向がみられていること、東日本大震災の復旧・復興工事が今後本格化すること、今年1月に閣
    議決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」において、インフラの老朽化対策、事前防
    災・減災対策を強化することとされていること等から、人材が不足する中での建設需要の増加に
    より、人材の質の維持や現場管理に支障を来すことが懸念されるため、重点業種として取り組む
    こととしたこと。
   ・製造業
     製造業は、長期的には大幅に労働災害が減少してきたものの、依然として死亡災害等の重篤な
    災害が多く発生しているため、12次防でも重点業種として取り組むこととしたこと。ただし、限
    られた行政資源の合理的、効率的配分の観点から、製造業対策については労働災害防止に専門的
    なノウハウを有する中央労働災害防止協会との連携を強化することとし、地域の状況に応じて、
    各労働局の製造業に対する指導に中央労働災害防止協会の活動を活用できるよう、新たな補助金
    を設けることとしたこと。
 (イ) 重点とする健康確保・職業性疾病対策
   ・メンタルヘルス対策
     事業場におけるストレスチェックは、労働者のストレスへの気づきを促す観点から有効である
    ため、その推進を図ることとしたこと。また、メンタルヘルス不調の原因となるリスクを低減さ
    せるため、リスクアセスメントの手法を参考に、職場の過度なストレスの要因となるリスクを特
    定、評価し、必要な措置を講じる新たな手法を検討することとしたこと。
   ・化学物質による健康障害防止対策
     印刷業における胆管がんの集団発生を踏まえ、有害性情報の集約、有害性評価の加速等、がん
    対策の強化を重点として進めることとしたこと。
   ・腰痛予防対策
     災害全体に占める腰痛の割合が極めて高く、かつ増加率も高い社会福祉施設が最重点であるた
    め、目標は社会福祉施設の目標と同一としたこと。ただし、依然として腰痛災害が多発している
    小売業及び陸上貨物運送事業に対しては、社会福祉施設と同様に、雇入れ時の教育に腰痛予防対
    策を盛り込むことを促進することとしたこと。
 イ 行政、労働災害防止団体、業界団体等の連携・協働による労働災害防止の取組み
 (ア) 専門家と労働災害防止団体の活用
     安全衛生分野の専門的・技術的な業務について、専門家の活用方策を検討することとしたこと。
 (イ) 安全衛生管理に関する外部専門機関の育成と活用
     安全衛生管理の実効性を高めるため、産業医等で構成される産業保健機関の質の向上を図ると
    ともに、小規模事業場など、安全衛生に関する専門知識を有する人材を育成することが困難な場
    合に、労働安全・衛生コンサルタント等の安全衛生管理の専門家を有する外部機関が、当該事業
    場の安全衛生管理を一定程度担うような新たな仕組みについて検討することとしたこと。
 ウ 社会、企業、労働者の安全・健康に対する意識改革の促進
 (ア) 労働環境水準の高い業界・企業の積極的公表
     企業が自ら安全衛生への取組を進めるインセンティブを高めるため、企業の安全衛生を中心と
    する労働環境水準を客観的指標で評価できるような手法を開発し、民間の自主的な取組として、
    評価結果を公表する仕組みの検討を進めることとしたこと。
 (イ) 重大な労働災害を発生させ改善がみられない企業への対応
     法令違反によって労働災害を繰り返して発生させたにもかかわらず、労働環境を改善しないよ
    うな企業については、労働安全衛生法に基づく罰則とは別に、企業名公表等を含む新たな仕組み
    を設けることについて検討することとしたこと。
 (ウ) 労働災害防止に向けた国民全体の安全・健康意識の高揚、危険感受性の向上
     大学における安全衛生教育について、企業からのニーズもあることから、大学の協力も得て大
    学への安全衛生教育の取り入れ方策を検討することとしたこと。
 エ 発注者、製造者、施設等の管理者による取組強化
 (ア) 発注者等による安全衛生への取組強化
     外部委託等により安全衛生上の責任が曖昧になり、過度に安価な発注により、安全衛生対策に
    必要な経費が確保できなくなるようなことがないよう、また、受託者が危険有害要因に関する情
    報や危険有害要因に関する対策権限を持たないまま受託業務を行うことにならないよう、建設業・
    造船業や構内下請け以外についても、発注者による取組を強化することとしたこと。
 (イ) 製造段階での機械の安全対策の強化
     機械設備の本質安全化を促進するため、これまで進めてきた設計・製造段階及び改造時におけ
    るリスクアセスメント等の措置の強化を図るとともに、機械の重大な欠陥により重篤な労働災害
    が発生し、販売先が特定できないような場合に、同種災害の再発防止を図るため、機械災害の内
    容や製造者名等を公表することにより、製造者による機械の回収・改善が促進される制度につい
    て検討することとしたこと。

2 都道府県労働局における取組について
 (1) 12次防を踏まえた計画の策定
   都道府県労働局においては、12次防を踏まえ、以下に留意の上、労働局ごとの労働災害防止に関す
  る5か年計画(以下「推進計画」という。)を今年度内を目処に策定し、その写しを本省安全衛生部計画
  課あて提出すること。
   なお、推進計画は、労働局にとって主要な対策を定める中期計画であることから、12次防に掲げら
  れていない対策であっても、粉じん障害防止総合対策など、各労働局が別途策定する中期計画がある
  場合には、推進計画に位置づけること。
 ア 目標設定について
   死亡者数及び死傷者数の目標は、各局のこれまでの労働災害発生状況などを踏まえて、平成20年と
   比較して、平成32年(2020年)までに3割減の達成を念頭に置いた目標を設定すること。なお、重点業
  種ごとの数値目標も、同様に設定することが望ましいが、災害件数が少ないなど、数値目標の設定が
  困難な業種については設定しなくても差し支えないこと。
   メンタルヘルス対策、化学物質対策の目標など業務統計で把握できない目標については、都道府県
  別のデータが把握できないため、各局において一律に数値目標を設定する必要はないが、数値目標を
  設定しない場合には、可能な限り、対策の実施状況を定量的な指標(指導を行った事業場数、独自に行
  った各種調査等)を含めて整理し、業務計画の年度ごと等の見直しに資することができるようにするこ
  と。
 イ 重点とする業種について
   12次防では重点とする業種を絞り込んでいるので、推進計画においても、12次防の趣旨を踏まえつ
  つ、各局管内の実情に応じて重点業種を絞り込むこと。
 ウ 重点とする健康確保・職業性疾病対策について
   推進計画においても、12次防と同じ対策を重点として盛り込むことが望ましいが、各局の状況に応
  じて、重点とすべき対策を選択しても差し支えない。また、各局の状況を踏まえて他の対策を重点に
  加えても差し支えない。
 エ 東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた対応
   原則として、東日本大震災の復旧・復興工事対策は岩手労働局、宮城労働局、福島労働局、原子力
  発電所事故対策は福島労働局、除染特別地域等における除染、復旧・復興作業での放射線障害防止対
  策は岩手労働局、宮城労働局、福島労働局、茨城労働局、栃木労働局、群馬労働局、埼玉労働局、千
  葉労働局において、推進計画に重点として盛り込むこと。なお、その他の労働局においても、必要に
  応じ盛り込んで差し支えない。
 (2) 計画の評価
   1(4)にあるとおり、本省では毎年1回、計画に基づく対策の実施状況及び得られた成果について、評
  価、検証を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告する予定にしているので、各労働局において
  も、それを念頭に対策の実施、成果の把握を進めること。
 (3) 業界団体、都道府県との連携、労働災害防止団体の活用
   対策を進める上で、業界団体と密接な連携を図るべきことはいうまでもないが、重点対策のうち、
  社会福祉施設に対する取組、建設工事発注者対策、アスベストばく露防止対策、熱中症対策、受動喫
  煙防止対策などは、都道府県や市町村との連携も重要であることから、対策の推進に当たっては留意
  すること。
   各種対策を進める上では、労働災害防止団体との連携を図ること。特に製造業対策については、1
  (5)ア(ア)にあるとおり、中央労働災害防止協会に対する補助金により、集団指導や個別指導を行う事
  業を予定していることから、対象事業場の選定も含め中央労働災害防止協会の各地区の安全衛生サー
  ビスセンターとの連携を密にし、その積極的活用を図ること。
 (4) 広報
   12次防の普及を図るため、図表等を盛り込んだパンフレットやパワーポイントの資料を本省で作成
  する予定なので、活用すること。
   また、各種取組の広報に際しては、新聞広告やパンフレット等の配布だけでなく、インターネット
  公告、テレビ取材、経済関連雑誌など、各種メディアの積極的な活用を図ること。




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