「林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン」の解説
(令和2年1月31日 基発0131第4号により廃止)

  本解説は、「林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン」の趣旨、運用上の
留意事項、内容の説明を記したものである。
「1  目的」について
  林業の伐木等の作業は、通常複数の労働者からなる作業班を編成して行われるが、班内の各労働者が同
一の場所で作業を行うことは少なく、各労働者は100メートルからときには数100メートル離れて一人で
作業を行い、しかも短時間で作業場所を移動することが多いため、作業中に労働災害が発生した場合被災
労働者の発見が相当遅れ、被害を大きくさせてしまうケースが少なくない。
  また、一般に林業の作業を行う現場は市街地から遠く離れており、交通が不便でかつ電気通信事業者が
提供する一般の電話も近くになく、加えて移動電話のサービスエリアの範囲外であることが多いため、労
働災害が発生した場合に、即時に消防機関等救急機関に連絡することは困難であり、しかも、救急車が災
害発生場所へ到着するのに相当な時間を要することが多いことから、さらに被害を大きくさせてしまうこ
ととなる。
  本ガイドラインは、このような林業の作業の実状を踏まえて、作業現場における連絡体制、労働災害発
生時における作業現場から事業場の事務所、消防機関等救急機関等への連絡体制の整備・確立等を促進す
ることにより、労働災害が発生した場合の早期発見及び被災労働者の早急な救護を図ることとしたもので
ある。
  なお、このような連絡体制の整備等により、作業中の関係者間での連絡調整が円滑に行われ、労働災害
の未然防止を図ることも期待できるのものである。
「3  緊急時における連絡体制等の整備」について
  (1)  緊急時における連絡の方法等について
      イ  作業中の労働者相互の連絡の方法としては、声による方法、呼び子による方法、トランシーバ
        ーによる方法などがあること。
      ロ  労働災害発生時における連絡の方法の例としては、別紙に示すものがあること。

別紙
      ハ  関係労働者への周知については、7の教育訓練によるほか、事業場の事務所、作業現場の休憩
        場所に掲示する等の方法があること。
      ニ  (1)のロの「山土場」とは、伐木、集材の作業において伐採木をいったん集積する林道に隣接
        した場所であり、自動車が入れる最も作業現場に近い地点である。
  (2)  通信機器の種類等について
        電気通信事業者が提供する有線による一般の電話が使用できない場合の通信手段としては、[1]
      移動電話、[2]無線通信、[3]集材装置用電話などがあるが、その概要は次のとおりであること。
      イ  電気通信事業者がそのサービスを提供する移動電話には携帯無線電話及び自動車無線電話があ
        り、そのサービスエリアは都市部が中心で、人口比率で90%以上をカバーしているが、多くの
        山間部はサービスエリア外であるので、伐木等の作業場所や山土場等においては使用が不可能で
        あることが多いこと。
      ロ  無線通信には次表のものがあるが、通信距離を確保しようとすればするほど機材の重量が増加
        するとともに消費電力も増加すること。また、各種業務用無線局の開設には、無線従事者免許を
        有する者の配置や地方電波管理局から無線局の免許を受けることが必要であること。
      ハ  集材装置用電話は、装置の運転席と荷かけ作業場所との間に設けられた有線又は無線のインタ
        ーホンであり、荷かけ作業場所やその付近の作業場所と山土場との連絡手段の一部として活用す
        ることが可能であること。
          なお、無線機の配備については、林野庁所管の林業改善資金の貸付対象とされており、また、
        林業構造改善事業の助成対象となっていること。
  (4)  連絡責任者の選任について
        連絡責任者は緊急時において連絡等の指揮をとる者であるので、作業全体の指揮をとる作業班の
      責任者を連絡責任者に選任しておくことが望ましいものであること。
        また、連絡責任者は作業現場を離れるような場合には連絡責任者に代わってその職務を行う者を
      指名し、緊急時の指揮をとる者を明らかにしておくこと。
種類 概要 無線局開局免許 有資格者による操作 通信範囲
特定小電力無線局(特定小電力トランシーバー) 出力0.01W以下であって、指定された呼出符号を自動的に送受信するもので、技術基準適合証明を受けた設備を使用するもの 不要 不要 200m〜2km
簡易無線局 型式検定に合格した設備又は技術基準適合証明を受けた設備を使用するもので、一定の周波数帯及び出力 簡易な手続き 不要 2〜6km
各種業務用無線局 種々 要(ただし、陸上移動局及び携帯局の通信操作は除外) 50km以上に及ぶことがある谷間との交信は困難
「4  作業開始前の連絡の方法の確認等」について
  (1)  最寄りの電話の設置位置について
        通常、山土場等から事業場の事務所等には、業務用無線でなければ無線連絡することは困難であ
      り、作業を行う場所の地形によってはこの方法によっても通信できない場合がある。このため、山
      土場等から自動車等により一番近い民家等に行き、その電話を借り、連絡しなければならない場合
      もあるので、あらかじめ確実にその位置を把握しておく必要があること。
  (2)  木材の運搬に使用するトラックに搭載されている通信連絡設備について
        通常、集材した木材は山土場でトラックに積み運搬するが、業務用無線を搭載したトラックもあ
      り、これを借用し、運送会社に連絡をとり、そこから事業場の事務所、消防機関等救急機関等への
      連絡を要請することも有効な方法であること。
  (3)  無線機器等の通信機器の点検について
        無線機器等の通信機器には、充電可能な電池が使用されることが一般的であるので、常に通信機
      器を使用可能な状態にしておくために、その充電状態を確認する必要があること。
        また、電池は繰り返し使用や経年によりその性能が大きく劣化することに留意する必要があるこ
      と。
「5  作業現場における安全の確認等」について
  (1)  無線機器による通信が可能な位置の確認について
        無線機器による通信が可能な距離は、無線機器の出力だけではなく、地形等に大きく影響される
      ことから、あらかじめ通信を試行し、通信が可能である位置がどこであるかを確認しておくことが
      重要であること。
  (2)  作業場所における労働者相互の安全の確認について
      イ  あらかじめ、各労働者がどこでどのような作業を行うか等の作業配置、作業内容について明確
        にしておくこと。
      ロ  連絡責任者は、労働者に対し、定時に又は異常を発見したとき、他の労働者から異常の発生の
        可能性について指摘があったとき等に労働者相互の連絡を行い安全の確認を行うよう指示するこ
        とにより、労働者全員の安全を確認しておくようにする必要があること。
      ハ  作業場所における労働者相互の安全の確認の方法としては次のようなものがあること。
        (イ)  声の届く場所に行き、他の労働者に呼びかけ、応答があることを確認すること。
        (ロ)  定められた時刻にすべてのチェーンソーを停止させ、あらかじめ定められた手順により呼
            び子で各労働者に呼びかけ、呼び子による応答があることを確認するおと。
        (ハ)  トランシーバーを使用し、呼びかけて応答があることを確認すること。
      ニ  各労働者にトランシーバーを携帯させている場合には、労働者が被災したときはそのトランシ
        ーバーにより被災者本人から連絡することが可能と考えられるが、トランシーバーを身に付けて
        いない状態で労働災害に被災したとき又は身に付けていてもその操作が不可能となる程度に被災
        したときは、被災労働者が労働災害の発生を連絡することが不可能となることに留意しておく必
        要があること。
「6  労働災害発生時等の連絡等」について
  (1)  労働災害発生時における事業場の事務所、消防機関等救急機関等への連絡については、原則とし
      て、適切に状況判断ができる連絡責任者に行わせることとしているが、これは緊急を要するもので
      あるので、連絡責任者に限らずその状況に応じて他の者が行うことも考えられるものであること。
  (2)  救急車の運転者が山土場等へ進入するに当たっては目標となるものが少ないことから、必要に応
      じ公道上等のわかりやすい目標のある位置で救急車を迎えるようにすること。また、あらかじめ、
      救急車の進入の際に目標となるものを確認しておくことが望ましいこと。
  (3)  早急な治療が必要な場合には、救急車の到着を待たずに、マイクロバス等により被災労働者の移
      送を始め、途中で救急車に移し換えること。このため、常にマイクロバス等を使用可能な状態にし
      ておく必要があること。
「7  教育訓練の実施」について
  (1)  (1)の「通信機器の機能」には、地形に応じた交信可能な距離の目安、無線機器の使用可能時間等
      が含まれること。
  (2)  (3)から(6)までの教育訓練の項目については、実際に作業を行う現場において訓練を行うことが
      望ましいものであること。
  (3)  被災労働者の早急な救護を図るためには、労働災害発生時にいかに早く消防機関等救急機関に連
      絡するかがポイントであり、このためには各労働者が必要な知識を持ち、相互に連携することが不
      可欠であることから、連絡責任者をはじめ関係労働者に教育訓練を繰り返し行うことが極めて重要
      であること。


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