職場の喫煙対策事例 安全衛生情報センターへ
(1) テナントビルの結果
 
事例1  A事業場
 
1 事業場の概要
(1)業種:化学工業(医薬品製造業)
事業内容:医療用医薬品の開発、製造及び販売
(2)所在地:大阪府
(3)従業員数:全従業員数 2,995人(男性:2,019人 女性:976人)当該事業場(本社)は約800人(約4割が女性)
(4)従業員の平均年齢:35.5歳
 
2 禁煙の概要
(1)喫煙対策の担当部署:人事総務本部 総務部 SHE推進室
(SHE:Safety Health Environment(安全・健康・環境))
(2)喫煙対策に取り組み始めた時期:1990年代の初めから
(3)禁煙を実施した時期:平成14年8月 〜
(4)従業員の喫煙率:不明(最近5年間は調査していない)
(5)昼休み等休憩時の喫煙:社内では昼休み等の休憩時にも禁煙としている。
(6)禁煙の状況
全社(本社、支社、工場、物流センター及び全営業系事務所)
(7)建物の構造:事務所 39階建て高層ビル(テナントビル)の24〜32階
(8)建物の所有者:テナントビル (禁煙についてはテナント毎に決定、実施)
(9)禁煙の内容:テナント内禁煙、屋外に喫煙スペースあり(従業員、来客者とも喫煙可)
・場所:敷地内の屋外スペース指定場所(オープンスペース:39階建てのビルのサイド、公園に面しているスペース等)
・設備:灰皿のみ設置(写真1−1)
 
3 禁煙の詳細
(1)禁煙にする前の状況
分煙対策として、屋内に喫煙室及び喫煙コーナーを設置していた。
屋内禁煙に向け、2段階で喫煙室及び喫煙コーナーを減少させた。
First Step 屋外に排気する換気扇つきの喫煙コーナーを各フロア毎に一箇所設置。
Second Step 1フロアのみ喫煙室を残した。
 
(2)禁煙にした動機及び経緯
ア 喫煙対策自体に取り組み始めたのは平成の初めからで、企業合併を行った際、両社では喫煙対策が異なっていた。1社には喫煙室があり、もう1社は換気扇付きの喫煙コーナーを設置して空間分煙により対応していた。そこで合併後は本社は1ヶ所のみの喫煙室とした。
イ 平成13年10月に改善提案制度への応募として本社喫煙室廃止の提案が社員から出された(たばこの煙が空調を通して他の部屋に漏れていたことも一因である)。
 事業場のSHE推進室が中心となり、喫煙者、非喫煙者の意見を聞き、役員会で検討され、平成14年1月に本社喫煙室を廃止し、本社内全面禁煙となった。
ウ 平成14年4月からは工場を除き支店、分室も含めて、事業所内にあった喫煙コーナーを廃止、全面禁煙となった。
エ 平成14年8月からは工場も含めて建物内全面禁煙とした。現在は、本社、支店、工場とも建物の外に喫煙場所はある。
オ 本社が入居しているビルは、当社が全事業所内禁煙に変更した当時、1階のエレベーターホールに灰皿、及び喫煙コーナーがあった。当社が全事業所内禁煙にしたため、会議・研修があると、休憩時間に一斉にビルの喫煙コーナーに人が溢れた。
カ 平成15年の健康増進法の施行や他のテナントも同様の対策をとるところが増えたことから、ビル管理会社がそれまで1階ロビー内にあった喫煙コーナーを建物の外に移した。(1階と地下1階にそれぞれ数箇所灰皿を設置)
キ 以前喫煙室であった場所は、リフレッシュルームとされ休憩や会議に使用されている(写真1−2、3)
 
(3)禁煙に取り組んだ内容
ア アンケート調査の実施:全社禁煙に向け、喫煙全般に対する調査を行った。
イ 全事業場での全館禁煙(全社禁煙)宣言実施
(ア)人事総務本部長名で全社社内禁煙とする旨のメール(通知)を送信。
(イ)社長名で「勤務時間外でも社内禁煙を守るよう」全社員あてメールを送信。
(ウ)全社禁煙宣言後、社長名でフォローアップメールを送信した
ウ 禁煙サポート(喫煙者に対する指導・サポートシステム等)
(ア)禁煙導入時の支援策として、禁煙外来の受診支援(月1万円以内、年3か月分を限度)を実施。全社社内禁煙導入後の年末まで実施した。
(イ)11月17日は世界肺がん学会によって制定された「肺がん撲滅デー」であることから、毎年「11月17日は禁煙にチャレンジ」と題したメールを社員に配信し、その中で禁煙の際食事で気を付けるとよいポイントなどを紹介している。
(ウ)社内のイントラネットでは国内外の喫煙規制、喫煙マナー、健康影響等の情報を流している。
(エ)喫煙者サポートプログラム(禁煙外来費用負担など)の一環として、平成14年の「全社禁煙」導入後に「禁煙への道」等を作成し、配布した。印刷物は現在も社員休息室などに置き自由に取れるようにしている。
 
(4)社内で苦労した点
最終的には経営会議へ提案し、承認された。分煙期間も長く、また新しい抗がん剤の上市のタイミングでもあったため、特別な問題はなかった。
(5)労働者の評価
ア 喫煙者の評価
冬場に上着を着て高層階から降りて屋外へ喫煙に行くことも、時代の流れで仕方がないと思っている。
イ 非喫煙者の評価
全社禁煙で満足している。また、禁煙は当然であると考えている。
 
4 その他
(1)事業との関係
ア 来客・取引先の評判
社内禁煙に対し特段来客からの苦情や要望は出されていない。
イ 外資系企業であり、欧米本社・関連会社では日本よりはるかに進んでいたこと、SHE(安全、健康、環境)を企業戦略の基本方針にしていること、医薬品企業として、循環器用医薬品、抗がん剤、特に肺がん治療薬の日本発売の機会に、全面禁煙に踏み切ったため、抵抗がなかった。喫煙者にとっては不満があったかもしれないが、全国一斉に全館禁煙宣言し、実施に踏みきることができた。
 
(2)問題点、今後の課題、今後のサポートの予定
・今後は社員へ禁煙を勧めていく。
・喫煙場所は、社外のオープンスペースであり、他の人に迷惑にならないよう喫煙マナーを守ることを喫煙者へ認識させる。
 
5 事業所内の全面禁煙を成功させたポイント
(1)アンケート調査
当時のSHE推進担当者が喫煙者へアンケート調査等を通して、喫煙者の声も収集し、段階的に効果的に進めたこと。また喫煙者も周りへ迷惑をかけたくないという気持ちがあり、それを尊重すること。但し、賛否を取らないこと。
 
(2)禁煙実施の予告
実施日まで猶予期間をおいて予告通知し、導入実施日を迎えていること。
 
(3)担当部署の役割と経営首脳のサポート
トップダウンではなく、SHE推進の一環として、弊社ではSHE(安全・健康・環境)会議(該当3項目の社内マネジメントシステム上の会議)で社員からの声を受け、検討し経営会議へ提案することを決定し、最終承認を得たこと。通知案内はSHE統括責任者である人事総務本部長から発信している。トップの経営会議メンバーの合意承認を得て、トップがこの計画をサポートしていることが大切である。トップの理解とサポートが必要である。トップダウンでは抵抗あると思われ、担当部であるSHE推進室が中心となり取り組んだことがよかった。
 
(4)周知の徹底
導入直後の周知徹底とフォローアップ。「勤務時間外」(勤務者が減った残業時間中や休日勤務中)に事務所内で喫煙者が報告されると、即、社長名で、全社員へメール発信し、例外を認めなかった。
 
(5)喫煙者へのサポート
全面禁煙計画の通知や、禁煙外来受診費用の会社負担、その他の啓蒙資料を配布し、喫煙者へのサポートとした。これはあくまでも全面導入時に喫煙者への支援活動であって、それ以降の啓蒙活動では特にこのような費用面のサポートは実施していない。喫煙はあくまでも個人の趣向の問題であり、個人に強要しないことも大切ではないか。
 
(6)段階的な禁煙実施
フロア内の喫煙コーナー設置から「事務所内分煙」期間も長かったこともあるが、医薬品企業として、特に新しい抗がん剤上市の機会であったことも説得力が高かったと思う。時代に先駆けて、「分煙」から段階的に「全面禁煙」へ進めているものの、「全面禁煙」のほうが「分煙」より推進しやすく、段階的に実行するより取り組みやすい。本社ビルの例でいえば、「全面禁煙」実施し、テナントビルの1Fロビーにある喫煙コーナーを利用することになり、ここもロビー内分煙ということになり、最終的には屋外へということになった。屋外へ移し、“完全分離”をすると、それ以降、社内外から不満の声は担当者に届いていない。
 
屋外の喫煙コーナー   喫煙室→リフレッシュルーム
写真1-1
屋外の喫煙コーナー
  写真1-2
喫煙室→リフレッシュルーム
 
喫煙室→リフレッシュルーム
  写真1-3
喫煙室→リフレッシュルーム
 
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