法令 安全衛生情報センター:ホームへ
ホーム > 法令・通達(検索) > 法令・通達

職場における腰痛予防対策の推進について
(平成25年6月18日 基発0618第1号により廃止)

改正履歴

                                                                             基発第547号
                                                                           平成6年9月6日
																																					 
  職場における腰痛予防対策については、昭和45年7月10日付け基発第503号「重量物取扱い作業におけ
る腰痛の予防について」及び昭和50年2月12日付け基発第71号「重症心身障害児施設における腰痛の予防
について」により当該業務従事者に対する腰痛予防対策を示し、その指導に努めてきたところである。
  この間、腰痛の発生件数は着実に減少し、最近の10年間では4割強の減少を見たところであるが、今な
おその数は年間約6,000件となっており、業務上疾病全体に占める割合も約6割と、依然として高い状況
にある。
  このため、今般、広く職場における腰痛の予防を一層推進するための対策として、調査研究結果を踏ま
え、別添のとおり「職場における腰痛予防対策指針」を定めたので、了知するとともに、あらゆる機会を
通じてその周知に努められたい。また、この通達の解説部分(参考を除く。)は、本文と一体のものとし
て取り扱われたい。
  なお、本省においては、職場における腰痛予防の一層の促進を図るため、引き続き、調査研究に努める
こととしていることを申し添える。
  おって、昭和45年7月10日付け基発第503号及び昭和50年2月12日付け基発第71号は、本通達をもって
廃止する。

別添

職場における腰痛予防対策指針(平成25年6月18日 基発0618第1号により廃止)

1  はじめに
    職場における腰痛は、特定の業種のみならず多くの業種及び作業において見られる。
    これらの腰痛の発生の要因には、[1]腰部に動的あるいは静的に過度に負担を加える動作要因、[2]腰
  部への振動、寒冷、床・階段での転倒等で見られる環境要因、[3]年齢、性、体格、筋力等の違い、椎
  間板ヘルニア、骨粗しょう症等の既往症又は基礎疾患の有無及び精神的な緊張度等の個人的要因があり、
  これら要因が重なり合って発生する。
    職場における腰痛を予防するためには、作業管理、作業環境管理、健康管理及び労働衛生教育を適切
  に行うことによって腰痛の発生の要因の排除又は軽減に努めるとともに、労働者の健康の保持増進対策
  を進めることが必要であることから、本指針は、これらの事項について具体的に示すものである。
    各事業場においては、本指針に掲げられた腰痛の基本的な予防対策を踏まえ、各事業場の作業の実態
  に即した対策を講ずる必要がある。
    なお、本指針では、腰痛の発生を減少させるため、一般的な腰痛の予防対策を示した上で、腰痛の発
  生が比較的多い次の5作業についての作業態様別の基本的な対策を別紙により示した。
  (1)  重量物取扱い作業
  (2)  重症心身障害児施設等における介護作業
  (3)  腰部に過度の負担のかかる立ち作業
  (4)  腰部に過度の負担のかかる腰掛け作業・座作業
  (5)  長時間の車両運転等の作業
2  作業管理
  (1)  自動化、省力化
        腰部に著しい負担のかかる作業を行わせる場合には、作業の全部又は一部を自動化又は機械化し、
      労働者の負担を軽減することが望ましいが、それが困難な場合には、適切な補助機器等を導入する
      こと。
  (2)  作業姿勢、動作
        労働者に対し、次の事項に留意させること。
      イ  腰部に負担のかかる中腰、ひねり、前屈、後屈ねん転等の不自然な姿勢をなるべく取らないよ
        うにすること。このため、正面を向いて作業が行えるよう作業台等の高さ、労働者と作業台等と
        の対面角度の調節等を行うこと。また、不自然な姿勢を取らざるを得ない場合には、適宜、身体
        を保持する台等を使用すること。
      ロ  立位、椅座位等において、同一姿勢を長時間取らないようにすること。
      ハ  腰部に負担のかかる動作を行うに当たっては、姿勢を整え、かつ、急激な動作を避けること。
      ニ  持ち上げる、引く、押す等の動作は、膝を軽く曲げ、呼吸を整え、下腹部に力を入れながら行
        うこと。
      ホ  勁部又は腰部の不意なひねりを可能な限り避け、動作時には、視線も動作に合わせて移動させ
        ること。
  (3)  作業標準等
      イ  作業標準の策定
          腰部に過度の負担のかかる作業については、腰痛の予防のため、次の事項に留意して作業標準
        を策定すること。また、新しい機器、設備等を導入した場合には、その都度、作業標準を見直す
        こと。
        (イ)  作業時間、作業量、作業方法、使用機器等を示すこと。
              なお、作業時間、作業量等の設定に際しては、作業内容、取り扱う重量、自動化等の状況、
            補助機器の有無、作業に従事する労働者の数、性別、体力、年齢、経験等に配慮すること。
        (ロ)  不自然な姿勢を要する作業や反復作業等を行う場合には、他の作業と組み合わせる等によ
            り当該作業ができるだけ連続しないようにすること。また、作業時間中にも適宜、小休止・
            休息が取れるようにすることが望ましい。
      ロ  その他
        (イ)  コンベヤー作業等作業速度が機械的に設定されている作業を行わせる場合には、労働者の
            身体的な特性と体力差を考慮して、適正な作業速度にすること。
        (ロ)  夜勤、交替制勤務及び不規則勤務にあっては、作業量が昼間時における同一作業の作業量
            を下回るよう配慮すること。
  (4)  休憩
      イ  腰部に著しい負担のかかる作業を行わせる場合には、横になって安静を保てるよう十分な広さ
        を有する休憩設備を設けるよう努めること。
      ロ  休憩設備の室内温度を、筋緊張が緩和できるよう調節することが望ましい。
  (5)  その他
      イ  腰部に著しい負担のかかる作業を行わせる場合には、腹帯等適切な補装具の使用も考慮するこ
        と。
      ロ  作業時の靴は、足に適合したものを使用させること。腰部に著しい負担のかかる作業を行う場
        合には、ハイヒールやサンダルを使用させないこと。
3  作業環境管理
  (1)  温度
        屋内作業場において作業を行わせる場合には、作業場内の温度を適切に保つこと。また、低温環
      境下において作業を行わせる場合には、保温のための衣服を着用させるとともに、適宜、暖が取れ
      るよう暖房設備を設けることが望ましい。
  (2)  照明
        作業場所、通路、階段、機械類等の形状が明瞭にわかるように適切な照度を保つこと。
  (3)  作業床面
        作業床面はできるだけ凹凸がなく、防滑性、弾力性、耐衝撃性及び耐へこみ性に優れたものとす
      ることが望ましい。
  (4)  作業空間
        動作に支障がないよう十分な広さを有する作業空間を確保すること。
  (5)  設備の配置等
        作業を行う設備、作業台等については、作業に伴う動作、作業姿勢等を考慮して、形状、寸法、
      配置等に人間工学的な配慮をすること。
4  健康管理
  (1)  健康診断
        重量物取扱い作業、介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対しては、
      当該作業に配置する際(再配置する場合を含む。以下同じ。)及びその後6月以内ごとに1回、定
      期に、次のとおり医師による腰痛の健康診断を実施すること。
      イ  配置前の健康診断
          配置前の労働者の健康状態を把握し、その後の健康管理の基礎資料とするため、配置前の健康
        診断の項目は、次のとおりとすること。
        (イ)  既往歴(腰痛に関する病歴及びその経過)及び業務歴の調査
        (ロ)  自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害等)の有無の検査
        (ハ)  脊柱の検査:姿勢異常、脊柱の変形、脊柱の可動性及び疼痛、腰背筋の緊張及び圧痛、脊
            椎棘突起の圧痛等の検査
        (ニ)  神経学的検査:神経伸展試験、深部腱反射、知覚検査、筋萎縮等の検査
        (ホ)  脊柱機能検査:クラウス・ウェーバーテスト又はその変法(腹筋力、背筋力等の機能のテ
            スト)
        (ヘ)  腰椎のX線検査:
              原則として立位で、2方向撮影(医師が必要と認める者について行うこと。)
      ロ  定期健康診断
        (イ)  定期に行う腰痛の健康診断の項目は、次のとおりとすること。
            a  既往歴(腰痛に関する病歴及びその経過)及び業務歴の調査
            b  自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害等)の有無の検査
        (ロ)  (イ)の健康診断の結果、医師が必要と認める者については、次の項目についての健康診断
            を追加して行うこと。この場合、(イ)の健康診断に引き続いて実施することが望ましい。
            a  脊柱の検査:姿勢異常、脊柱の変形、脊柱の可動性及び疼痛、腰背筋の緊張及び圧痛、
              脊椎棘突起の圧痛等の検査
            b  神経学的検査:神経伸展試験、深部腱反射、知覚検査、徒手筋力テスト、筋萎縮等の検
              査(必要に応じ、心因性要素に関わる検査を加えること。)
            c  腰椎のX線検査(医師が必要と認める者について行うこと。)
            d  運動機能テスト(医師が必要と認める者について行うこと。)
      ハ  事後措置
          腰痛の健康診断の結果、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、作業方法等
        の改善、作業時間の短縮等必要な措置を講ずること。
  (2)  作業前体操、腰痛予防体操
      イ  作業前体操の実施
          腰痛の予防を含めた健康確保の観点から、次のとおり作業前体操を実施すること。
        (イ)  始業時に準備体操として行うこと。
        (ロ)  就業中に新たに腰部に過度の負担のかかる作業を行う場合には、当該作業開始前に下肢関
            節の屈伸等を中心に行うこと。
              なお、作業終了時においても、必要に応じ、緊張した筋肉をほぐし、血行を良くするため
            の整理体操として行うこと。
      ロ  腰痛予防体操の実施
          重量物取扱い作業、介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対し、
        適宜、腰痛予防を目的とした腰痛予防体操を実施すること。
          腰痛予防体操には、[1]関節可動体操、[2]軟部組織伸展体操、[3]筋再建体操の3種があり、
        実施に当たっては、その目的に合ったものを選択すること。
5  労働衛生教育等
  (1)  労働衛生教育
        重量物取扱い作業、介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者については、
      当該作業に配置する際及び必要に応じ、腰痛の予防のための労働衛生教育を実施すること。
        当該教育の項目は次のとおりとし、その内容は受講者の経験、知識等を踏まえ、それぞれのレベ
      ルに合わせて行うこと。
      [1]  腰痛に関する知識
      [2]  作業環境、作業方法等の改善
      [3]  補装具の使用方法
      [4]  作業前体操、腰痛予防体操
            なお、当該教育の講師としては、腰痛の予防について十分な知識と経験を有する者が適当で
          あること。
  (2)  その他
        腰痛を予防するためには、職場内における対策を進めるのみならず、労働者の日常生活における
      健康の保持増進が欠かせない。このため、産業医等の指導の下に、労働者の体力や健康状態を把握
      した上で、バランスのとれた食事、睡眠に対する配慮等の指導を行うことが望ましい。

別紙  作業態様別の対策
I  重量物取扱い作業
    重量物を取り扱う作業を行わせる場合には、単に重量制限のみを守るのではなく、取扱い回数等作業
  密度を考慮し、適切な作業時間、人員の配置等に留意しつつ、次の対策を講ずること。
  1  自動化、省力化
    (1)  重量物取扱い作業については、適切な自動装置、台車の使用等により人力の負担を軽減するこ
        とを原則とすること。なお、作業の自動化が困難な場合は、適切な装置、器具等を使用して、で
        きるだけ人力の負担を軽減すること。
    (2)  人力による重量物取扱い作業が残る場合には、作業速度、取扱い物の重量の調整等により、腰
        部に過度の負担がかからないようにすること。
  2  重量物の取扱い重量
    (1)  満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う重量は、55kg以下にすること。
          また、当該男子労働者が、常時、人力のみにより取り扱う場合の重量は、当該労働者の体重の
        おおむね40%以下となるように努めること。
    (2)  (1)の重量を超える重量物を取り扱わせる場合には、2人以上で行わせるように努め、この場合、
        各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること。
  3  荷姿の改善、重量の明示等
    (1)  荷物は、かさばらないようにし、かつ、適切な材料で包装し、できるだけ確実に把握すること
        のできる手段を講じて、取扱いを容易にすること。
    (2)  できるだけ取り扱う物の重量を明示すること。
    (3)  著しく重心の偏っている荷物については、その旨を明示すること。
    (4)  手カギ、吸盤等の補助具の活用を図り、持ちやすくすること。
  4  作業姿勢、動作
      労働者に対し、次の事項に留意させること。
      重量物を取り扱うときは急激な身体の移動をなくし、かつ、身体の重心の移動を少なくする等でき
    るだけ腰部に負担をかけない姿勢で行うことを原則とすること。
      このため次の事項に留意すること。
    (1)  できるだけ身体を対象物に近づけ、重心を低くするような姿勢を取ること。
    (2)  はい付け又ははいくずし作業においては、できるだけはいを肩より上で取り扱わないこと。
    (3)  床面等から荷物を持ち上げる場合には、片足を少し前に出し、膝を曲げ、腰を十分に降ろして
        当該荷物をかかえ、膝を伸ばすことによって立ち上がるようにすること。
    (4)  腰をかがめて行う作業を排除するため、適切な高さの作業台等を利用すること。
    (5)  荷物を持ち上げるときは呼吸を整え、腹圧を加えて行うこと。
    (6)  荷物を持った場合には、背を伸ばした状態で腰部のひねりが少なくなるようにすること。
  5  取扱い時間
    (1)  取り扱う物の重量、取り扱う頻度、運搬距離、運搬速度等作業の実態に応じ、小休止・休息を
        とる、他の軽作業と組み合わせる等により、重量物取扱い時間を軽減すること。
    (2)  単位時間内における取扱い量を、労働者に過度の負担とならないよう適切に定めること。
  6  その他
        腹圧を上げるため、必要に応じ、腰部保護ベルト、腹帯等を使用させること。
II  重症心身障害児施設等における介護作業
    重症心身障害児施設等で、入所児、入所者等(以下「入所児等」という。)の介護を行わせる場合に
  は、姿勢の固定、中腰で行う作業や重心移動等の繰り返し、重量の負荷等により、労働者に対して腰部
  に静的又は動的に過重な負担が持続的に、又は反復して加わることがあり、これが腰痛の大きな要因と
  なる。このため、次の措置を講ずることにより、作業負担の軽減を図ること。
    なお、肢体不自由児施設、特別養護老人ホーム等における介護に係る腰痛の予防についても、次の措
  置に準じ、実情に応じた対策を講ずるよう努めること。
  1  作業姿勢、動作
      中腰で行う作業や腰をひねった姿勢を長く保つ作業等を行わせる場合には、適宜小休止・休息をと
    る、他の作業と組み合わせる等により、同一姿勢を長時間続けないようにさせること。
    (1)  介護の方法
          介護のために入所児等を床面又はベッドからかかえた状態で作業を行わせるときの作業姿勢は
        Iによること。また、体重の重い入所児等の体位の変換、移動等は、複数の者で行わせること。
    (2)  食事介助の方法
          食事の介助を行う者に対しては、ベッドに横座りすることを避け、椅子に座って入所児等に正
        面を向くか、ベッド上でいわゆる膝まくらの姿勢を取らせること。ただし、同一の姿勢を長く続
        けさせないこと。
  2  作業標準
      使用機器、作業方法等に応じた作業標準を策定すること。また、作業標準には、入所児等の身体等
    の状態別、作業の種類別の作業手順、役割分担、作業場所等についても明記すること。
  3  介護者の適正配置
      介護者の数は、施設の構造、勤務体制、療育内容及び入所児等の心身の状況に応じた適正なものと
    するよう努めること。
      なお、やむを得ない理由で、一時的に繁忙な事態が生じた場合は、介護者の配置を随時変更する等
    により、腰部負担の大きい業務が特定の介護者に集中しないように十分配慮すること。
  4  施設及び設備の構造等の改善
      不適切な施設及び設備は、作業姿勢に密接に関係するので、適切な介護設備、機器等の導入を図る
    とともに、介護に関連した業務を行うために必要な施設、機器等についても適切なものを整備するこ
    と。
      また、作業姿勢を適正化するため、実際の作業状況を検討し、次の改善を図ること。
    (1)  室の構造等
          入所児等の移送は、できるだけストレッチャーによって行うようにし、通路及び各部屋にはス
        トレッチャーの移動の障害となるような段差等を設けないこと。
    (2)  浴槽の構造等
        イ  浴槽、洗身台、シャワー設備等の配置は、介護者の無用の移動をできるだけ少なくするよう
          なものとすること。
        ロ  浴槽の縁、洗身台及びシャワーの高さ等は、介護者の身長に適合するものとすること。なお、
          これらの高さが適切でないこととなる介護者に対しては、滑りにくい踏み板等を使用させるこ
          とも考慮すること。
        ハ  移動式洗身台、ローラコンベヤー付き洗身台、移動浴槽、リフト等の介助機器の導入を図る
          こと。
    (3)  ベッドの構造等
          ベッドの高さは、入所児等の身体状況等も考慮し、介護者の身長に適合するものとすること。
        なお、これらの高さが適切でないこととなる介護者に対しては、履物、踏み板等を使用させるこ
        とも考慮すること。
    (4)  付帯設備等
          介護中に利用できる背もたれのある椅子や堅めのソファー等を適宜配置し、くつろいで座れる
        ようにすること。また、介護に必要な用具等は、出し入れしやすい場所に収納すること。
    (5)  休憩
          休憩設備は、労働者の数及び勤務体制を考慮し、利用に便利で、かつ、くつろげるものとする
        ことが望ましい。
  5  その他
      腹圧を上げるため、必要に応じ、腰部保護ベルト、腹帯等を使用させること。
III  腰部に過度の負担のかかる立ち作業
    組立作業、サービス業等における立ち作業においては、拘束性の強い静的姿勢を伴う立位姿勢、作業
  機器の不適切な配置、作業方法等により、前屈姿勢や過伸展姿勢等腰部に過度の負担のかかる姿勢とな
  る場合がある。
    このような立位姿勢をできるだけ少なくするため、次の対策を講ずること。
  1  作業機器の配置
      作業機器の配置は、前屈、過伸展等不自然な姿勢での作業を避けるため、労働者の上肢長、下肢長
    等体型を配慮したものとする。
  2  他作業との組合せ
      長時間の立位姿勢保持を避けるため、腰掛け作業等他の作業を組み合わせて行わせること。
  3  椅子の配置
    (1)  立ち作業が長時間継続する場合には、椅子を配置し、作業の途中で腰掛けて小休止・休息がで
        きるようにすること。
    (2)  椅子は高さ、角度等を調整できる背当て付きの椅子を用いることが望ましい。それができない
        場合には、適当な腰当て等を使用させること。また、椅子の座面と作業台の空間を十分に取り、
        膝及び足先を自由に動かせる空間を取ること。
  4  片足置き台の使用
      両下肢をあまり使用しない作業では、作業動作位置に合わせて適当な高さの片足置き台を使用させ
    ること。
  5  小休止・休息
      立ち作業を行う場合には、おおむね1時間につき、1、2回程度小休止・休息を取らせ、下肢の屈
    伸運動やマッサージ等を行わせることが望ましい。
  6  その他
      腹圧を上げるため、必要に応じ、腰部保護ベルト、腹帯等を使用させること。
IV  腰部に過度の負担のかかる腰掛け作業・座作業
    一般に、腰掛け作業・座作業は、立位姿勢に比べて身体全体への負担は軽いが、腰椎にかかる荷重は
  立位姿勢に比べて大きい。一般事務、OA機器操作、窓口業務、コンベヤー作業等の腰掛け作業又は直
  接床に座る座作業で、拘束性の強い静的姿勢を伴う作業、腰掛けて身体の可動性が制限された状態で、
  物を曲げる、引く、ねじる等の動作を伴う作業等腰部に過度の負担のかかる作業を行わせる場合には、
  次の対策を講ずること。
  1  腰掛け作業
    (1)  椅子の改善
          座面の高さ、奥行きの寸法、背もたれの角度及び肘掛けの高さが労働者の体格等に合わせて調
        節できる椅子を使用させること。また、体圧分布及び座面の堅さにも配慮すること。
    (2)  作業台の改善
          作業台の高さ、角度及び作業台と椅子との距離は、調節できるように配慮すること。
    (3)  作業姿勢等
          労働者に対し、次の事項に留意させること。
        イ  椅子に深く腰を掛けて背もたれに十分に当て、履物の足裏全体が床に接する姿勢を基本とす
          ること。必要に応じ、滑りにくい足台を使用すること。
        ロ  椅子と大腿下部との間には、手指が押し入る程度のゆとりがあり、大腿部に無理な圧力が加
          わらないようにすること。
        ハ  膝や足先を自由に動かせる空間を取ること。
        ニ  前傾姿勢を避けること。また、適宜、立ち上がって腰を伸ばす等姿勢を変えること。
    (4)  作業域
          腰掛け作業における作業域は、労働者が不自然な姿勢を強いられない範囲とすること。
  2  座作業
      座作業は、仙腸関節、股関節等に負担がかかるので、できる限り避けることが望ましい。やむを得
    ず座作業を行わせる場合は、労働者に対し、次の事項に留意させること。
    (1)  できるだけ同一姿勢を保持しないようにするとともに、適宜、立ち上がって腰を伸ばすように
        すること。
    (2)  あぐらをかく姿勢を取るときは、適宜座ぶとん等を折り曲げて座り、臀部を持ち上げる姿勢が
        取れるようにすること。
V  長時間の車両運転等の作業
    貨物用自動車の運転の作業においては長時間椅座位の姿勢を取り続けること、車両系建設機械等の運
  転の作業においては腰部に振動が加わること等により、腰部に過度の負担がかかり腰痛が発生しやすく
  なる。また、荷物の積卸し作業では、長時間の車両の運転から生ずる拘束姿勢による末梢血液循環の阻
  害や、一時的な筋力調整不全が生ずることがあり、運転直後に重量物を取り扱うことは好ましくない。
  これを踏まえて次の対策を講ずること。
  1  座席の改善等
    (1)  座席は、座面角度、背もたれ角度及び腰背部の支持が適当なものとし、作業開始前に操作性を
        配慮し、座面角度、背もたれ角度、座席の位置等の適正な調整を行わせること。
    (2)  車両からの振動をなるべく減衰させる構造の座席を有する車両を採用するよう配慮することが
        望ましい。こうした車両を採用できない場合には、クッション等を用いて振動の軽減に努めるこ
        と。
  2  小休止・休息
      車両の運転を行う場合には、適宜、小休止・休息を取らせるようにすること。小休止・休息の際は、
    車両から降りて背伸び等の軽い運動をして、筋収縮による疲労の回復を図らせること。
  3  車両運転直後の重量物取扱い
      リフター、ローラーコンベヤー等を有する貨物用自動車を採用し、労働者の重量物取扱いによる負
    担の軽減に努めること。また、人力による荷物の取扱い作業の要領は、Iに準ずること。
      なお、長時間車両を運転した後に重量物を取り扱う場合は、小休止・休息及び作業前体操を行った
    後に作業を行わせること。
  4  構内レイアウトの改善
      フォークリフト又は構内運搬車による構内の運転による荷の運搬に当たっては、車両の運行経路を
    単純化し、右折、左折、狭あいな場所での作業等をできるだけ少なくするよう構内のレイアウトの改
    善に努めること。
  5  その他
      腹圧を上げるため、必要に応じ、腰部保護ベルト、腹帯等を使用させること。

職場における腰痛予防対策指針の解説(平成25年6月18日 基発0618第1号により廃止)

  本解説は、「職場における腰痛予防対策指針」の趣旨、実施上の留意点等を解説したものである。
「1  はじめに」について
  (1)  職場における腰痛
        一般に、腰痛には、ぎっくり腰(腰椎ねん挫等)、椎体骨折、椎間板ヘルニア、腰痛症等がある。
      腰痛に密接な関連がある身体の構造として、脊椎の各椎体の間に軟骨である椎間板があり、これが
      脊椎の動きに際してクッションの働きをしている。また、椎体の周囲に椎間関節、じん帯及び筋肉
      があり、脊柱を支えている。腰痛は、これらの構造に障害が起きた場合に発生する。
        なお、腰痛は、単に腰部に対する痛みだけでなく、臀部から大腿後面・外側面、さらに、膝関節
      を越えて下腿の内側・外側から足背部・足底部にわたり痛み、しびれ、つっぱり等が広がるものも
      あることから、本指針における腰痛とは、これらも含むものである。
  (2)  腰痛の発生の要因
        腰痛の発生の要因は、次のように動作要因、環境要因及び個人的要因に分類される。
      イ  動作要因
          動作要因には、主として次のようなものがある。
        (イ)  強度の身体的負荷
              退行性腰椎疾患のある者が、強度の身体的負荷を受けること。
        (ロ)  長時間の静的作業姿勢(拘束姿勢)
              立位、椅座位、不自然な作業姿勢等の静的作業姿勢を長時間とること。
        (ハ)  前屈(おじぎ姿勢)、ひねり、後屈ねん転(うっちゃり姿勢)
              前屈、ひねり及び後屈ねん転の姿勢をしばしばとること。
        (ニ)  急激又は不用意な動作
              物を急に持ち上げるなど急激又は不用意な動作をすること。(予期しない負荷が腰部にか
            かるときに、腰筋等の収縮が遅れるため身体が大きく動揺して腰椎に負担がかかる。)
      ロ  環境要因
          環境要因には、主として次のようなものがある。
        (イ)  振動
              車両系建設機械の運転等により腰部に著しく粗大な振動を受けること。
        (ロ)  寒冷
              寒冷な環境に身体を置くこと。(筋肉が緊張し、筋収縮及び反射が高まる。)
        (ハ)  床面の状態
              滑りやすい床面、段差(床面、階段でスリップし、又は転倒して腰痛が発生することがあ
            る。)
      ハ  個人的要因
          個人的要因には、主として次のようなものがある。
        (イ)  年齢及び性
              年齢とともに腰痛による欠勤及び痛みの持続時間が増加。また、女性は、男性より筋肉労
            働に由来する腰痛の訴えが多いこと。
        (ロ)  体格
              体格と、作業台の高さ、作業空間等とが適合していないこと。(なお、肥満と腰痛とは、
            明確な関係がある。)
        (ハ)  筋力等
              握力、腹筋力、バランス能力等
        (ニ)  心理的要因
              作業内容、労働条件等による精神的な緊張、作業に対する責任感、緊張しやすさ等
              その他腰痛の既往症、基礎疾患の有無、動作の巧緻性、教育・訓練の有無も腰痛の発生と
            関係がある。
  (3)  労働衛生管理
        腰部に著しい負担のかかる作業に対して、労働衛生管理が適正に行われるためには、各事業場に
      おける労働衛生管理体制を整備し、それぞれの事業場で実際に行われている作業に即した腰痛予防
      対策を進めていく必要がある。
        実際の労働衛生管理は、事業者、安全衛生の担当者を中心として、また、一定規模以上の事業場
      においては、衛生委員会、総括安全衛生管理者、産業医、衛生管理者等を中心として進められるこ
      ととなる。
        いずれの事業場においても、必要に応じ、労働衛生コンサルタント、保健婦・看護婦その他労働
      衛生業務に携わる者との連携を強化することによって、より効果的に運営されることが望ましい。
        また、関係労働者は、各事業場における腰痛予防対策を理解し、その実施に積極的に協力するこ
      とが必要である。
「2  作業管理」について
  (1)  自動化、省力化
        未熟練労働者、今後増加が予想される中高年齢者等を考慮して、重量物取扱い作業等腰部に著し
      い負担のかかる作業については、作業の全部又は一部の自動化・機械化を推進することが望ましい。
      自動化等が困難な場合は、対象物の性状や作業手順等に詳しい現場の労働者等の意見を参考に、適
      切な補助機器等を導入することが必要である。
  (2)  作業姿勢、動作
      イ  「不自然な姿勢」には、膝関節を曲げて立つ中腰姿勢、上半身が前傾する前屈姿勢、しゃがむ・
        かがむ姿勢、床に膝やお尻をつく姿勢が含まれる。労働者が自然な立位又は椅座位で作業対象に
        正面を向いて作業ができるように作業台等を適切な高さと位置にするか、又は調節が可能な作業
        台を使用し、十分な作業空間を確保することが望ましい。
          「身体を保持する台等」の「等」には、支柱、腰部保護ベルトが含まれる。
      ロ  同一姿勢を長時間にわたり維持することは腰部への負担を増加するので、休憩、筋疲労を緩和
        するための小休止・休息、補助機器等の配置、姿勢を変える等の工夫が必要である。また、同じ
        姿勢や動作が反復するような作業態様をできるだけ避ける。反復の周期や回数等を考慮し、小休
        止・休息等の間隔を検討することが望ましいが、適宜自発的な小休止・休息が取れるようにすべ
        きである。
      ハ  「腰部に負担のかかる動作」には、持ち上げる・引く・押す・曲げる・ひねる・飛び降りる等
        の動作がある。急激な動作は、椎間板や筋肉等に衝撃的な力を及ぼし、これらを損傷させて腰痛
        を発生させることがある。
      ニ  持ち上げる動作では、腹圧をかけたときの方が腹圧をかけないときに比べて、腰椎にかかる負
        荷が小さい。これは、背筋に加え、腹筋も使って幹全体で重量物を支える役割をするためである。
      ホ  頭部を片側にひねると、ひねった側の上・下肢は伸展し、反対側の上・下肢は屈曲する。この
        ように、上肢筋及び下肢筋の緊張は、姿勢反射により調節されているため、頸部又は腰部の不意
        なひねりを避けることが望ましい。
          また、視線は、動作に伴う筋緊張と密接な関係があることから、視線を動作に合わせて移動さ
        せることが必要である。なお、このことは注意を集中するためにも役立つ。
  (3)  作業標準等
        腰部にかかる負担は、取り扱う重量や自動化の状況、作業時間等のほか、労働者の年齢、性、筋
      力等の個人的要因によって変化する。したがって、作業標準の策定に当たっては、作業密度、作業
      強度、作業量等が過大にならないように注意し、また、性と年齢を考慮することが重要である。
      イ  作業標準の策定
          個々の作業や職場について作成された作業標準には、標準的な作業動作、作業姿勢、作業手順、
        その他の作業方法等を網羅する必要があるが、「正しい姿勢で」等のあいまいな表現は避け、必
        要に応じイラストや写真などを用いて具体的で労働者に分かりやすいものとする必要がある。
          作業時間の設定に当たっては、女性又は中高年者の配置等に留意する。不自然な姿勢をとるこ
        とが避けられず、しかも継続することが多い作業や、姿勢の拘束や同一動作の反復が多い作業で
        は、他の腰部負担の少ない作業と組み合わせることにより、腰部に負担がかかる作業時間が少し
        でも短くなるようにする。
      ロ  その他
          「適正な作業速度」には、交替員を配置する等の方法を併用して、作業速度の個人差を調整す
        る方法が含まれる。
          人間は、生理的に、昼間に作業能力が高まり、夜間は活動性が低下する。したがって、夜勤、
        交替勤務及び不規則勤務等における作業量は、通常の日勤時の作業量をやや下回るように基準を
        決める等の配慮が必要である。
  (4)  休憩
        作業時間の間に適切な長さの休憩を取ることにより腰部の緊張を取り除くことは、腰痛を予防す
      る上で重要なことである。また、腰痛の既往歴のある者やその徴候のある者は、適宜小休止・休息
      を取り、その再発又は増悪を防ぐことが肝要である。このため、横になって安静を保てるよう十分
      な広さを有し、筋緊張が緩和できるよう快適な環境の休憩設備を確保することが望ましい。
  (5)  その他
      イ  腹帯等は、外力や腹圧を分散させて脊椎の特定点に力を集中させない効果がある。腰部負担の
        特に大きいと考えられる作業に従事する場合や腰部疲労感等を自覚する場合には、作業中に腹帯
        や腰痛予防用コルセット等を着用することが望ましい。しかし、着用の仕方によっては腹筋力低
        下等をもたらすことがあるので、医師の指導を受ける等により、正しい使用方法を理解する必要
        がある。
      ロ  床面からの腰椎等への衝撃を少なくし、転倒等の事故を防ぐために作業用の靴(履物)は、足
        に適合したもの(大きすぎず、土踏まずや指のつけ根等足底のアーチをしっかりと支えるもの)
        で、安全なもの(滑りにくいもの、底が薄すぎたり、堅すぎたりしないもの)を選ぶ必要がある。
「3  作業環境管理」について
  (1)  温度
        温度の設定が適切でない作業環境では、筋肉などの運動器の活動状態が良好でないため、腰痛を
      発生させるおそれがある。温度の設定に当たっては、作業強度によって体熱の発生量が異なること
      から、立って行う軽作業に比べ、座作業ではやや高めに、重量物取扱い作業では低めにするよう配
      慮すること等が必要である。
        とりわけ、気温が低すぎると、筋・骨格系が堅くなって作業能率が低下し、腰痛の誘因になるこ
      とから、寒冷時の屋内作業場では暖房設備により適切な温度環境を維持することが望ましい。労働
      者が工場内に点在し、又は工場全体の暖房が困難である場合には、労働者の付近を局所的に暖房す
      ることも考慮する。
  (2)  照明
        適切な照度を保って視覚情報を確保することにより動作を予測し、筋緊張を行うことができるた
      め、滑り、転倒、階段の踏みはずし等を防止することができる。また、視覚情報の確保は、姿勢調
      節を適切に行うためにも必要である。
  (3)  作業床面
        物の運搬作業中に転倒したり、つまづくと、労働者の腰部に瞬間的に過大な負荷がかかり、腰痛
      になることがある。このため、作業床面はできるだけ凹凸・段差がなく、かつ、滑りにくいものと
      することが望ましい。
  (4)  作業空間
        不自然な作業姿勢、動作をさけるため、作業場、事務所、通路等の作業空間を十分に確保する必
      要がある。十分な広さがない、動作の障害となるものがある等の場合には、作業開始前に作業空間
      を十分認識しておくことが必要である。
        なお、作業空間には、左右の上肢が水平方向及び垂直方向に到達する範囲(直接的作業空間)の
      ほか、通路、機材の運搬に必要な範囲(間接的作業空間)も含まれる。
  (5)  設備の配置等
        設備、作業台等を設置し、又は変更する場合は、労働者が設備等に合わせて作業するのではなく、
      労働者に設備等を合わせることにより、適切な作業位置、作業姿勢、高さ、幅等を確保することが
      できるよう配慮することが必要である。
「4  健康管理」について
  (1)  健康診断
      イ  健康診断の目的
          職場における腰痛で最も多く見られるものは、他覚所見に乏しいいわゆる腰痛症と呼ばれるも
        のである。腰部の静的負荷に、作業による機能的負荷が加重され、発生したと思われる腰痛が多
        い。その背景には、体幹筋の機能不全による不良姿勢や体幹筋の疲労、様々な素因、脊椎及びそ
        の周囲組織の加齢的変化、変形性変化、心因的な要素等が考えられる。
          健康診断は、腰痛に関する健康管理の基礎資料の収集及び適正配置等を行うために必要な健康
        上の情報の把握のために実施するものである。
      ロ  対象者の目安
          「重量物取扱い作業、介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者」とは、
        重量物取扱い作業、社会福祉施設等における介護作業のほか、これらに準ずる作業で、例えば、
        腰痛が発生し、又は愁訴者が見られる等腰痛の予防・管理等が必要とされる作業に常時従事する
        労働者が目安となる。
      ハ  配置前の健康診断
          配置前の健康診断の項目のうち(イ)及び(ロ)の項目の検査の実施に当たっては、参考1の腰痛
        健康診断問診票を、また、(ハ)から(ヘ)までの検査の実施に当たっては、参考2の腰痛健康診断
        個人票を用いることが望ましい。
          業務歴の調査においては、過去の具体的な業務内容を聴取することが必要である。既往歴の有
        無の調査及び自覚症状の有無の検査については、医師が直接問診することが望ましいが、参考1
        の腰痛健康診断問診票により、産業医等医師の指導の下に保健婦等が行ってもよい。その場合に
        は、医師は、保健婦等と事前に十分な打合せを行い、それぞれの問診項目の目的と意義について
        正しく理解させておくことが必要である。
      ニ  定期健康診断
          定期健康診断においては、限られた時間内に多数の労働者を診断し、適切な措置を講じること
        が要求されるが、腰痛は自覚症状としての訴えが基本的な病像であり、様々な因子に影響を受け
        ることが多いため、問診は重要である。
          定期健康診断の項目のうち(イ)の項目については、スクリーニング検査とし、医師が直接問診
        することが望ましいが、参考1の腰痛健康診断問診票により、医師の指導の下に保健婦等が行っ
        てもよい。また、(ロ)の項目の検査の実施に当たっては、参考2の腰痛健康診断個人票により行
        うことが望ましい。
      ホ  事後措置
          健康診断は、継続的な健康管理の一環として行うものであるが、単に腰痛者の発見、治療を目
        的としたものではない。事業者は、労働者の健康を保持増進するため、産業医等の意見を十分に
        聴取し、作業内容の適否等を考慮しながら、作業環境の整備、作業方法の改善、作業時間の短縮
        等を行わなければならない。この場合、健康診断結果をその労働者の健康管理に役立てるだけで
        なく、作業の種類等により分析し、比較・検討した上で、作業環境及び作業方法の改善に反映す
        ることが望ましい。
          また、健康診断の結果、異常が発見された場合は、産業医等の意見に基づき、必要な治療・運
        動療法の指導等の措置を講じなければならない。
  (2)  作業前体操、腰痛予防体操
      イ  作業前体操の実施
          急性腰痛は、休日明けの作業開始直後から3、4時間の間に起こりやすいこと、始業時は体の
        動きや外力に対する反応性等が低下していること、作業の前に筋肉をストレッチ等で刺激すると
        その後の筋活動に対する備えができることなどから、始業時には、ストレッチ体操や膝、脊椎、
        股関節等の屈伸・ねん転運動等の準備体操を行う必要がある。
          腰部に過度の負担のかかる作業を開始する前には、下肢関節の屈伸、体幹部のねん転、筋肉の
        ストレッチを含む体操を行う必要がある。
          作業前体操は、参考3を参照として、作業内容に応じた適切なものとし、ヘルスケア・リーダ
        ー等の指導の下に行うことが望ましい。
      ロ  腰痛予防体操の実施
          職場内の施設又は家庭において腰痛予防体操を実施し、腰部を中心とした腹筋、背筋、臀筋等
        の筋肉の柔軟性を確保するとともに、筋肉を再建することが腰痛の予防にとって重要である。ま
        た、腰痛予防体操は、腰痛の治療にも有効である。
          腰痛予防体操は、参考4を参照として、産業医等の指導の下に行うこと。
「5  労働衛生教育等」について
  (1)  労働衛生教育
        腰痛の予防等に関する労働衛生教育は、雇入れ時又は当該業務への配置換えの際に確実に実施す
      るほか、腰痛患者の発生時、作業内容・工程・手順・設備の変更時等にも行うことが重要である。
        なお、当該教育の実施に当たっては、十分な知識と経験のある産業医等を講師に依頼し、視聴覚
      機器の使用や小グループ指導、討議等の方法を取り入れて、教育効果が上がるように工夫すること
      が望ましい。
  (2)  その他
        バランスのとれた食事をとることにより、全身及び筋・骨格系の疲労や老化の防止に好ましい作
      用が期待される。また、十分な睡眠も全身及び腰部の疲労回復に有効である。なお、喫煙は、末梢
      血管を収縮させ、特に腰椎椎間板の代謝を低下させると考えられている。

「別紙  作業態様別の対策」について
I  重量物取扱い作業
  1  自動化、省力化
      腰痛予防のための人間工学的対策は、作業姿勢の改善という目的から開発されたものと、重量物取
    扱い動作の改善という目的から開発されたものがあるが、具体的な対策は両者に共通する場合が多い。
    このような対策の具体例として、昇降作業台の採用、サスペンション搬送モノレールの設置、足踏み
    ジャッキの採用等が挙げられる。
  2  重量物の取扱い重量
      最大筋力を発揮できる時間は極めて短時間であって、筋力は時間とともに急激に低下する。したが
    って、取扱い重量の上限は、把持時間との兼ね合いで決まる。また、把持時間は、筋力の強弱によっ
    て左右される。
      重量物を反復して持ち上げる場合は、エネルギー消費量が大きくなり、呼吸・循環器系の負担が大
    きくなるので、反復回数に応じて作業時間と小休止・休息時間を調節する必要がある。
      なお、一般に女性の持ち上げ能力は、男性の60%位である。
  3  荷姿の改善、重量の明示等
      取り扱う荷物に取っ手等を取り付けたり、包装して持ちやすくする場合は、重心の位置ができるだ
    け労働者に近づくようにする。
      同一重量でも、荷物の形状により取扱いに難易を生じ、また、実際の重量が、外見とは大きく異な
    ることがある。このため、誤った力の入れ方、荷物の反動等により、腰部に予期せぬ負担が発生し、
    腰痛を引き起こすことがある。取り扱う荷物の重量を表示することにより、労働者が、あらかじめ当
    該荷物の重量を知り、持ち上げる等の動作に当たり、適切な構えで行うことが可能となる。
      なお、著しく重心の偏っている荷物で、それが外見から判断できないものについては、重心の位置
    を表示し、適切な構えで取り扱わせることも必要である。
4  作業姿勢、動作
  (1)  床面等から荷物を持ち上げる場合には、片足を少し前に出し、膝を曲げてしゃがむように抱え
     (図a)、この姿勢から膝を伸ばすようにすることによって持ち上げる。両膝を伸ばしたまま上体
      を下方に曲げる姿勢(図b)を取らないようにする。ただし、膝に障害のある者が軽量の物を取り
      扱う場合には、この限りでない。

(図)

  (2)  重量物を持ったまま身体をねん転させるという動作は、腰部への負担が極めて大きくなるため腰
      痛が発生しやすい。身体のひねりを伴う作業を解消することが理想であるが、それが困難な場合に
      は作業台の高さ、位置、配列等を工夫し、身体のひねりを少なくすべきである。
II  重症心身障害児施設等における介護作業
  1  作業姿勢、動作
    イ  立位から床上にいる人を抱え上げる場合には、片足を少し前に出し、膝を曲げてしゃがむように
      抱え(図a)、この姿勢から膝を伸ばすようにすることによって持ち上げる。両膝を伸ばしたまま
      上体を下方に曲げる姿勢(図b)を取らないようにする。

(図)

    ロ  立位で人を抱え、身体の前方で保持する場合には、できるだけ身体の近くで支え(図a)、腰の
      高さより上に持ち上げないようにする(図b)。
        また、背筋を伸ばしたり、身体を後に反らしたりしないようにする(図c)。

(図)

  2  作業標準
      介護に係る作業標準は、画一的なものにならないよう、それぞれの作業条件を勘案して策定する。
      なお、新しい機器や設備を導入したり、入所児等、作業内容等に変更があった場合には、その都度、
    作業標準の見直しを行う必要がある。
      長時間にわたり不自然な姿勢で介護を行うことは腰部に負担をかけることとなる。したがって、介
    護者の役割分担を明確に示し、併せて時間管理等を行うことにより、作業をしながら日誌を書く、食
    事の介助をしながら自分の食事を取る等2つ以上の行為を同時に行うことがないように配慮した作業
    標準を策定する必要がある。
  3  施設及び設備の構造等の改善
      介護設備、機器等の導入に当たっては、人間工学や労働衛生等の専門家の意見を聴き、ベッド、浴
    槽、トイレ、洗身台、介護室・居室、作業室、医務室、調理場、施設への出入口、連絡道、床面の材
    質、段差等について点検し、安全衛生面のみならず使いやすさを追及した施設・設備の改善を図るこ
    とが望ましい。
      また、ベッドは入所児等の移動が容易で高さの調整が可能なものとする。
      「介護に関連した業務を行うために必要な施設、機器等についても適切なものを整備する」とは、
    介護者が行う介護に関連した業務を行うための設備、例えば、事務、会議等を行うため、必要に応じ、
    十分な広さの机・背もたれのある椅子等を整備することをいう。
      「介護に必要な用具等」とは、生活用品、寝具、医療器具、介護器具、教材、遊具等をいう。
III  腰部に過度の負担のかかる立ち作業
  1  作業機器の配置
      作業機器の配置が適当でない場合は、前屈姿勢や過伸展姿勢を強いられることになるが、これらの
    姿勢は椎間板内圧を著しく高めることが知られている。
      また、作業面を身長に合わせるための最も簡単な方法として、足台の使用がある。
  2  他作業との組合せ
      腰椎にかかる荷重負担は、立位姿勢より椅座位姿勢のほうが大きいため、立位姿勢に椅座位姿勢を
    組み合わせる場合には、腰痛の既往歴のある労働者に十分配慮する必要がある。
  3  椅子の配置
      長時間立位姿勢を保つことにより、椎間板にかかる内圧の上昇のほかに、脊柱支持筋及び下肢筋の
    筋疲労が生じる。椅子の使用は、脊柱支持筋及び下肢筋の緊張を緩和し、筋疲労を軽減するのに効果
    がある。
  4  片足置き台の使用
      片足置き台に、適宜、交互に左右の足を載せることは、腰痛の予防に効果がある。片足置き台は適
    切な材料で、安定性があり、滑り止めのある適当な大きさ、高さ、面積のあるものとする。
  5  小休止・休息
      小休止・休息を取り、下肢の屈伸運動等を行うことは、下肢の血液循環を改善するために有効であ
    る。
IV  腰部に過度の負担のかかる腰掛け作業・座作業
  1  腰掛け作業
    (1)  椅子の改善
          大腿と幹を90°に固定すると骨盤が後方に回転し、腰部の生理的後彎が減少する。重心が前方
        に移るため、腰背筋の活動性が高まる。また、椅座位は立位に比べて椎間板内圧が高いことが知
        られている。腰痛と関係のあるこのような状態を緩和するために、椅子の改善が重要である。
          腰痛防止の観点から望ましい椅子の条件は、次のとおりである。
        [1]  臀部が前方に滑らないように座面が後方に傾斜(14°〜24°)すること。
        [2]  背もたれが後方に傾斜(110°〜130°)すること。
        [3]  背もたれに腰パットが備えられていること。腰パットの頂点は第3腰椎と第4腰椎の中間
            にあることが望ましい。
              椅子は労働者の体格に合わせて調節できるものが望ましく、椅子の調節部位は座面高、背
            もたれの位置の前・後方への移動、背もたれの高さ、座面の角度等である。
              椅子は、その位置が調節できるようにキャスター付きの安定したもので、座面や背もたれ
            の材質は、快適で熱交換の良いものが望ましい。
    (2)  作業台の改善
          作業台上の機器・用具の配備は、作業域及び視機能を確保するために広さと高さが適切なもの
        とする。
    (3)  作業姿勢等
          椅座位姿勢は立位姿勢に比べて、足関節、膝関節等を固定する必要がないため、身体全体から
        見れば筋疲労が軽減される。また、下肢筋の収縮が軽度で、心臓に対する下腿の静水圧も小さい
        ので、静脈環流の阻害も立位に比べて少ない。
          また、上体が安定しているため精密作業や筆記等の事務作業に適している。しかし、可動性が
        制限されているため、体位の反復移動を必要とする作業や大きな筋力、回転力等を必要とする作
        業には適さない。
          長時間、椅座位を取り続けると背部筋の疲労によって前傾姿勢になり、また、腹筋の弛緩、背
        柱の生理的彎曲の変化や大腿部圧迫の影響も現れる。この影響を避けるため、足の位置を変えた
        り、背もたれの角度を変えて後傾姿勢を取ったり、適宜立ち上がって膝を伸ばす等姿勢を変える
        必要がある。
  2  座作業
      座作業では強度の前傾姿勢が避けられないため、腰部の筋収縮が強まり、椎間板内圧が著しく高ま
    る。このため、できるだけ座作業を避けることが必要である。
      座作業は、いわゆる「職人」等に多く見られる。座作業においては、作業速度を制御し、小休止・
    休息を長めに、回数を多く取ることが望ましい。
V  長時間の車両運転等の作業
  1  座席の改善等
      座席は、加速度や振動に対して腰背部の支持を安定させるために、体圧分布、着座姿勢、クッショ
    ン性、背幅の寸法感覚、ホールド性が良好なものであることが必要である。
      上体を真直に伸ばした椅座位は、自然にリラックスした椅座位に比べて、振動の影響を受けやすく、
    振動により筋緊張や反射が高まり、末梢血流が減少する。また、平衡覚刺激の影響や視認時間の延長
    等視覚機能の低下もいわれている。したがって、座席を、振動を減衰させるような構造に改善するこ
    とが望ましい。
      腰痛に関係のある椎間板内圧は、腰部サポートの高さと背もたれの傾斜角度の影響を受け、背もた
    れ角度が大きくなるに従い低くなるが、背もたれ角度が130 °を超えると肘関節が伸びてハンドル操
    作性が悪くなり、肩の筋の負担が増大する。したがって、背もたれの角度は110°から120°程度がよ
    い。
  2  小休止・休息
      小休止・休息は拘束姿勢による負担を解消するためのものであるから、車両から降りて全身の軽い
    屈伸運動をする等の「積極的休息(アクティブ・レスト)」を取らせることが望ましい。
      また、フォークリフト等で見られる後ろ向き姿勢での運転作業については、小休止・休息を長めに
    取らせることが望ましい。
  3  車両運転直後の重量物取扱い
      車両運転中は、拘束姿勢による末梢血液循環の阻害、幹筋の筋緊張の高まり、内耳の平衡覚に対す
    る振動の影響等により、一時的な筋力調節不全(脱力感)等が生ずることがあり、長時間の車両運転
    の直後に重量物を取り扱うことは好ましくない。したがって、小休止・休息及び作業前体操を行って、
    筋力調節不全と末梢血液循環の阻害を解消してから、重量物の取扱い作業を行う必要がある。

参考1(腰痛健康診断問診票)(PDF:68KB)

参考2(腰痛健康診断個人票)


参考3  作業前体操

例1  立って行う体操  (表)
例2  椅子に腰かけて行う体操  (表)
例3  床上で行う体操(ウイリアムスの運動)  (表)
参考4  腰痛予防体操(例)  (表)