特定化学物質等障害予防規則の施行について

昭和47年9月18日
基発第591号
都道府県労働基準局長 殿
労働省労働基準局長

特定化学物質等障害予防規則の施行について

 労働安全衛生法(昭和四七年法律第五七号。以下「法」という。)および労働安全衛生法施行令(昭和四
七年政令第三一八号。以下「令」という。)の規定に基づき、特定化学物質等障害予防規則(昭和四七年労
働省令第三九号。以下「特化則」という。)は、昭和四七年九月公布され、同年一〇月一日からその大部
分の規定が施行されることとなつた。
 今回のこの規定の制定は、およびの施行に伴い、従来の特定化学物質等障害予防規則(昭和四六年
労働省令第一一号。以下「旧規則」という。)の内容に検討を加えるとともに、一定の有害物についての
製造等の禁止、製造の許可および流通段階における有害表示の規制等を新たに規制し、健康障害の防止の
充実を期することとしたものである。
 ついては、今回の制定の趣旨を十分に理解し、関係者への周知徹底をはかるとともに、とくに下記事項
に留意して、その運用に遺憾のないようにされたい。
 なお、旧規則における通達は、特化則にこれに相当する規定があるものについては、当該規定に関して
出されたものとして取り扱うこと。
T 旧規則との主な相違
一 有害物の製造等禁止及び製造等許可の制度が法により新設されたことに伴い、規制対象物質の分類を
 整理し、新たに「許可物質」の分類が設けられる等旧規則の第一類物質を中心にその分類が改められた
 こと。
二 第二類物質にコールタールが追加されたこと。
  なお、労働省告示において、コールタールの抑制濃度が新たに定められるとともに、水銀の抑制濃度
 の値が改められたこと(第二条及び第七条第二項関係)。
三 特定第一類物質を製造する事業場において、特定第一類物質を計量し、容器に入れ、又は袋詰めする
 作業を行なう場合であつて遠隔操作等によることが著しく困難であるときは、事業者は一定の型式の局
 所排気装置及び除じん装置を設置すべきことが定められたこと(第三条及び第九条関係)。
四 許可物質を使用する一定の作業について、事業者は、局所排気装置及び除じん装置を設置すべきこと
 が定められたこと(第四条及び第九条関係)。
五 局所排気装置に設置すべき排気ガス処理装置に係る処理方式について、一部追加して定められたこと
 (第一〇条関係)。
六 事業者は、特定化学物質等作業主任者技能講習を修了した者のうちから特定化学物質等作業主任者を
 選任しなければならないと定められたこと(第二七条関係)。
七 試験研究のために令第一六条第一項の製造等禁止物質を製造しようとする場合等における手続き及び
 製造等の際従うべき基準について定められたこと(第四六条及び第四七条関係)。
八 令第一七条の製造許可物質を、製造しようとする者が受けるべき許可の単位及び手続並びに許可に際
 して適合していなければならない基準が、試験研究機関で製造しようとする場合と工場で製造しようと
 する場合とに区分して規定されたこと(第四八条〜第五〇条関係)。
九 特定化学物質等その他この省令に規定する物に係る事業場を設置し、移転し、又は主要構造部分を変
 更しようとする場合の事前の届出について規定したこと(第五二条関係)。
U 細部事項
一 第二条関係
 (一) 第一号の「第一類物質」は、旧規則の第一類物質のうちのベンジジン及びその塩を除いた物とさ
  れたこと。
 (二) 第二号の「許可物質」は、第一類物質のうち法第五六条に基づく製造許可を要する物で、ジクロ
  ルベンジジン、アルフアーナフチルアミン、オルトートリジン、ジアニシジンおよびこれらの塩並び
  にこれらの物をその重量の一%をこえて含有する製剤その他の物とされたこと。
 (三) 第三号の「特定第一類物質」は、第一類物質のうち、許可物質以外の物とされ、オーラミン、マ
  ゼンタが該当すること。
 (四) 第四号の「第二類物質」は、旧規則の第二類物質にコールタールが追加されたものとされたこと。
 (五) 第五号の「特定第二類物質」は、旧規則の「第二類物質」と「第三類物質」のいずれにも規制さ
  れていた物質をいい、塩素、シアン化水素、ニツケルカルボニル、弗化水素、硫化水素および硫酸ジ
  メチルが該当すること。
 (六) 第六号の「第三類物質」は、旧規則の「第三類物質」から「特定第二類物質」を除いた物質とさ
  れたこと。
二 第三条関係
 (一) オーラミン又はマゼンタを製造する事業場において、当該物質を容器詰めする等労働者に取り扱
  わせる場合には、原則として当該物質を湿潤な状態なものとするか又は遠隔操作によらなければなら
  ないこととされているが、これらの措置を講ずることが著しく困難なときは、当該作業を作業中の労
  働者の身体に直接接触しない方法により行ない、かつ、当該作業を行なう場所に一定の型式のフード
  を有する局所排気装置を設置すべきことが第三項において定められたこと。
 (二) 第二項の「湿潤な状態のもの」とは、当該物質をスラリー化したもの又は溶媒に溶解させたもの
  をいうものであること。
 (三) 第三項の「囲い式フード」とは、下図に例示するごときもので、作業に支障のない範囲でできる
  かぎり発生源を覆うようにした型式のフードをいうものであること。
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 (四) 第三項の「ブース式フード」とは、下図に例示するごときもので、発生源の周りの側面を壁でで
  きるかぎり囲い、その開口部を作業に支障のない範囲でできるだけ狭くした型式のフードをいうもの
  であること。
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 (五) 第三項の「労働者の身体に直接接触しない方法」とは、製品を入れたホッパーから、スクリュー
  フイダー等により直接収かんする等の方法をいうこと。
三 第四条関係
  本条は、粉状の許可物質を使用して、染料等を製造する事業場において、許可物質を取り扱う労働者
 が、当該物質の粉じんの飛散により汚染することを防止するため、一定の作業を行なうときは、当該作
 業場所に、一定の型式のフードを有する局所排気装置を事業者が設置するよう新たに規定したものであ
 ること。なお、「粉状のもの」とは、当該物質をスラリー化したもの又は溶媒に溶解させたもの以外の
 ものをいうこと。
四 第七条関係
  第二項は、第五条第一項の局所排気装置が備えるべき性能を規定したもので、第三条第三項又は第四
 条の局所排気装置については、適用されないものであること。なお、第三条第三項又は第四条の局所排
 気装置については、その対象物質の特殊性にかんがみ、その粉じんによるばく露を確実に予防できるよ
 うフードの型式を囲い式のもの又はブース式のものとする方法で措置が定められていること。
五 第八条関係
  本条は、第五条第一項の局所排気装置のみならず、新たに追加された第三条第三項および第四条の局
 所排気装置についても、所定の除じん装置を設け、これを有効に稼働させるべきことを定めたものであ
 ること。
六 第一〇条関係
  硫酸ジメチルの処理方法として、従来、直接燃焼方式が採用されてきたが、直接火気を取り扱うこと
 から生ずる危険を防止するため、アンモニア水又は苛性ソーダ液による吸収方式が追加して規定された
 こと。
七 第一二条関係
 (一) 本条は、アルキル水銀化合物の製造装置、収納容器等の清掃、用後処理等に際しアルキル水銀化
  合物を含有する残さいスラッジを廃棄する場合には、分解その他の処理により除毒した後でなければ、
  廃棄してはならないことを規定したものであること。なお、当該残さいスラッジが、廃棄物の処理お
  よび清掃に関する法律施行令(昭和四六年政令第三〇〇号)第六条第二項の廃棄物であって、その埋立
  処分を行なう場合は、同項に規定する埋立処分の基準によって行なわれなければならないことに留意
  すること。
 (二) 「除毒」の方法には、焙(ばい)焼処理、コンクリート固型化等の方法があること。
八 第二七条関係
  昭和四九年九月三〇日までの間は、衛生管理者の免許を受けた者のうちから特定化学物質等作業主任
 者を選任することができることとされていること(附則第五条)。
九 第三〇条関係
 (一) 本条は、法第四五条及び令第一五条第八号の規定により、定期に自主検査を行なわなければなら
  ないこととされた第二九条第一項各号に掲げる装置について検査すべき事項を、装置の種類に応じて
  定めたものであること。
 (二) 第一項第一号ホの「吸気及び排気の能力」については、所定要領によって環気中の有毒物質の濃
  度の測定を実施することによる検査の実施が必要であるが、この方法によることが困難な場合は、局
  所排気装置の性能が確保されている場合の測定位置における制御風速をあらかじめ測定により明らか
  にしておき、検査の場合、風速を測定し、前記風速と比較することにより局所排気装置の性能の有無
  を検査しても差支えないこと。
 (三) 第一項第一号への「必要な事項」とは、ダンパーの調節、排風機の注油状態等をいうこと。
 (四) 第一項第三号ホの「処理能力」については、除じん、排ガス又は排液処理の効果を確保するため
  の測定が必要であること。
 (五) 第一項第三号ヘの「必要な事項」とは、除じん装置等の性能が低下した場合における排気または
  排液の量の調整等を含むこと。
一〇 第三一条関係
 (一) 本条は、旧規則第二三条の規定と同趣旨のものであるが、最近の配管からの漏えい事故の発生に
  鑑み配管のうち、継手部、バルブ等の箇所についての点検について新たに追加規定したものであるこ
  と。
 (二) 第一項第二号ハの「配管に近接して設けられた」とは、例えば、下図に示すごとく有害物用の配
  管の保温用として添管して設けられたものをいうこと。
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一一 第三五条関係
 (一) 本条は、定期自主検査又は点検を行なった結果、異常を認めた場合は、補修等の措置を講ずべき
  ことを規定したものであり、これらの措置が講ぜられない限り当該設備については稼働させてはなら
  ないものであること。
 (二) 「その他の措置」とは、補修には至らない程度のものであって、当該設備の有効稼働を保持する
  ために必要な措置をいうこと。
一二 第四六条関係
 (一) 本条は、法第五五条ただし書の規定により、ベンジジン等製造禁止物質を試験研究のため製造し、
  輸入し、又は使用する場合の手続について規定したものであること。
 (二) 法第五五条ただし書の規定による製造は、試験研究する者が直接行なうべきものであり、他に委
  託して製造することは認められないこと。ただし、輸入にあたり、輸入事務の代行を商社等が行なう
  ことは差支えないが、商社等があらかじめ禁止物質を輸入しておき、試験研究者の要請によって提供
  することは認められず、従って、輸入する場合も試験研究に必要な最小限度の量であることが必要で
  あること。
一三 第四七条関係
  第一項の「作業の性質上著しく困難である場合」とは、禁止物質を製造するにあたって、その量が少
 量であるため、工業的な製造設備を設けることが困難であることから、製造装置の密閉化ができず、手
 動によって操作しなければならない場合をいう。
一四 第四八条関係
 (一) 本条は、法第五六条第一項の規定により行なわれる製造の許可の単位について規定したものであ
  ること。したがって、同一の事業場において、二種類の物質が製造されている場合には、それぞれが
  許可の対象となり、また、一種類の物質について、二系列で製造されている場合にも、それぞれの系
  列別に許可を受けさせる必要があること。
一五 第四九条関係
 (一) 本条は、法第五六条第一項の製造の許可を受けようとする場合の手続等について規定したもので
  あること。
 (二) 法第五六条第一項の製造の許可を受けた者がその工程について、設備等の一部を変更しようとす
  る場合(主要構造部分について変更しようとする場合を除く。)又は作業方法を変更しようとする場合
  には、あらかじめ、次の事項を記載した書面を許可申請書を提出した労働基準監督署長に提出させる
  こと。
  イ 変更の目的
  ロ 変更しようとする機械等又は作業方法
  ハ 変更後の構造又は作業方法
   なお、法第五六条第一項の製造の許可を受けた者が、製造工程を変更しようとする場合、許可物質
  の生産量を増加しようとする場合等においては再び同項の許可を受けさせること。
   また、法第五六条第一項の製造の許可を受けた者が設備等の主要構造部分を変更しようとする場合
  には、法第八八条第一項の規定に基づく第五二条の特定化学設備等設置届を提出させること。
一六 第五〇条関係
 (一) 本条の基準は、製造設備および作業方法について規定したものであり、本条の基準に適合してい
  ないと認められるときは、法第五六条第五項の適合命令により基準に適合させる必要があること。
 (二) 許可物質の製造については、本許可基準のほか、許可基準を除く本則(例えば、第二二条(設備の
  改造等の作業)第二三条(退避等)第二四条(立入禁止)第二五条(容器等)第二七条(作業主任者)等)の適
  用があることに留意すること。
 (三) 第一号の「それ以外の作業場所と隔離し」とは、許可物質の製造に係る作業が行なわれている作
  業場所とそれ以外の作業が行なわれている作業場所との建屋が別棟であるか、又は隔壁をもって区画
  することをいうこと。
 (四) 第二号の「労働者の身体に当該物が直接接触しない方法」とは、各装置間の落差を利用して配管
  により行なうこと、スクリューフィダー又はバケットコンベアなどを用いて機械的に行なうことをい
  うものであること。
 (五) 第四号は、許可物質の製造工程において、許可物質の発散が多いふるい分け機又は真空ろ過機に
  ついて設ける覆(おお)いの構造について規定したものであり、同号の「内部を観察できる構造」とは、
  当該装置の覆(おお)いの一部をガラス又は透明なプラスチックをもって造り、当該場所から内部を観
  察できるような構造をいうこと。また、同号の施錠等の「等」には、当該装置の覆(おお)いを緊結す
  ること等をいうこと。
 (六) 第六号は、許可物質を製造する事業場において、製品を容器詰めする作業等、許可物質を取り扱
  う場合で、湿潤な状態のものとし又は隔離室での遠隔操作によることが著しく困難である場合の措置
  について規定したものであること。なお、「湿潤な状態」「粉状のもの」の解釈については、第三条
  および第四条において解説したところによること。
 (七) 第一四号は、製造設備からサンプリングする場合の措置について規定したものであること。なお、
  サンプリングは、所定位置において、できるだけ風上に位置し、あらかじめ定められた量以上は採取
  しないこと。
 (八) 第二項第三号の「必要な知識を有する者」には、許可物質に関して製造者の衛生を確保するため
  に必要な内容及び時間を以て法第59条第1項(同条第2項で準用する場合を含む。)の安全衛生教育が行
  われた者があること。
一七 第五二条関係
 (一) 本条は、法第八八条第一項の規定により特定化学物質等その他この省令に規定する物に係る設備
  等の設置、移転、変更に係る届出を規定したものであること。
 (二) 第四九条第一項の規定により許可物質を製造するため許可申請をした者は、その限度において設
  置届の届出は必要としないが、許可物質の製造設備で別表第三に掲げる機械等の主要構造部分の変更
  を行なう場合は、本条に基づく変更届の届出が必要であること。


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