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病源性大腸菌O−157による食中毒の予防について

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                                                                                    内翰
                                                                           平成8年7月24日

拝啓  労働衛生行政の推進につきましては、日頃より格別の御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
  さて、病原性大腸菌O−157を原因とする食中毒につきましては、当初、学校給食等を主な感染源として、
学童を中心に発生していたところでありますが、その後、社員食堂における食事が感染源と疑われる症例
が発生する等、感染経路の職域への拡大が懸念されているところであります。
  労働省といたしましては、職域における病原性大腸菌O−157による感染を予防するため、厚生省等の関
係省庁における対策の把握に努め、食堂又は炊事場を附属する事業場に対し情報等の提供を行っておりま
す。
  貴職におかれましても、病原性大腸菌O−157関連の情報として、厚生省関係部局発出の平成8年6月6
日付け衛食第146号「食中毒事故発生防止の徹底について」、平成8年6月12日付け衛食第151号「病原性
大腸菌O−157による食中毒防止の徹底について」及び平成8年7月17日付け衛指第118号「食中毒事故発
生防止の徹底について」を別添のとおり送付しますので、関係事業場に対する情報の提供等につきまして、
御配意下さるようお願い申し上げます。
敬具 

別添

事務連絡発出先
1  中央労働災害防止協会  専務理事
2  建設業労働災害防止協会  専務理事
3  陸上貨物運送事業労働災害防止協会  専務理事
4  港湾貨物運送事業労働災害防止協会  専務理事
5  林業・木材製造業労働災害防止協会  専務理事
6  鉱業労働災害防止協会  専務理事
7  日本経営者団体連盟  環境安全部長

(別添)

衛食第  146  号 
平成8年6月6日

各都道府県衛生主幹部(局)長  殿
各政令市衛生主幹部(局)長  殿
各特別区衛生主幹部(局)長  殿

  厚生省生活衛生局食品保健課長    

食中毒事故発生防止の徹底について

  食中毒事故の発生防止については、平素から御尽力をいただいているところであるが、本年の食中毒の
発生状況をみると、既にサルモネラ菌を病因物質とする食中毒事故において死者2名、また本年5月28日
には岡山県において発生した病原性大腸菌O157を病因物質とする食中毒事故において死者2名が発生し、
現時点で計4名の死者を数えているところであり、例年になく細菌性食中毒による死者数が多い。また、
例年の傾向からみると、これから夏期に向けて食中毒による事故が増加することが予想される。
  ついては、食品関係営業施設等の監視指導を徹底し、食中毒事故発生の防止に万全を期するようお願い
する。

病原性大腸菌による下痢症

1  発生状況
    一般に、乳幼児及び小児が罹患しやすい。
2  分類及び症状
    病原大腸菌の性質によって次の4者に区別できる。
  (1)  浸襲型(赤痢型)
        腹痛、発熱、血便等の赤痢症状を呈する。
  (2)  非浸襲型(サルモネラ型)
        多くの病原大腸菌はこの型に属している。(O18、O126等)サルモネラに似た急性胃腸炎の形で
      発病する。
  (3)  毒素原性大腸菌
        易熱性の毒素(LT)、耐熱性の毒素(ST)によって下痢を引き起こす。水や食物による集団発生
      のあることが認められている。
  (4)  出血性大腸菌(O157等)
        1982年に初めて報告された。Verocytotoxinを産生し出血を起こす。
3  予防対策
    病原性大腸菌の感染源は、患者の糞便及びそれに汚染された食品、水、器物、手指である。したがっ
  て、予防対策としては以下の3点に注意する必要がある。
  (1)  食品の衛生的な取扱い(保存、運搬、調理)をして汚染を防ぐとともに、低温に温度管理し菌の
      増殖を抑えること。
  (2)  飲料水について定期的に水質検査を行い、衛生管理に努めること。
  (3)  手指をよく洗い、器物も十分洗浄して用いること。
4  潜伏期
    一般に12〜72時間、O157は4〜9日(平均5.7日)
5  予後
    乳児を侵したある劇的な流行では30〜50%の死亡率が報告されているが、通常死亡率は5%以下であ
  る。
6  治療
    いずれの型にも症状出現後早めに抗生物質を投与し、菌の増殖を抑えるべきである。抗生物質の選択
  は、感受性検査を行い決定するが、通常TCやニューキノロン系が使用される。
    赤痢型、サルモネラ型大腸菌では、抗生物質により治療を持続するが、毒素原性大腸菌では下痢によ
  る脱水症状を起こしやすいので輸液が必要となる(対症療法)。出血性大腸菌による症状には、輸液等
  の対症療法が必要である。

衛食第  151  号 
平成8年6月12日

各都道府県衛生主管部(局)長  殿
各政令市衛生主管部(局)長  殿
各特別区衛生主管部(局)長  殿

厚生省生活衛生局食品保健課長    

病原性大腸菌O157による食中毒防止の徹底について

  食中毒事故発生防止については、平成8年6月6日付け当職通知(衛食第146号)「食中毒発生防止の
徹底について」において対策に万全を期するようお願いしたところであるが、その後、岡山県に引き続き、
広島県においても病原性大腸菌O157による食中毒事故が発生する事態となったところである。
  当該事故については、現在、二次感染の防止及び発生事故の原因究明等が行われているところであるが、
貴職におかれても、事態の重要性にかんがみ、下記の事項に留意の上、病原性大腸菌O157による食中毒
防止の徹底につき万全を期するようよろしくお願いする。
記
1  病原性大腸菌O157の症状、感染防止策、治療法は別添のとおりであること。
2  病原性大腸菌O157による食中毒事故については、過去においては、学校給食等集団給食施設が関係
  する例が見られることから、貴管下関係施設における衛生管理についての監視指導に努められたいこと。
3  病原性大腸菌O157による食中毒患者については、死亡事例が見られることより、万一病原性大腸菌
  O157による食中毒事故が発生した場合には、患者への対応について万全を期すとともに、十分な二次
  感染防止策を講じられたいこと。
4  食中毒事故の発生の報告、連絡は、昭和39年7月13日付け環境衛生局長通知(環発第214号)に基づ
  き行われているところであるが、万一、病原性大腸菌O157が疑われる食中毒事故が発生した場合には、
  当職あて電話等により連絡するとともに、貴管下関係部局等との連絡についても十分密にされたいこと。

病原性大腸菌O157について

  本菌によって起こる典型的な症状が出血性大腸炎であることから、一般に腸管出血性大腸菌(EHEC)と
呼ばれている。しかし、本菌によって起こる症状は大腸炎に限らず、溶血性尿毒症症候群においては様々
である。
  1982年アメリカにおいてハンバーガーを原因とする集団下痢症で、初めて患者ふん便から分離された。
  日本では、1990年埼玉県浦和市の幼稚園で死者2名を含む268名に及ぶ集団発生以降、注意を要する食
中毒菌として注目されている。
  潜伏期は4〜8日と、他の食中毒菌と比べて長いため、原因究明に苦慮することが多い。
[症状]
  [1]  出血性大腸炎
        初発症状の多くは、腹痛を伴う粘液成分の少ない水溶性の下痢である。その後の下痢の回数は次
      第に増加し、1〜2病日で鮮血の混入を認め、典型例では、便成分をほとんど認めない血性下痢と
      なる。
        本菌による症状は、発症後4〜8日で自然に治癒するが、5歳以下の乳幼児や基礎疾患を有する
      老人では、本菌に対する感受性が高く、重傷に至る例もある。このような患者では、溶血性尿毒症
      症候群となるケースがあり、死に至ることもある。
  [2]  溶血性尿毒症症候群(HUS)
        赤血球が破壊されることによる溶血性貧血、腎臓機能低下による尿毒症症状、血小板破壊による
      出血が主徴である。しばしば中枢神経症状(けいれん)を伴い、死に至ることもある。
[感染防止策]
  ・汚染された食肉から他の食品への二次汚染、並びに人から人への経口二次汚染防止
  ・食品の十分な加熱
  ・飲料水の衛生管理(井戸水、受水槽)
  ・手指の洗浄、消毒
  ・患者ふん便の衛生的な処理
[治療法]
    症状発現後、早めに抗生物質を投与し、菌の増殖を抑えるべきである。抗生物質の選択は、感受性検
  査を行い決定するが、通常テトラサイクリン系抗生物質やニューキノロン系抗菌剤が使用される。
    病原性大腸菌では、下痢による脱水症状を改善するために輸液等の対症療法が行われるが、腸管出血
  性大腸菌の場合は、透析及び輸血等の対症療法が必要である。

(別紙)

病原性大腸菌の予防対策等について

1  病原性大腸菌とは
    大腸菌は、正常な人の腸にも存在する細菌ですが、最近、数県において発生し、死亡者まで出してい
  る大腸菌は、病原性大腸菌O−157と分類されています(正確には、死亡者を出すような毒性の高い菌は
  「大腸菌O−157:H7」と細かく分類されています。)。この菌による下痢は、はじめは水様性ですが、
  後には、出血性となることがあることから、腸管出血性大腸菌とも呼ばれています。
    この菌は、ベロ毒素と言われる毒素を産生することが特徴で、これにより腎臓や脳に重篤な障害をき
  たすことがあり、菌の感染力や毒力は、赤痢菌なみと言われています。これまで我が国で報告されてい
  る死者は、全て乳幼児及び小児ですので、乳幼児、小児や基礎疾患を有する高齢者の方(以下[乳幼児
  等]と略します。)では、重傷に至る場合もあるので、特に注意を要します。なお、本菌は家畜等の糞
  便中に見つかることがあります。
2  我が国での発生状況等について
    この菌は、アメリカで1982年ハンバーガーを原因とする集団下痢症が起こったときに、はじめて患者
  の糞便から見つかりました。
    日本においては、1990年に埼玉県浦和市の幼稚園で汚染された井戸水により死者2名を含む268名に
  及ぶ集団発生が報告された以降、注意を要する食中毒の原因菌として知られています。
    平成7年度までに、我が国でもこの菌により10件の集団食中毒等の事例が報告されて、合計3名の死
  者が出ています。
3  予防対策は
    本菌を含む家畜あるいは感染者の糞便等により汚染された食品や水(井戸水等)の飲食による経口感
  染がほとんどですが、この菌は、他の食中毒菌と同様熱に弱く、加熱により死滅します。また、どの消
  毒剤でも容易に死滅します。なお、以下のことを行えば、感染を最小限に食い止められますので、心配
  はいりません。
  (1)  感染予防には、以下のことが有効です。
      [1]  食品の保存、運搬、調理に当っては、衛生的に取り扱い、かつ、本菌による汚染が心配され
          るものについては、十分な加熱を行ってください。
      [2]  食品を扱う場合には、手や調理器具を流水で十分に洗ってください。
      [3]  飲料水の衛生管理に気を付けてください。特に、井戸水や受水槽の取り扱いに当っては、注
          意してください。
  (2)  なお、万一、出血を伴う下痢を生じた場合には、以下の事項に気を付けてください。
      [1]  ただちにかかりつけの医師の診察を受け、その指示に従ってください。乳幼児等は特に注意
          してください。
      [2]  患者の糞便を処理する時には、ゴム手袋を使用する等衛生的に処理してください。また、患
          者の糞便に触れた時には、触れた部分を逆性石鹸や70%アルコールで消毒した後、流水で十分
          洗い流してください。
      [3]  患者の糞便に汚染された衣服等は、煮沸や薬剤で消毒したうえで、家族のものとは別に洗濯
          し、天日で十分に乾かしてください。
  (3)  患者がお風呂を使用する場合には乳幼児等との混浴を控えてください。

衛指第  118  号 
平成8年7月17日

(社)全国環境衛生同業組合中央会理事長  殿
厚生省生活衛生局指導課長    

食中毒事故発生防止の徹底について

  地域における食品衛生の向上については、平素からご尽力いただいているところであるが、今般、大阪
府堺市で病原性大腸菌O−157を原因とする小学生の集団食中毒が発生した。また、全国における本年の食
中毒の発生状況をみると、現時点で病原性大腸菌O−157による食中毒での死者3名及びサルモネラ菌によ
る食中毒での死者2名と合計5名の死者を数えるなど例年になく細菌性食中毒による死者数が多くなって
いる状況にある。
  例年の傾向からみると、これから夏期に向けて食中毒による事故が増加することが予想され、万全の注
意が必要な事態となっている。
  ついては、現在、各自治体あて食中毒の発生防止に関して別添のとおり生活衛生局長及び食品保健課長
通知を出し指導衛底を図っているところであるが、貴職におかれても別添の通知を了知の上、貴管下関係
団体に対してこの旨の指導を徹底し、食中毒事故発生の防止に万全を期するようお願いする。
  なお、主な留意点は下記のとおりである。
記
1  食中毒事故の発生防止について
  (1)  調理及び盛りつけ時の衛生には特に注意すること。
        新鮮な食品の入手、適温保管をはじめ、特に調理、盛りつけ時の衛生(なま物はなるべく避け、
      加熱を十分行う、盛りつけは手で行わない等)には十分留意すること。
        また調理後はなるべく速やかに喫食させるようにし、やむを得ない場合には冷凍保存等に努める
      こと。
        なお、食器具等の十分な洗浄消毒、衛生的保管にも十分注意すること。
  (2)  原料食品の購入に当たっては、品質、鮮度、汚染状態等に留意する等検収を確実に実施し、事故
      発生の防止に努めること。
  (3)  調理従事者等の日常から健康管理に努め、特に調理、喫食前の手洗いの励行に努めること。
2  食中毒事故が発生した場合の事後対策について
    万一、食中毒事故が発生した場合、あるいはその疑いが生じた場合には医師の診察を受けるとともに、
  速やかに最寄りの保健所に連絡を取り指示を仰ぐなどの措置を取り、事故の拡大を最小限に止めるよう
  に徹底すること。