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移動式クレーンを使用して行うくい抜き作業における安全対策について

改正履歴


  近年、トラッククレーン、クローラクレーン等移動式クレーンを使用して、そのフックに引き抜き用ク
ランプ等をつり下げ、直接くいを引き抜くいわゆる「素抜き作業」が多くみられるところである。
  しかしながら、当該作業においては、作業時における引き抜き力が当該移動式クレーンの構造上定めら
れた定格荷重を超えることにより、旋回サークル取り付けボルトの疲労が急速に進み、作業中に当該ボル
トが切断して機体が倒壊する等の重篤な災害がしばしば発生している(別添の災害事例参照)。
  このような災害を防止するため、移動式クレーンをくいの素抜き作業に用いる場合においてもクレーン
等安全規則が適用されること(昭和43年2月5日付け安収第7号を参照。)に留意し、過負荷の制限に関
する同規則第69条をさらに徹底させることとされたい。
  また、移動式クレーンのくいの素抜き作業への使用はその本来の用途から逸脱したものであり、衝撃荷
重等により、移動式クレーンの構造部分等に不測の障害を発生させるおそれがあることにかんがみ、今後
くいの素抜き作業に当たっては可能な限り振動式くい抜機等の専用のくい抜機を使用させるよう指導し、
やむを得ず移動式クレーンをくいの素抜き作業に用いる場合、事業者に対し、下記の事項に留意するよう
徹底させ、かつ、当該移動式クレーンの使用検査、性能検査等の際に下記3の実施状況につき確認するこ
ととされたい。

記
1  くいの素抜き作業においては、移動式クレーンにその定格荷重を超える荷重がかからないよう、くい
  の引き抜き力に対し十分な能力を有する移動式クレーンを用いるとともに、作業中は過負荷防止装置
  (移動式クレーン構造規格第27条ただし書の移動式クレーン及び同構造規格附則第3項に規定する移動
  式クレーン(昭和52年1月1日において現に製造されており、又は現に存していた移動式クレーン)に
  あっては過負荷を防止するための装置(同構造規格第28条第1項に規定する安全弁を除く。)を含む。)
  を有効に機能させること。
2  くいの引き抜きが困難になった場合に行われがちである、ウインチを操作して移動式クレーンを転倒
  する直前まで傾けたのちウインチを一旦緩め、再び巻き上げるといった操作を行い、その反動を利用し、
  くいを抜く作業(いわゆるテッピング作業)はいうまでもなく過大な負荷が生ずるものであるので、こ
  れを禁止する。
3  くいの素抜き作業に使用したことのある移動式クレーン(くいの素抜き作業に最後に使用した日以降
  に本通達に基づき定期自主検査を行ったことのあるものを除く。)の定期自主検査に当たっては、特に
  旋回サークル取付けボルトの脱落、ゆるみ等を点検するとともに、引っ張り応力が比較的大きくかかる
  箇所(例、トラッククレーンにおける旋回サークルのキヤリヤ前方側)のボルト等をカラーチェック等
  により点検し、き裂等がある場合は全周のボルト等を交換すること。
4  移動式クレーンを設置する者にあっては、くいの素抜き作業に使用される移動式クレーンについて、
  作業記録を作成し、くいの素抜き作業に使用した日及びその使用時間を記入するとともに、定期自主検
  査を移動式クレーンに係る検査業者に依頼する際にはこれが検査実施に当たっての参考に資するため当
  該作業記録を提出すること。

別添1

災  害  事  例

  下水道工事において、下水道管埋設後の、路盤砕石及び砂により地表より2.4m履工された現場で、土
止め支保工用のU型鋼矢板(寸法400mm×100mm×(厚さ)10.5mm、長さ6.5mで6.4mまで埋設されている。)
に引き抜き用クランプをチャッキングし、つり上げ荷重45tのトラッククレーンのフックに当該クランプ
の取付けワイヤロープを掛け、直接くいを引き抜く作業を行ったところ、当該クレーンの旋回サークル取
付けボルトが切断したため、上部旋回体が倒壊し、移動式クレーンの運転士がその下敷きとなり死亡した
ものである。
  当該作業は、過負荷防止装置の自動停止用スイッチを解除して行われていた。
  なお、取り付けボルトの切断は、下図※印の取り付けボルトのうちいずれかから始まり、倒壊とともに
全数の切断に至ったものと推定される。