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有機過酸化物による爆発災害の防止について

改正履歴


  近年、高分子化学工業などの発展に伴い、有機過酸化物の生産および消費は、急速に増加し、また、新
しい種類の有機過酸化物もつぎつぎに開発されつつあり、そのため、有機過酸化物の製造および取扱中に
おける爆発災害が別紙1のように続発している。
  ついては、有機過酸化物による爆発災害を防止するため、有機過酸化物を製造し、または取り扱う事業
場に対して監督指導を行なう場合には、別紙2の事項に留意のうえ、労働安全衛生規則中の爆発・火災防
止関係規定を遵守させるとともに、とくに下記の事項について指導の徹底を図られたい。
  なお、社団法人日本化学工業協会に対しても別紙3のとおり要望したので、念のため申し添える。

記
1  有機過酸化物を製造し、または取り扱う化学設備の安全確保
  (1)  反応器、分離そう、ろ過器、脱水機、乾燥機、計量器、触媒そうなどは、取り扱う有機過酸化物
      が不活性な溶媒、可塑剤、水などで十分に希釈され、かつ、実験などにより安全であることが確認
      されている場合を除き、周囲を十分な強度を有する防護壁などで囲むか、または防爆式の構造とす
      るとともに、常時労働者が就業する場所から十分な距離をおくこと。
  (2)  できるかぎり遠隔操作による自動制御方式を採用し、かつ、制御室は、有機過酸化物による爆発
      のおそれがある化学設備から十分な距離をおくか、またはその周囲を十分な強度を有する防護壁で
      囲むこと。
  (3)  異常が生じた場合に自動的に作動する緊急冷却装置、緊急排出装置、反応急停止装置などの安全
      装置を設けること。
2  有機過酸化物を取り扱う場合の安全確保
  (1)  有機過酸化物の製造のために使用する原材料および製品である有機過酸化物に金属片、強酸、有
      機物などの有機過酸化物と反応し、またはその分解を促進するような異物が混入しないようにする
      こと。
  (2)  取り扱う器具や容器は、木製、プラスチック製などの軟質性のものを用いるとともに、その使用
      にあたっては、摩擦や衝撃をあたえないこと。
  (3)  器具や容器は、専用のものとし、かつ、常に清浄に保つこと。
  (4)  有機過酸化物は、できるかぎり不活性な炭化水素系の溶媒、ジメチルフタレート、ジブチルフタ
      レートなどの可塑剤、水などで希釈して取り扱うこと。
  (5)  事業場内における有機過酸化物の停滞量は、必要最小限にとどめること。
  (6)  取り扱う場所は、水洗による掃除をしやすい構造とするとともに、常に清浄に保つこと。
  (7)  貯蔵は、次によること。
    イ  貯蔵する場所は、冷暗所とすること。
    ロ  貯蔵する容器は、転倒または落下しないように保持すること。
    ハ  貯蔵設備の周囲は、十分な強度を有する防護壁などで囲むこと。
    ニ  できるかぎり、専用の貯蔵設備に貯蔵すること。
  (8)  輸送は、次によること。
    イ  他の物品と混載しないこと。
    ロ  容器が摩擦、振動、転倒または落下しないようにすること。
    ハ  日光の直射を受けないようにしゃへいすること。
3  有機過酸化物を製造し、または取り扱う化学設備の改造、修理、清掃などを行なう場合の安全確保
    作業を開始する前(これらの作業を下請させる場合を含む。)に、残留有機過酸化物を完全に除去す
  るか、または分解液により安全に処理すること。
4  安全教育
    労働者に対し、原材料、有機過酸化物およびプロセスの危険性について十分な知識をあたえるととも
  に、適切な安全作業標準を定め、その徹底について教育訓練を行なうこと。
5  廃棄物の処理
    有機過酸化物を廃棄する場合は、安全な場所で少しずつ焼却する。分解液を使用して分解させるなど
  の安全な方法によること。
6  下請事業に対する措置
    有機過酸化物を製造し、または取り扱う作業を下請事業に請け負わせる場合には、親企業は、当該下
  請事業が有機過酸化物の取扱いに従事する労働者に対して行なう教育訓練に対し、必要な指導援助を行
  なうこと。

別紙1
災    害    事    例
事例1  メチルエチルケトンパーオキサイドの爆発
  (1)  発生年月  44年6月
  (2)  事業場  有機化学工業
  (3)  被害  重軽傷  12名
             物的損害  約2億円
  (4)  あらまし
        この工場では、この事故の起こる前に、火災事故があったため、作業中止の状態であった。そこ
      で工場長がメチルエチルケトンパーオキサイド製造缶の安全を考えて、ジメチルフタレートを加え、
      希釈して安全化を図ったが、夕方、点検のときに、異臭と白煙が発生しているのを発見し、いそい
      で注水しようとしたが、メチルエチルケトンパーオキサイドが分解爆発を起こした。
        原因は、粗製品中に鉄などの金属が混入し、分解が促進されたものと推定される。
事例2  過酸化ベンゾイルの爆発
  (1)  発生年月  45年8月
  (2)  事業場  有機化学工業
  (3)  被害  重傷  6名  軽傷  3名
  (4)  あらまし
        合成工場で製造した過酸化ベンゾイルのふるい作業をするため、鉄製ホーロー引きのひしゃくで
      鉄製ホーロー引きのバットからすくおうとしたところ、ひしゃくがバットの内側に衝突し、その瞬
      間過酸化ベンゾイルから白煙が立ち昇り、シューッという音を発した。
        このため作業員が危険を感じて避難した直後に、爆発した。
        原因は、ひしゃくとバットのホーローが脱落して錆びた鉄板が露出していたため、ひしゃくがバ
      ットと衝突したときの衝撃、摩擦などにより過酸化ベンゾイルが爆発を起こしたものである。
事例3  過酸化ベンゾイルの爆発
  (1)  発生年月  45年9月
  (2)  事業場  有機化学工業
  (3)  被害  重傷  2名
  (4)  あらまし
        前月末に爆発事故を起こしたため、操業中止中であったが、仕かけ品を処理するため、ステンレ
      ス製の仕込みバットに入った過酸化ベンゾイルに界面活性剤などを加えてからバットを移動させた
      ところ、その瞬間バットから白煙が立ち昇って爆発した。
        原因は、金属製の容器を使用していたため、バットを移動させた際の衝撃、摩擦などにより過酸
      化ベンゾイルが爆発したものと推定される。
事例4  ターシャリブチルパーアセテートの爆発
  (1)  発生年月  46年6月
  (2)  事業場  有機化学工業
  (3)  被害  死亡  4名
  (4)  あらまし
        ターシャリブチルパーアセテートの合成反応が終了したので、後処理(製品の精製、希釈など)
      の作業にとりかかっていたところ、突然爆発した。
        原因などについては、現在調査中である。

別紙2
有機過酸化物の性質、種類および用途
1  有機過酸化物の一般的性質
    有機過酸化物とは、過酸化水素(H22、構造式H−O−O−H)の誘導体とみなされ、化学構造上
  必ず酸素と酸素との結合(−O−O−)を持っているか、この酸素と酸素の結合力は弱く、非常に分解
  しやすい特性を持っている。
    主な性質をあげると、次のとおりである。
  (1)  強い酸化作用を有する。
  (2)  熱、光によって分解する。
  (3)  加熱、衝撃、摩擦などによって爆発を起こしやすい。
2  主な有機過酸化物の種類と用途(表)
別紙3
有機過酸化物による爆発災害の防止について
昭和46年6月25日基発第455号の2
(社)日本化学工業協会会長中司清あて  労働省労働基準局長
  近年、高分子化学工業などの発展に伴い、有機過酸化物の生産量および消費量は、急激な増加を示し、
また、新しい種類の有機過酸化物も開発されつつあることは、ご承知のとおりであります。
  このような状況のなかで、最近、有機過酸化物を製造し、または取り扱う事業場において、有機過酸化
物による爆発災害が、別紙のように続発する傾向が認められることは、まことに憂慮にたえないところで
あります。
  ついては、貴協会傘下の有機過酸化物の製造または取扱いに関係する団体および事業場に対し、有機過
酸化物による爆発災害の防止に万全を期すよう下記の事項について徹底されるとともに、所要の指導援助
措置をとられるよう要望します。
記
  (基発第455号の記におなじ)