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四塩化炭素による健康障害を防止するための指針について
(平成28年3月31日 基発0331第26号により廃止)

改正履歴

  労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第3項の規定に基づき標記指針を作成し、その名称及び
趣旨を平成3年8月26日付け官報に公示した。
  本指針は、四塩化炭素による労働者の健康障害の防止に資するため、その製造、取扱い等に際し事業者
が講ずべき措置に関する留意事項について定めたものである。
  ついては、別添<略>のとおり指針(全文)を送付するので、下記事項に留意のうえ、あらゆる機会を
とらえて事業者及び関係事業者団体等に対して、本指針の周知を図るとともに、本指針の趣旨を踏まえ各
事業場において四塩化炭素による健康障害の防止対策が適正に行われるよう指導されたい。
  なお、本指針は、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第24条の9の規定により、都道府県労
働基準局において閲覧に供することにより公表するものであるので念のため申し添える。

記

第1  趣旨
    四塩化炭素は、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)に定め
  る第1種有機溶剤に該当し、有機則第1条第1項第6号に掲げる有機溶剤業務については、局所排気装
  置、保護具の使用、健康診断及び作業環境測定の実施等、すでに有機則において労働者の健康障害の防
  止のための所要の措置を講ずることとされているところである。これは四塩化炭素が肝臓障害、腎臓障
  害、神経障害等の健康障害を人体に引き起こすことが知られているために、労働者に対するこれらの健
  康障害を防止することが知られているために、労働者に対するこれらの健康障害を防止することを目的
  とした措置である。
    四塩化炭素のがん原性については、哺乳動物に対してがん原性を有するという複数の研究報告がなさ
  れており、労働省としてもそのがん原性についての調査を進めてきたところであるが、労働安全衛生法
  第57条の4の規定に基づき設置された日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県秦野市)における哺
  乳動物を用いた長期吸入試験により哺乳動物の肝臓に悪性の腫瘍を発生させることが判明した。この試
  験結果は、労働環境中の主要なばく露経路であり、かつ、これまであまり報告されていなかった吸入に
  よるばく露試験の結果であるという点で注目すべきものである。四塩化炭素の人に対するがん原性につ
  いては現在確定しておらず、必ずしもがん等の重度の健康障害を生じるおそれが強いとは判断されない
  ものの、労働者がこれに長期間ばく露した場合、肝臓障害等従来より知られている健康障害のほかに、
  将来においてがん等の重度の健康障害を生ずる可能性も否定できず、この観点から労働者の健康障害の
  防止に特別の配慮が求められる。
    このようなことから、この指針において、四塩化炭素のがん原性に着目し、現行の有機則の規定によ
  る措置以外に、四塩化炭素又は四塩化炭素を含有するものを製造し、又は取扱う業務全般を対象として、
  労働者の健康障害を防止するために講ずべき措置に関する留意事項を規定することとしたものである。
    なお、有機則の適用範囲は四塩化炭素又は四塩化炭素を5パーセントを超えて含有するものとなって
  いるが、本指針は適用範囲を1パーセントを超えて含有するものとしていることに留意すること。
  (一部削除)

第2  四塩化炭素のばく露を低減するための措置
1  指針の2の(1)関係
    有機則が適用される業務にあっては、設備の密閉化、局所排気装置の設置等有機則に定めるばく露低
  減措置を講ずることは当然であるが、これに加えて本指針に定める措置を講ずることによって、四塩化
  炭素のばく露を低減させる趣旨であること。これらの措置については、有機則においては特段の規定を
  設けていないが、化学物質のがん原性に着目した場合に労働者の四塩化炭素へのばく露を減少させるた
  めに有効とされる措置であること。
  (1) 指針の2の(1)のイ関係
      労働者のばく露の低減化を図るため、事業場における四塩化炭素等の製造又は取扱い量、作業の頻
    度、作業時間、作業の態様等を総合的に勘案し、2の(1)のイに掲げた措置の中から当該事業場にお
    いて適正な措置を講ずることとしたものであり、2の(1)のイに掲げるすべての項目について措置を
    講ずることを求める趣旨ではないこと。例えば、有機則適用業務であるために、すでに局所排気装置
    の設置をしている場合に、さらに四塩化炭素のばく露の低減化を図るために、作業方法を改善し、あ
    るいは作業位置を工夫する等の措置は、本指針の趣旨に沿うものであること。
      なお、2の(1)のイの「その他必要な措置」には代替物質への変更、隔離室での遠隔操作等が含ま
    れること。また「使用条件等の変更」には、使用温度の適正化等があること。
  (2) 指針2の(1)のニ関係
      設備、装置等の操作、点検、異常な事態が発生した場合の措置、保護具の着用等についての作業基
    準を作成し、これを労働者に遵守させることによって、より効果的にばく露の低減化を図ることを目
    的としたものであること。
2  指針2の(2)関係
    有機則適用業務以外の業務にあっては、四塩化炭素の製造又は取扱い量、作業の頻度、作業時間、作
  業の態様等を総合的に勘案し、当該作業場において指針2の(2)のイに掲げるものの中から適切な措置
  を講ずることとしたものであり、2の(2)のイに掲げるすべての項目について措置を講ずることを求め
  るものではないこと。例えば、一日のうちで、四塩化炭素等にばく露する時間がきわめて短時間である
  等の理由によって、設備の密閉化あるいは局所排気装置の設置が必ずしも現実的でない場合において、
  作業方法の改善と保護具の使用を効果的に行い、四塩化炭素のばく露の低減化を図る等の措置は本指針
  の趣旨に沿うものであること。
    また、指針2の(2)のイの「その他必要な措置」及び「使用条件等の変更」は上記指針2の(1)のイ関
  係における場合と同様の趣旨であるとともに、「局所排気装置等」には、局所排気装置のほか、プッシ
  ュプル型換気装置、及び全体換気装置等が含まれるものであること。

第3  作業環境測定
    有機則においては作業環境測定の結果及び評価の記録の保存は3年間となっているが、本指針におい
  て有機則適用業務、有機則適用業務以外の業務を問わず、作業環境測定の結果及び結果の評価を記録し、
  これを30年間保存することとしたのは、四塩化炭素の人に対するがん原性については現時点では評価
  が確定していないものの、その可能性があることから、がん原性等の遅発性の健康障害は、そのばく露
  状況を長期間にわたって把握する必要があることを考慮し、特定化学物質等障害予防規則における特別
  管理物質に関する記録の保存の規定にならい、これを定めたものであること。
    なお、四塩化炭素にがん原性があるとする種々の情報があり、がん原性に着目した作業環境管理を行
  う必要があることから、第1管理区分を継続するよう指導されたいこと。

第4  労働衛生教育
    四塩化炭素等を製造し、又は取り扱う業務に従事している労働者及び、当該業務に従事させることと
  なった労働者に対して、四塩化炭素の有害性等に着目した労働衛生教育を行うこととしたこと。本指針
  において、労働衛生教育を規定したのは、有機則適用業務にあっては、昭和59年6月29日付け基発第
  337号「有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育の推進について」により労働安全衛生法第59条第3
  項に規定する特別教育に準じた教育を行うこととされているが、四塩化炭素の有害性にかんがみ、新
  たに本指針の適用となる有機則適用業務以外の業務に従事する労働者に対しても、適切な教育を行うこ
  とが必要であることを考慮したものであること。
    なお、本教育は作業の変更がない限り繰り返し行う必要はないこと。また、有機則適用業務において
  すでに上記通達による教育を実施している場合は、重ねて本指針による教育を実施する必要はないこと。

第5  ばく露労働者の把握等
    労働者の氏名等の記録を30年間保存することとしたのは、上記第3と同様の趣旨であること。
(参考)
1  日本バイオアッセイ研究センターにおける長期吸入試験の結果について(抄)
    Fischer344ラットとBDFマウスの雌雄それぞれ200匹をそれぞれ4群に分け、それぞれに四塩化炭素に
  ばく露しない群(対照群)、5ppm、25ppm、125ppmの4段階の四塩化炭素のばく露レベルに分けて104
  週にわたって吸入経路により、四塩化炭素にばく露させた結果、肝細胞がんの発生は、次のような結果
  になった。(表)
2  四塩化炭素について
  (1) 性状
      四塩化炭素は、大半がフロンガスの製造原料として用いられているが、不燃性であり、溶解性も大
    きいという性質から化学工業等において製造工程の反応媒体、抽出溶剤としても使用されており、四
    塩化炭素の平成2年度の製造・輸入の合計数量は71,908トンである。
      四塩化炭素は、無色透明で、水よりも重く、クロロホルムに似た特有の臭いを有する液体で、主な
    特性は表に示すとおりである。また、その蒸気は、空気より重く(空気の5.3倍)、換気の悪い低い
    場所に滞留する傾向があり、排気・換気の場合には、蒸気の比重を考慮する必要がある。
      四塩化炭素は水には溶けないが、エタノール、エーテルなど通常の有機溶剤とは相互によく溶け合
    い、油脂類、グリース等を溶解し、一般にプラスチック、ゴム等を溶解又は膨張させる。(表)
  (2) 有害性
      四塩化炭素は、作業場における吸入又は皮膚吸収により中毒作用を起こし、とくに肝臓、腎臓、皮
    膚、神経系に障害を起こす。
      高濃度の蒸気にばく露されると、頭痛、疲労感、悪心、嘔吐、めまい、視力障害等を起こし、体内
    吸収量が多い場合には、数時間ないし2日くらい後に、肝臓・腎臓障害が現れる。
      低濃度の蒸気であっても、繰返しばく露すると慢性中毒を起こす。また、裸火などの高温に触れる
    と分解し、ホスゲンなどの有毒ガスを発生することがあり、注意が必要である。
3  その他の四塩化炭素に係る情報
  (1) 国際がん研究センター(IARC)の評価
      四塩化炭素には、いくつかの投与経路によりマウス及びラットの肝臓に悪性腫瘍を発生させる。ま
    た、皮下投与によりラットに対して乳房に悪性腫瘍を発生させる。また、不十分な結果ではあるが、
    ハムスターにも肝臓がんを生じさせる結果もあるなど、哺乳動物に対するがん原性の証拠は十分であ
    るとしている。
  (2) 米国産業衛生専門官会議(ACGIH)の評価
      四塩化炭素に係る限られた疫学調査と動物種におけるがん原性試験の結果をもとにがん原性の疑い
    がある物質であるとしている。
4  本指針と有機則との関係
    本指針と有機則との関係は下図<略>のとおりである。