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石油化学コンビナート等における爆発災害の防止について

改正履歴


                                                                          基発第694号の2
                                                                         平成5年12月16日
																																				 
  標記については、従前からその徹底を図ってきたところであるが、平成4年10月16日、富士石油株式会
社袖ケ浦製油所(千葉県袖ケ浦市)において、脱硫装置の熱交換器が爆発し、10名が死亡し、7名が負傷
するという重大災害が発生したことは、誠に遺憾に堪えないところである。
  本災害については、その重大性にかんがみ、千葉労働基準局に「富士石油爆発事故調査団」を設置し、
災害発生原因等の究明に努めてきたところであるが、今般、同調査団による調査結果が別添のとおり取り
まとめられ、これを踏まえて、関係業界団体に対し、別紙のとおり要請を行ったところである。
  また、木更津労働基準監督署では、11月10日、当該災害に関し関係事業者等を労働安全衛生法違反の疑
いで送致したところである。
  ついては、各局においても、関係事業者に対し本要請の趣旨が徹底するよう十分配慮されたい。

別添

千葉労働基準局富士石油爆発事故調査団の報告について

千葉労働基準局    

I.事故調査団検討会の開催経緯
  平成4年10月16日午後3時52分頃、千葉県袖ケ浦市の富士石油(株)袖ケ浦製油所において、重油間接
脱硫装置の熱交換器付近において爆発事故が発生した。
  この事故は、死亡者10名、負傷者7名を出す大事故となり、社会的影響も大きいことから、労働省は同
年10月19日に千葉労働基準局に「富士石油爆発事故調査団」(団長  早川  豊彦  千葉工業大学教授)を
設置した。
  調査団は、14回にわたる検討会のほか、現地調査、情報の収集・分析、数値解析等を行い、これらの結
果をもとに、事故原因の究明と同種事故の再発防止対策の検討を行った。
II.調査報告書の概要
  1.事故の発生状況及び被害
    (1)事故発生日時  平成4年10月16日(金)午後3時52分頃
    (2)事故発生場所  千葉県袖ケ浦市北袖1  富士石油(株)袖ケ浦製油所内
        重油間接脱硫装置(第2減圧軽油水素化脱硫装置)
    (3)被害の概要
        イ.人的被害
        ロ.物的被害
            死亡者10名、負傷者7名
            同製油所内の設備・機器・建屋・車両等が破損又は焼損したほか、隣接した日本鉱業(株)
          袖ケ浦潤滑油工場の原料タンク・建屋等が破損又は焼損した。
    (4)事故の概要
        反応器の触媒交換のために停止していた脱硫装置の運転を10月12日に再開し、ほぼ通常の運転状
      態に達しつつあった同16日午後3時52分頃、同装置の熱交換器のうち1基が損壊したため、噴出し
      た原料(未脱硫減圧軽油・水素混合物:以下、プロセス流体という)が爆発し、そのあと火災が生
      じた。
2.事故原因の推定
    報告書では、図1に示す構造の4基の熱交換器が15年間以上にわたって使用されていたにもかかわら
  ず、なぜその内の1基がその時点で損壊したのかを、事故原因究明の出発点としている。
    脱硫装置内の潜在的危険性の検討、運転記録の詳細な分析等から、事故直前の運転状況には事故原因
  に直接に関係する要素は見い出せず、また、爆発は熱交換器の内部で生じたものではなく、熱交換器の
  損壊によるプロセス流体が噴出したことによるものと判明した。
    熱交換器の損壊原因が、爆発の直前に目撃された熱交換器からのプロセス流体の漏洩と密接に関連す
  ると考えられることから、報告書では、プロセス流体の漏洩から熱交換器の損壊までの経過について、
  事故のあった熱交換器の構造、部品の寸法計測結果、保守点検の記録、数値解析等に基づいて詳細に考
  察し、事故原因を推定している。その概要は次のとおりである。
  (1)プロセス流体の漏洩原因の推定
      イ.熱交換器Bのロックリングは他の熱交換器に比べて新設時からチャンネルバレルからの突き出
        しが多かった。このため、ガスケットリテイナーが軸方向に変形してへこみができ直径が減少し
        たが、この減少量は運転が開始された昭和51年から最初の開放検査が行われた昭和54年の3年間
        がもっとも大きかった。
      ロ.ガスケットリテイナーはその後の運転で繰り返し熱歪みを受けて直径が経年的に減少した。こ
        のため、ガスケットリテイナーとガスケット溝とが強く接触して、接触部につぶれ等の損傷が発
        生していた。
      ハ.平成3年の開放検査時には、ガスケットリテイナーの直径がチャンネルバレルのガスケット溝
        に入らなくなる限界付近まで減少したため、ガスケットリテイナーの外周部4箇所に高さ0.5mm、
        幅30mm程度の余盛りを施すと同時に、ガスケット溝の補修が行われた。しかし、溝の角部に傾斜
        や曲率が作られ、補修が結果的には適切ではなかった。
      ニ.平成4年9月に運転を停止し降温した際に、ガスケットリテイナーが収縮して外周部が補修し
        たガスケット溝と強く接触して塑性変形すると同時に、ガスケット面圧が低下した(図2)。
      ホ.平成4年10月に運転が再開されたが、降温時に生じた塑性変形のためにガスケットリテイナー
        とガスケット溝の摩擦力が増大してガスケット面圧の低下が継続した。その結果、ガスケットの
        一部からプロセス流体の漏洩が始まり、時間とともに漏洩箇所が拡大した。プロセス流体は最初
        検知孔から大気中に漏れていたが、チャンネルバレルとロックリングの接合ねじ部や他の隙間に
        も漏洩が拡大した。
  (2)ロックリングの飛散原因の推定
      イ.インターナルフランジセットボルトは塑性変形することによって熱交換器内部部品に発生する
        熱歪みを緩和する役割を果たしているが、ボルトが加工硬化を起こして熱歪みを吸収することが
        できず、チャンネルカバーを介してロックリングに過大な力が加わった。
      ロ.この過大荷重はロックリングの内径側に作用するため、ロックリングのチャンネルカバーに面
        した側には直径をすぼめる力が、反対側のチャンネルバレル端面側には直径を拡大する力が働き、
        ロックリングが円錐台状に変形した。
      ハ.ロックリングのねじは、直径が減少した側に位置しているため、ねじの有効径が減少していた。
      ニ.チャンネルバレルとロックリングのねじ接合部に進入した高温・高圧のプロセス流体は、チャ
        ンネルバレルを直径方向に押し広げ、ねじのひっかかり高さが上記ハとの相乗効果によりさらに
        減少した。その結果、ねじ頂部がせん断変形あるいはせん断破壊したため、流体の圧力によりロ
        ックリングが脱落した。
          ロックリングの脱落過程を図3に示す。
      ホ.ロックリングの脱落により、これに保持されていたチャンネルカバー等の部品が、プロセス流
        体の圧力により次々に熱交換器の端部から飛び出した。同時にプロセス流体が噴出して一部が大
        気中で気相爆発し、そのあと火災となった。
  (3)熱交換器Bが損壊した要因の推定
      イ.熱交換器Bのロックリングのチャンネルバレル端面からの突き出し(図4)は熱交換器使用後
        の初期の段階から他の熱交換器のロックリングの突き出しに比べてかなり大きかった。最初の開
        放検査が行われた昭和54年の各交換器のロックリングの突き出し量を表1に示す。
      ロ.ロックリングBの突き出し量の増加はガスケットリテイナーの軸方向の変形を増加させ、同時
        にガスケットリテイナーの直径を減少させた。
      ハ.熱交換器Bのインターナルフランジセットボルトは、熱交換器の使用が始まった初期に曲がり
        やつぶれ等の損傷が多く発生し、他の熱交換器に比べてのインターナルフランジセットボルトの
        交換本数が多かった。これは、熱交換器Bのインターナルフランジセットボルトに過度な力が作
        用していたためと推察された。
      ニ.この過度な力は、チャンネルカバーを介してロックリングに伝達されるため、熱交換器の使用
        が開始された比較的早い時期から、ロックリングを円錐台状に変形させる力が作用していたと思
        われる。
      ホ.調査過程で、ロックリングの材質が熱交換器AとBで入れ替わっていることが判明したが、こ
        の熱交換器を製造した段階における品質管理上の問題はあるものの熱交換器B損壊には直接つな
        がるものではなかった。
3.再発防止対策
    報告書では、可燃物を高温・高圧で大量に取り扱う脱硫プロセスの危険性をふまえて、事故原因の調
  査の過程で得られた所見に基づき、同種の事故の再発を防止するための提言を行っている。その要点は
  次のとおりである。
  (1)同型の熱交換器の点検・整備及び部品の補修・交換等に関して
      イ.開放検査に際しては、大きな熱歪みや荷重を受けるおそれのある部品を念入りに点検し、変形・
        損傷等に対しては、熱交換器の使用者(ユーザー)とメンテナンス会社の合意のもとに、適切な
        補修・交換を行うこと。
      ロ.点検・補修等を適切に行うためには、点検基準、補修基準、交換基準等が明文化されるととも
        に、これらの基準にしたがった作業が確保される体制や、必要に応じて部品が補給される体制が
        整備されていること。
      ハ.熱交換器の点検・補修等がメンテナンス会社によって行われる場合には、ユーザーとメンテナ
        ンス会社の役割分担を契約によって明確にするとともに、設備の安全な運転のためにコミュニケ
        ーションと協力体制の確保に努めること。
  (2)現場での監視体制等に関して
      イ.異常事態が発生しがちな運転開始時には特に、緊急時の指示や対応が可能な立場にある装置運
        転部門の責任者が、熱交換器等の設置された現場において運転状態の監視、異常事態への対応等
        を行う必要があること。
      ロ.ガス漏洩等のおそれのある作業責任者は、緊急事態の発生時に速やかに連絡を取り合うために、
        無線電話等の携行が必要であること。また、固定式電話機から離れた場所や高所での作業者、臨
        時に入構している関係事業場の作業者等を含めて、作業者に対する緊急時の連絡網・連絡方法の
        確保が必要であること。
  (3)漏洩の検出方法等に関して
      イ.固定式のガス検知器が設置されていても、漏洩量や気象条件によっては漏洩の検出が遅れる場
        合のあることを理解しなければならない。事故のあった熱交換器の場合には、検知孔から直接に
        ガスを採取する方法が必要であること。
      ロ.ガス漏洩の可能性のある設備等の周辺に多数の作業者が集まる作業に際しては、作業前後のみ
        ならず、作業中の漏洩監視体制が必要であること。
  (4)漏洩など異常事態への対応に関して
      イ.今回の事故を参考として、緊急運転停止要領、緊急対応要領等の規定を見直すとともに、緊急
        事態を想定した訓練などにより安全確保の体制を推進すること。
      ロ.事故を生じたと同型の熱交換器から漏洩があった場合には、熱交換器の前面側からは作業者を
        退去させること。
  (5)その他の関連する提言
      長期間にわたって使用される装置・設備等については、経年変化を見込んだ設計や材料のほか、そ
    れに見合った保守管理が必要であること。
      また、調査の過程で、事故のあった熱交換器の重要な部品の材料の入れ替わりが発見されたが、こ
    れは事故原因と直接に関係しなかったものの、長期間にわたる経年損傷という観点から見れば、製作
    段階での材料の管理は慎重に行う必要があること。

図1(ブリーチロッククロージャー型熱交換器の構造)

図2(ガスケット周辺からプロセス流体の漏洩機構(推定))

図3(ロックリングの脱落過程)

図4(ロックリングの突き出し)

表1 (チャンネルバレル端面からロックリングの突き出し量)
別紙

基発第694号
平成5年12月16日

石油連盟会長  殿
石油化学工業協会会長
社団法人  日本化学工業協会会長

労働省労働基準局長    

石油化学コンビナート等における爆発災害の防止について

  石油化学コンビナート等における爆発災害の防止については、労働省としても従前から行政の重点とし
て取り上げ、種々の施策を進めてきたところでありますが、平成4年10月16日、富士石油株式会社袖ヶ浦
製油所(千葉県袖ヶ浦市)において、脱硫装置の熱交換器が爆発し、10名が死亡し、7名が負傷するとい
う重大災害が発生したことは、誠に遺憾に堪えないところであります。
  労働省では、本災害の重大性にかんがみ、千葉労働基準局に「富士石油爆発事故調査団」を設置し、災
害発生原因等の究明に努めてきたところであり、今般、同調査団による調査結果が別添のとおり取りまと
められたところであります。
  つきましては、下記の事項に御留意いただき、爆発災害の防止対策が適切に講じられるよう、貴会会員
事業者に対し周知指導方徹底されたく要請いたします。
記
1  ブリーチロッククロージャー型熱交換器の点検、補修等について
    富士石油爆発事故において爆発したブリーチロッククロージャー型の熱交換器と同型の熱交換器につ
  いて、定期自主検査等の点検、補修等を行う際には、以下の措置を講ずること。
  (1)  大きな熱ひずみ又は荷重を受けるおそれのある部品については、当該部品の変形、損傷等に特に
      留意して点検を行うとともに、異常を認めたときは、補修、交換等必要な措置を講ずること。
  (2)  当該熱交換器の点検、補修、交換等を適切に行うための点検基準、補修・交換基準を明確にする
      とともに、交換用部品の確保を含め、これら基準に従った作業が実施できるよう体制を整備するこ
      と。
  (3)  点検、補修等を請負人に請け負わせる場合は、請負人との役割分担を明確にするとともに、当該
      点検、補修等に必要な情報を交換する等、請負人と十分連携を図るようにすること。
2  現場での監視体制等について
  (1)  化学設備等の運転開始時に、高温・高圧状態になる設備の増締め作業等を行う場合は、設備運転
      部門の責任者等が、作業現場に立ち会って、運転状態を監視し、ガス漏えい等の事態に迅速に対応
      できる体制をとること。
  (2)  増締め作業等ガス漏えい等のおそれのある作業を行う場合は、ガス漏えい等の事態に迅速に対応
      するため、当該作業の責任者に無線電話等を携行させるとともに、関係請負人の作業者を含めた関
      係作業者に対する緊急時の連絡方法を確立しておくこと。
3  ガス漏えいの検出方法等について
  (1)  化学設備等の運転開始時におけるガスの漏えいの有無の点検についての作業規程の見直しを行う
      とともに、ブリーチロッククロージャー型熱交換器からのガスの漏えいの有無の点検については、
      検知孔から直接ガスを採取する方法によること。
  (2)  増締め作業等ガスの漏えいのおそれのある作業を行う場合は、当該作業を行う前後のみならず、
      作業中もガスの漏えいの有無の点検を行うこと。
4  ガス漏えい等の異常な事態への対応について
  (1)  ガス漏えい等の異常な事態が発生した場合の化学設備の緊急停止、緊急連絡等の応急の措置等に
      ついての作業規程の見直しを行うとともに、緊急事態を想定した訓練等を実施し関係労働者への周
      知・徹底を図っておくこと。
  (2)  ブリーチロッククロージャー型熱交換器からガスの漏えいがあった場合は、当該熱交換器の胴の
      端部の部品組込み口及びその周囲から労働者を退避させること。

基発第694号
平成5年12月16日

社団法人  日本産業機械工業会会長  殿

労働省労働基準局長    

石油化学コンビナート等における爆発災害の防止について

  石油化学コンビナート等における爆発災害の防止については、労働省としても従前から行政の重点とし
て取り上げ、種々の施策を進めてきたところでありますが、平成4年10月16日、富士石油株式会社袖ヶ浦
製油所(千葉県袖ヶ浦市)において、脱硫装置の熱交換器が爆発し、10名が死亡し、7名が負傷するとい
う重大災害が発生したことは、誠に遺憾に堪えないところであります。
  労働省では、本災害の重大性にかんがみ、千葉労働基準局に「富士石油爆発事故調査団」を設置し、災
害発生原因等の究明に努めてきたところであり、今般、同調査団による調査結果が別添のとおり取りまと
められたところであります。
  つきましては、下記の事項に御留意いただき、爆発災害の防止対策が適切に講じられるよう、貴工業会
会員事業者に対し周知指導方徹底されたく要請いたします。
記
1  複数の同じ型の化学設備を並行して製造する場合であって、同一形状の部品を異なる材料で製造する
  ときには、材料の混同が生じないよう管理体制の見直しを行うこと。
2  化学設備等の点検、補修等を請け負った場合は、発注者との役割分担を明確にするとともに、適切な
  点検、補修等が行われるよう、当該点検等に必要な情報の交換、協力体制の確立に努めること。
3  化学設備等の製造者の立場から、化学設備等の適切な点検、補修等のために必要な情報を収集すると
  ともに、それらを当該設備等を所有する事業者に対し提供する等当該事業者との連携、協力体制の確立
  に努めること。
4  ボイラー整備士による整備が必要な熱交換器等の整備を行う場合には、当該資格を有する者に整備を
  行わせること。

基発第694号
平成5年12月16日

財団法人  エンジニアリング振興協会会長  殿

労働省労働基準局長    

石油化学コンビナート等における爆発災害の防止について

  石油化学コンビナート等における爆発災害の防止については、労働省としても従前から行政の重点とし
て取り上げ、種々の施策を進めてきたところでありますが、平成4年10月16日、富士石油株式会社袖ヶ浦
製油所(千葉県袖ヶ浦市)において、脱硫装置の熱交換器が爆発し、10名が死亡し、7名が負傷するとい
う重大災害が発生したことは、誠に遺憾に堪えないところであります。
  労働省では、本災害の重大性にかんがみ、千葉労働基準局に「富士石油爆発事故調査団」を設置し、災
害発生原因等の究明に努めてきたところであり、今般、同調査団による調査結果が別添のとおり取りまと
められたところであります。
  つきましては、下記の事項に御留意いただき、爆発災害の防止対策が適切に講じられるよう、貴会会員
事業者に対し周知指導方徹底されたく要請いたします。
記
1  化学設備等の点検、補修等を請け負った場合は、発注者との役割分担を明確にするとともに、適切な
  点検、補修等が行われるよう、当該点検等に必要な情報の交換、協力体制の確立に努めること。
2  ボイラー整備士による整備が必要な熱交換器等の整備を行う場合には、当該資格を有する者に整備を
  行わせること。