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                                                                                         別添1

                酸素欠乏症等災害発生状況の分析


1 酸素欠乏症等災害の発生状況の推移 (昭和59年〜平成15年)(表1-1、図1〜3)
 休業4日以上の酸素欠乏症等(酸素欠乏症又は硫化水素中毒)災害の発生件数は、年間20件前後、被災者数
は30人前後で推移しているが、これら酸素欠乏症等の被災者の約4割が死亡しており、被災した場合の死亡
率が高いことが酸素欠乏症等による災害の特徴である。
 平成15年においては、休業4日以上の酸素欠乏症等被災者7名(うち死亡3名)であり、前年より大幅に減少
したが、被災者7名のうち3名が死亡しており、死亡率は43%であり、例年と同様に高かった。
 これを酸素欠乏症と硫化水素中毒の別でみると、酸素欠乏症の被災者数は5名(平成14年 10名)、うち3
名が死亡(平成14年 7名)、硫化水素中毒の被災者数は2名(平成14年 18名)、死亡者はいなかった(平成14
年 15名)。
 昨年と比べると、酸素欠乏症、硫化水素中毒ともに被災者は大幅に減少し、特に硫化水素中毒について
は、平成9年以来の死亡者ゼロとなった。
 しかしながら、酸素欠乏症による死亡率は60%(平成14年 70%)であり、依然として高い死亡率であった。



        表1-1 休業4日以上の酸素欠乏症等発生状況(昭和59年〜平成15年)
59 60 61 62 63 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 合計
酸素欠乏症 被災者数 27 29 26 17 22 26 23 30 20 17 22 23 22 25 28 9 21 15 10 5 417
死亡者数 12 12 8 10 9 9 10 16 12 8 8 14 10 8 9 3 10 7 7 3 185
発生件数 19 12 17 14 14 14 16 20 13 13 16 14 13 15 17 7 17 12 7 5 275
硫化水素中毒 被災者数 18 19 16 13 7 6 10 2 11 8 12 8 13 5 7 13 7 7 18 2 202
死亡者数 9 5 7 2 3 2 1 1 2 7 2 1 4 0 2 6 6 1 15 0 76
発生件数 7 9 9 7 3 4 5 2 6 3 6 4 8 3 5 6 3 5 7 2 104
合計 被災者数 45 48 42 30 29 32 33 32 31 25 34 31 35 30 35 22 28 22 28 7 619
死亡者数 21 17 15 12 12 11 11 17 14 15 10 15 14 8 11 9 16 8 22 3 261
発生件数 26 21 26 21 17 18 21 22 19 16 22 18 21 18 22 13 20 17 14 7 379
 (被災者数は、死亡者数を含む。)


          図1 酸素欠乏症等発生状況(昭和59年〜平成15年)

          図2 酸素欠乏症発生状況(昭和59年〜平成15年)
 


          図3 硫化水素中毒発生状況(昭和59年〜平成15年)

2 酸素欠乏症等災害の発生原因(平成6年〜15年)(表1-2、図4)  平成6年から15年までの10年間における酸素欠乏症等の発生件数172件の発生原因を見ると、測定未実施 が原因の一つとなっているものが109件(61%)、換気未実施が原因の一つとなっているものが101件(56%)で 割合が高い。また、空気呼吸器等未使用が発生原因の一つとして挙げられたものは73件(41%)であり、これ は二次災害の発生原因ともなっている。災害はこれら3つの発生原因の複数が重なって起こっている場合が 多く、3つの発生原因のうち、いずれか2つが重なっているものは78件(45%)、3つ全てが重なっているもの は35件(20%)であった。             表1-2 酸素欠乏症等発生状況(平成6年〜15年)
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 合計
酸素欠乏症 被災者数 22 23 22 25 28 9 21 15 10 5 180
死亡者数 8 14 10 8 9 3 10 7 7 3 79
発生件数 16 14 13 15 17 7 17 12 7 5 123
硫化水素中毒 被災者数 12 8 13 5 7 13 7 7 18 2 92
死亡者数 2 1 4 0 2 6 6 1 15 0 37
発生件数 6 4 8 3 5 6 3 5 7 2 49
合計 被災者数 34 31 35 30 35 22 28 22 28 7 272
死亡者数 10 15 14 8 11 9 16 8 22 3 116
発生件数 22 18 21 18 22 13 20 17 14 7 172



           図4 酸素欠乏症状等の発生原因別発生件数(平成6年〜15年)

3 酸素欠乏症等災害の管理面での問題点(平成6年〜15年)(表1-2、図5)  平成6年から15年までの10年間における酸素欠乏症等の発生件数172件について、管理面の問題点別に見 ると、作業主任者未選任が73件(42%)、特別教育未実施が69件(40%)、作業標準不徹底が68件(40%)、安全衛 生教育不十分が65件(38%)等の順となっており、当該作業従事労働者に対する教育等の不徹底が多く認めら れる。
          図5 酸素欠乏症の管理面での問題点別発生件数(平成6年〜15年)

4 酸素欠乏症等災害の発生形態別発生状況(平成6年〜15年)(図6、図7) (1) 平成6年から15年までの10年間における酸素欠乏症の発生件数123件の災害発生形態について、酸素欠  乏空気の発生原因から見ると、最も多いのは無酸素気体への物理的置換によるものであり、67件(54%)と  なっている。次いで、有機物の腐敗、微生物の呼吸等により、空気中酸素が消費されて酸素欠乏空気が  生じたものが28件(23%)、タンクその他の素材が酸化し、酸素欠乏空気が生じたものが15件(12%)である。   無酸素気体への物理的置換について、置換した気体の種類別に見ると、窒素が最も多く21件(30%)、二  酸化炭素が16件(23%)、次いでアルゴンが10件(15%)、プロパンが9件(13%)となっている。窒素は冷却用  あるいは酸化防止用として充填されたもの、二酸化炭素は冷却用のドライアイスによるもの、プロパン  はガス管工事においてガス管より漏洩したもの、アルゴンは金属の精錬・溶接等のために用いられたも  のが主になっている。 (2) 平成6年から15年までの10年間における硫化水素中毒の発生件数49件の災害発生形態について、硫化  水素ガスの発生原因から見ると、最も多いのは、し尿、汚水等からの発生で、38件(78%)である。
        図6 発生形態別発生件数(平成6年〜15年)


        図7 置換した無酸素気体の種類別発生件数(平成6年〜15年)

5 酸素欠乏症等災害の月別災害発生件数(平成6年〜15年)(図8)  平成6年から15年までの10年間における酸素欠乏症等の月別発生件数を見ると、酸素欠乏症については季 節による災害発生件数への影響は顕著には見られないが、硫化水素中毒は冬季には発生が少なくなる傾向 がみられる。これは、硫化水素の発生に関係する有機物等の腐敗の進行が気温の低くなる冬季には抑えら れるためと考えられる。

        図8 月別発生件数(平成6年〜15年)

6 酸素欠乏症等の業種別発生状況(平成6年〜15年)(図9〜10、表2〜3)  平成6年から15年までの10年間における発生件数172件の酸素欠乏症等の発生状況について、業種別の発 生件数を見ると、製造業で64件(37%)、建設業で45件(26%)、清掃業で30件(17%)となっている。これらの業 種で発生した酸素欠乏症等の発生場所のほとんどは、労働安全衛生法施行令別表第6に規定される酸素欠乏 危険場所に該当している。  また、被災者数で見ると、酸素欠乏症については、被災者180名のうち建設業が70名(39%)、製造業が65 名(36%)であり、被災者の75%がこれら2業種となっている。  硫化水素中毒については、被災者92名のうち清掃業が34名(37%)と最も多く、次いで製造業が25名(27%)、 建設業が10名(11%)となっている。

        図9 酸素欠乏症等の業種別発生件数(平成6年〜15年)


        図10 主要業種の発生場所別発生件数(平成6年〜15年)
        表2 業種別酸素欠乏症の被災者数(平成6年〜15年)
  製造業 鉱業 建設業 運輸交通業 貨物取扱業 農林水産業 商業

金融業
清掃業 左記以外の事業
食料品製造業 パルプ



紙加工品製造業
化学工業 窯業

土石製品製造業
鉄鋼業 非鉄金属製造業 金属製品製造業 一般機械器具製造業 電気機械器具製造業 輸送用機械等製造業 左記以外の製造業 小計
平成6年 死亡       1 1   1       1 4   3         1   8
そ生 4   1 1 2   1     2   11   1           2 14
平成7年 死亡 1                 1   2   9       1   2 14
そ生 1   1                 2   4           3 9
平成8年 死亡           1         1 2   6         1 1 10
そ生     2   2       1     5   5         2   12
平成9年 死亡 1               1 1   3   3 1 1         8
そ生 1   5       4         10   5 1         1 17
平成10年 死亡 2             1     1 4   2         1 2 9
そ生   1       1           2   13     1 3     19
平成11年 死亡     1         1       2   1             3
そ生                       0     1 2       3 6
平成12年 死亡 1   1           1 1   4   4   1       1 10
そ生                   1   1   6 1     2 1   11
平成13年 死亡               1       1   3       3     7
そ生 2             2       4   1 1     1   1 8
平成14年 死亡 1   1   1           1 4   2 1           7
そ生 1                     1   2             3
平成15年 死亡     1           1     2             1   3
そ生     1                 1               1 2
死亡合計 6 0 4 1 2 1 1 3 3 3 4 28 0 33 2 2 0 4 4 6 79
そ生合計 9 1 10 1 4 1 5 2 1 3 0 37 0 37 4 2 1 6 3 11 101
死亡・そ生合計 15 1 14 2 6 2 6 5 4 6 4 65 0 70 6 4 1 10 7 17 180
注:「そ生」は休業4日以上の被災者数である。

        表3 業種別硫化水素中毒の被災者数(平成6年〜15年)
  製造業 鉱業 建設業 運輸交通業 貨物取扱業 農林水産業 商業

金融業
清掃業 左記以外の事業
食料品製造業 パルプ



紙加工品製造業
化学工業 窯業

土石製品製造業
鉄鋼業 非鉄金属製造業 金属製品製造業 一般機械器具製造業 電気機械器具製造業 輸送用機械等製造業 左記以外の製造業 小計
平成6年 死亡                     1 1             1   2
そ生   4                 5 9             1   10
平成7年 死亡                       0             1   1
そ生                       0             7   7
平成8年 死亡   1                   1             3   4
そ生 1 1                 2 4   2         3   9
平成9年 死亡                       0                 0
そ生                       0   1     2   2   5
平成10年 死亡                       0             2   2
そ生 2 1                   3   2             5
平成11年 死亡 1                     1   1         4   6
そ生 3                     3         3   1   7
平成12年 死亡     3                 3             3   6
そ生                       0             1   1
平成13年 死亡                       0             1   1
そ生                       0   3         3   6
平成14年 死亡                     8 8             7   15
そ生   2                 1 3                 3
平成15年 死亡                       0                 0
そ生                       0   1         1   2
死亡合計 1 1 3 0 0 0 0 0 0 0 9 14 0 1 0 0 0 0 22 0 37
そ生合計 6 8 0 0 0 0 0 0 0 0 8 22 0 9 0 0 5 0 19 0 55
死亡・そ生合計 7 9 3 0 0 0 0 0 0 0 17 36 0 10 0 0 5 0 41 0 92
注:「そ生」は休業4日以上の被災者である。
7 まとめ

 酸素欠乏症等災害の特徴は、被災者の死亡率が非常に高いことに加え、二次災害による死亡率も高いこ
とである。酸素欠乏症等災害の発生は、測定未実施、換気未実施、空気呼吸器等未使用等、酸素欠乏症等
予防規則に定められた基本的対策が講じられていないために発生していることが多く、これら適切な対策
を講じることにより容易に防ぐことができる災害である。このため、関係事業者に対して、特に次の点の
徹底を指導していく必要がある。

 (1) 酸素欠乏症等の発生場所の殆どは、労働安全衛生法施行令別表第6に規定される酸素欠乏危険場所
  であることから、十分な知識を備えた作業主任者を選任し、当該職務を遂行させるとともに、関係労
  働者に対して、酸素欠乏症等の危険場所、酸素欠乏症等の発生原因、的確な防止措置等について、十
  分な労働衛生教育を行うこと。

 (2) 過去10年間の災害原因を見ると、測定の未実施(61%)、換気の未実施(56%)が上位を占めており、未
  だ酸素欠乏症等を防止するための基本的な対策である「測定」及び「換気」が適切に行われていない
  状況が認められることから、[1]その日の作業を開始する前の空気中の酸素濃度、硫化水素濃度の測定
  の実施、[2]作業を行う場所の空気中の酸素濃度を18%以上、硫化水素濃度を10ppm以下に保つよう継続
  的な換気を実施すること。

 (3) 酸素欠乏症等が発生し、救出に向かった者も次々に被災するといった災害も発生しておりこれらの
  殆どは空気呼吸器等を使用せずに被災者の救出に向かった結果、二次災害を発生させ被害を拡大させ
  たものであることから、[1]空気呼吸器等の避難用具の備付け、[2]救出時の空気呼吸器等の使用など
  の措置を講じ、このような二次災害を防止すること。

 (4) 平成15年に発生した酸素欠乏症の災害については、エアラインマスクのエアラインを空気配管に接
  続すべきところ、誤って別の配管(窒素等)に接続したことにより被災したものが2件(うち1件は死亡災
  害)発生していることから、同種の災害を防止するため、[1]配管の区別を明確にすること、[2]作業標
  準を整備すること、[3]配管設備等の情報を作業員に十分周知させることなどの措置を講じること。