安全衛生情報センター
現在、我が国の化学物質による中毒の労働災害の発生状況をみると、一酸化炭素(以下「CO」という。) によるものが1〜2割を占め、休業4日以上の被災労働者数は毎年30名以上で推移するなど、減少の傾向が みられないところです。(別紙1参照) CO中毒の防止については、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第578条に基づく内燃機関の使 用禁止、「建設業における一酸化炭素中毒防止のためのガイドライン」(平成10年6月1日基発第329号の1 )等により措置することとされているところです。(参考参照) また、厚生労働省におきましては、平成22年1月より同年6月まで、「職場における化学物質管理の今後 のあり方に関する検討会」が開催され、同年7月に報告書がとりまとめられましたが、その中においても 「内燃機関、ガス機器等におけるCO中毒の防止については、換気の必要性についての教育を徹底するとと もに、鉄鋼業におけるCO警報センサーの着用による災害の防止事例等を参考にして、更に一層推進するこ と。また、一部の特に有害な屋外作業における化学物質による中毒災害についても、換気・送気、呼吸用 保護具の着用等の有効な対策の推進が必要である。」とされたところです。 さらに、経済産業省原子力安全・保安院保安課長、ガス安全課長及び液化石油ガス保安課長の要請を受 けて、都道府県労働局宛て、平成23年6月21日付け「食品工場及び業務用厨房施設における液化石油ガス 及び都市ガスの消費施設による一酸化炭素中毒事故の防止に関する関係団体等に対する注意喚起の実施に ついて」を発出するなど、関係省庁が連携してCO中毒防止対策に取り組んでいるところです。 つきましては、CO中毒防止の観点から、貴団体におかれましても、別紙を参考に貴会会員に対して、下 記の事項について周知徹底していただくようお願いします。
1 基本的事項 CO中毒を防止するための基本的な共通事項は以下のとおり。 (1) 労働衛生管理体制 作業責任者の選任、作業手順書の作成と遵守 (2) 作業管理 作業開始前の燃焼装置等の点検、作業中の換気、CO警報センサーの携帯、呼吸用保護具の使用、異 常時の措置 (3) 作業環境管理 濃度測定の実施、換気装置の性能確保 (4) 健康管理 健康診断又は健康測定の実施 (5) 労働衛生教育 雇入れ時及び作業内容変更時等あらゆる機会を活用した計画的かつ継続的な教育の実施 2 CO中毒の事例が見られる主な業種・作業における具体的な措置事項 (1) 建設工事業、設備工事業等 ア COが発生するおそれのある内燃機関を使用する作業及び練炭の使用に係る作業等を行う場合、CO 中毒予防に関する知識を有する者の中から作業責任者を選任し(下請け事業者を含む。)、CO中毒予 防のため必要な対応を行わせること。 イ 作業責任者は、作業手順書を作成し、これに基づき業務に従事する労働者を指揮すること。 ウ 自然換気の不十分なところでは内燃機関、練炭等を使用しないようにし、やむを得ず使用する場 合には、以下の事項を徹底すること。 (ア) 作業を始める(再開するときを含む。)場合には、CO濃度等を測定し、必要な場合は換気を行う こと。 (イ) 作業者の数に応じ、有効な呼吸用保護具を備え付けること。 (ウ) 作業中は十分な換気能力を有する換気装置を設置し、有効に稼働させること。 (エ) 労働者が作業を行っている間、継続的に、CO濃度を測定すること。 (オ) 換気が十分に行われていることが確認されている場合を除き、有効な呼吸用保護具を適正に着 用させること。 エ 労働者に対して、以下の事項を実施すること。 (ア) 雇入れ時の健康診断及び定期健康診断を実施すること。 (イ) 健康診断結果に基づき、適切な健康診断実施後の措置を講ずること。 オ 労働者に対し、教育等により以下の点について周知すること。 (ア) CO中毒の発生の状況、CO中毒の症状及びCO中毒防止の重要性 (イ) 換気設備の使用方法、警報装置の使用方法及び呼吸用保護具等の使用方法 (ウ) 緊急時の対応(避難訓練を含む) カ 「建設業における一酸化炭素中毒予防のためのガイドライン」(平成10年6月1日付基発第329号の 2)を適宜参照すること。 (2) 食料品製造業、ホテル旅館業、一般飲食店等 ア CO中毒防止に係る作業責任者を指名し、ガス燃焼機器使用中の換気設備の稼働、ガスの燃焼状況 及び換気設備についての定期点検の確認等の職務を行わせること。 イ ガス燃焼機器使用に当たっての換気設備の作動手順、ガスの燃焼状況及び換気設備についての定 期点検、業務用厨房不完全燃焼警報センサー作動時の対応等を記載したマニュアルを作成・整備し、 関係労働者への周知と遵守の徹底を図ること。 ウ 厨房等で燃焼機器等の火を使用している場所における作業を行う場合に、以下の事項を徹底する こと。 (ア) 十分な換気能力を有する換気装置を設置し、有効に稼働させること。 (イ) 業務用厨房不完全燃焼警報センサーを設置し、有効に稼働させ、作動した場合には適切な対応 をとること。 (ウ) 作業を行うに当たり、換気装置が有効に稼働していること、排気口につまりがないこと。 等の確認を徹底すること。 エ ガスの燃焼状況、換気設備の稼働状況及び給排気口の異物等の有無等についての定期点検及び必 要な補修を実施すること。 オ 労働者に対して、以下の事項を実施すること。 (ア) 雇入れ時の健康診断及び定期健康診断を実施すること。 (イ) 健康診断結果に基づき、適切な健康診断実施後の措置を講ずること。 カ CO中毒予防のための労働者に対する教育等により以下の点について関係労働者に周知すること。 (ア) CO中毒の発生の状況、CO中毒の症状及びCO中毒防止の重要性 (イ) CO中毒防止の予防措置(換気設備の作動手順、ガスの燃焼状況及び換気設備の定期点検、業務用 厨房不完全燃焼警報センサー作動時の対応等)に関する具体的な事項 (ウ) 燃焼機器等、火を使用する場合における換気等の必要な対策 キ 「業務用厨房における一酸化炭素中毒による労働災害防止について」(平21年12月4日付け基安化 発1204第2号ほか)を適宜参照すること。 (3) 鉄鋼業 ア 作業を行う場合の責任者を明確にすること。COを取り扱う作業において作業主任者及び作業責任 者を選任すること。また、特定化学設備の改造、修理及び清掃等に当たっては、重ねて作業指揮者 を選任すること。 イ COを含むガスが存在するおそれのある場所での作業については、作業基準書、施工要領書等で安 全な作業手順を定め、徹底すること。 ウ COにばく露するおそれのある作業を行うに当たっては、以下によること。 (ア) CO関連設備内で設備の改善等の作業を行う場合は、特定化学物質障害予防規則第22条に基づき ガスを完全に遮断した上で内部のガスを完全に置換した上で行うこと。 なお、上記作業を行うに当たって、設備の構造上やむを得ずガスを完全に遮断できない場合は、 原則として送気マスクを用いるか、有効な呼吸用保護具(防毒マスクの破過時間を十分考慮した もの。)を用い、かつ、短時間作業に限定すること。 (イ) CO中毒のおそれがある場所に立ち入るときは有効な呼吸用保護具を着用させること。 (ウ) 施設内の巡視や故障時のメンテナンスにより、特に管理区域(CO濃度の高い場所として事業場で 独自に指定しているような場所)に立ち入る時は従事する労働者の全員に対して、CO警報センサー (50ppm以下に設定する)を携帯させること。 (エ) COの漏洩のおそれのある場所には固定式のCO警報センサーを設置すること。 (オ) CO警報センサーに衝撃を与えた場合はその直後に、また、湿気の多い場所で使用している場合 は定期的に、その有効性の確認を行うこと。 エ 水封式安全器、シールポット等の有効性検査など、設備を適切な状態に保つために定期的に検査 を行うとともに、設備の改修等の際には必要に応じその有効性について改めて確認を行うこと。 オ 労働者に対して、以下の事項を実施すること。 (ア) 雇入れ時の健康診断及び定期健康診断を実施すること。 (イ) 健康診断結果に基づき、適切な健康診断実施後の措置を講ずること。 カ 作業基準書の作成、労働者に対する教育等により労働者に以下の点について周知すること。 (ア) CO中毒の発生の状況、CO中毒の症状及びCO中毒防止の重要性 (イ) CO警報センサーの使用、換気の実施及び濃度測定等の必要な対策 (ウ) COを含むガスが存在するおそれのある場所に必要なく近づかないこと。 (エ) CO中毒のおそれがある場所での作業は呼吸用保護具(送気マスク、防毒マスク等)を着用するこ と。 (オ) CO中毒の疑われる症状がみられたらただちに医師の診察を受けること。 キ 「鉄鋼業における化学物質管理マニュアルの送付について」(平成17年6月1日付け基安化発第060 1001号)、「鉄鋼業における一酸化炭素中毒の防止にかかる点検の実施結果について」(平成18年4月 18日付け基安化発第0418001号)を適宜参照すること。 (4) 溶接作業 ア 作業責任者を選任し、下請け事業者を含めCO中毒予防のため必要な対応を行わせること。 イ COを含むガスが存在するおそれのある場所及びCOが発生するおそれのあるアーク溶接(マグ溶接、 被覆アーク溶接)での作業について作業標準書の整備を行うこと。 ウ 通風が不十分な場所において、溶接(特にCOが発生するおそれのあるアーク溶接)を行う場合は、 以下によること。 (ア) 十分な換気能力を有する換気装置を設置し、有効に稼働させること。 (イ) 呼吸用保護具の選定にあたっては、CO中毒防止を考慮し、送気マスク(エアラインマスク,ホー スマスク等)の導入について検討すること。 なお、作業の特性などにより別の危険が想定され、送気マスクの使用が困難な場合、溶接作業 者の背後に吸気口が付いている電動ファン付き呼吸用保護具は,吸入するCO濃度の低減が期待でき ることから、その導入について検討すること。この場合、他の溶接作業者による溶接の影響を受 けるおそれを少なくするため、警報器は溶接作業者の背後に装着することが望ましい。 (ウ) 必要に応じ労働者に対してCO警報センサー(50ppm以下に設定する)を携帯させること。 エ 溶接器具又は溶接機器の稼働状況等についての定期点検及び必要な補修を実施すること。 オ 労働者に対して、以下の事項を実施すること。 (ア) 雇入れ時の健康診断及び定期健康診断を実施すること。 (イ) 健康診断結果に基づき、適切な健康診断実施後の措置を講ずること。 カ 労働者に対する特別教育の実施に当たり、以下の点について周知すること。 (ア) 溶接作業におけるCO中毒の発生状況及びCO中毒防止の重要性 (イ) 風通しの悪い場所で溶接を行う場合等における換気等の必要な対策 (ウ) 呼吸用保護具の適切な選定及び着用方法 (エ) CO警報センサー稼働時の対応 キ 「アーク溶接作業における一酸化炭素中毒の防止について」(平成16年9月21日付け基安化発第09 21001号)を適宜参照すること。 (参考1) (注) 一酸化炭素(CO)中毒 COは不完全燃焼状態で炭素化合物が燃焼する際に発生し、無色・無臭で、その存在が感知しにくい気 体ですが、空気とほぼ同じ重さ(比重(空気を1としたときの重さ):0.97)で、強い毒性を有しています。 COは、赤血球中のヘモグロビンと結合しやすく、このためCOを吸入すると、血液の酸素運搬能力が下が ることによりCO中毒が起きます。CO中毒は、軽度の頭痛、吐き気等から始まり、その後、昏倒、致命傷 に至るため、無意識のうちに被災するという特徴があります。 平成20年に6人、平成21年に3人、平成22年に4人の労働者がCO中毒による労働災害により死亡していま す。(別紙1参照) (参考2) CO中毒対策に係る規定等 ・労働安全衛生規則第578条 (内燃機関の使用禁止) 事業者は、坑、井筒、潜函(かん)、タンク又は船倉の内部その他の場所で、自然換気が不十分なとこ ろにおいては、内燃機関を有する機械を使用してはならない。ただし、当該内燃機関の排気ガスによる 健康障害を防止するため当該場所を換気するときは、この限りでない。 ・「建設業における一酸化炭素中毒防止のためのガイドラインの策定について(平成10年6月1日基発第3 29号の2)」 建設業において自然換気が不十分な作業場所における、内燃機関を有する機械の使用又は練炭の燃焼 によるコンクリート養生作業等について、COにばく露されるおそれがある場合の換気、警報装置の要件 を定めたもの。 ・「アーク溶接作業における一酸化炭素中毒の防止について」(平成16年9月21日付け基安化発第0921001 号) タンク、ボイラー又は反応塔の内部その他通風が不十分な場所、通風が不十分な屋内作業場において 行うアーク溶接作業について、換気等の実施を要請したもの。 ・『「鉄鋼業における化学物質管理マニュアル」の送付について』(平成17年6月1日付け基安化発第0601 001号) 鉄鋼業におけるCO関連設備からのCOの漏洩防止、COを含むガスが発生していた場所にやむを得ず立ち 入る必要がある場合の確実な換気、的確な方法によるCO濃度測定等を定めたもの。 ・「鉄鋼業における一酸化炭素中毒の防止にかかる点検の実施結果について」(平成18年4月18日付け基安 化発第0418001号) 上記マニュアル等を踏まえて鉄鋼業においてCO中毒の防止に係る自主点検の結果をまとめたもの。 ・「業務用厨房施設における一酸化炭素中毒による労働災害防止について」(平成21年12月4日付け基安 化発第1204第1号) 外食チェーン等の業務用厨房施設においてガス燃焼機器を使用する作業について、ガス燃焼機器使用 中の換気の徹底、COセンサーの設置等を要請したもの。