労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準の適用について

基発0427第1号
令和5年4月27日
都道府県労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長

労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が
定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準の適用について

 労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める
濃度の基準(令和5年厚生労働省告示第177号)については、令和5年4月27日に告示され、令和6年4月1日か
ら適用することとされたところである。その制定の趣旨、内容等については、下記のとおりであるので、
関係者への周知徹底を図るとともに、その運用に遺漏なきを期されたい。
第1 制定の趣旨及び概要等
 1 制定の趣旨
   本告示は、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)による改正後
  の労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第577条の2第2項において、
  厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される
  製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場において、当該業務に従事する労働者がこれらの物にば
  く露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならないこととされていると
  ころ、同項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準(以下「濃
  度基準値」という。)を定めたものである。

 2 告示の概要
   安衛則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物として、アクリル酸エチル等67物
  質を定めるとともに、濃度基準値を厚生労働大臣が定める物の種類に応じて定めたものであること。

 3 適用期日
   令和6年4月1日
	 
第2 細部事項
 1 濃度基準値(第2号関係)
  (1) 各物質の濃度基準値は、原則として、収集された信頼のおける文献で示された無毒性量等に対し、
   不確実係数等を考慮の上、決定されたものである。各物質の濃度基準値は、設定された時点での知
   見に基づき設定されたものであり、濃度基準値に影響を与える新たな知見が得られた場合等におい
   ては、再度検討を行う必要があるものであること。また、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労
   働省令第39号)等の特別規則の適用のある物質については、特別規則による規制との二重規制を避
   けるため、濃度基準値を設定していないこと。
  (2) 濃度基準値の設定においては、ヒトに対する発がん性が明確な物質については、発がんが確率的
   影響であることから、長期的な健康影響が発生しない安全な閾値である濃度基準値を設定すること
   は困難であること。このため、当該物質には、濃度基準値の設定がなされていないこと。これらの
   物質については、「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指
   針」(令和5年4月27日付け技術上の指針公示第24号。以下「技術上の指針」という。)別表1の※5
   に示されており、事業者は、有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具
   の使用等により、労働者がこれらの物質にばく露される程度を最小限度としなければならないこと。
  (3) 本号イ及びロにおける、「ばく露」における「物の濃度」とは、呼吸用保護具を使用していない
   場合は、労働者の呼吸域において測定される濃度であり、呼吸用保護具を使用している場合は、呼
   吸用保護具の内側の濃度で表されること。呼吸用保護具を使用している場合、労働者の呼吸域にお
   ける物質の濃度が濃度基準値を上回っていたとしても、有効な呼吸用保護具の使用により、労働者
   がばく露される物質の濃度を濃度基準値以下とすることが許容されることに留意すること。ただし、
   実際に呼吸用保護具の内側の濃度の測定を行うことは困難であるため、労働者の呼吸域における物
   質の濃度を呼吸用保護具の指定防護係数で除して、呼吸用保護具の内側の濃度を算定することがで
   きること。
  (4) 八時間濃度基準値(第2号イ関係)
    八時間濃度基準値は、長期間ばく露することにより健康障害が生ずることが知られている物質に
   ついて、当該障害を防止するため、八時間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設
   定されたものであり、この濃度以下のばく露においては、おおむね全ての労働者に健康障害を生じ
   ないと考えられているものであること。
  (5) 短時間濃度基準値(第2号ロ関係)
    短時間濃度基準値は、短時間でのばく露により急性健康障害が生ずることが知られている物質に
   ついて、当該障害を防止するため、作業中のいかなるばく露においても、十五分間時間加重平均値
   が超えてはならない濃度基準値として設定されたものであること。

 2 濃度基準値について事業者が努める事項(第3号関係)
  (1) 八時間濃度基準値及び短時間濃度基準値が定められているものについて努める事項(第3号イ関係)
    八時間濃度基準値及び短時間濃度基準値が定められている物質については、十五分間時間加重平
   均値が八時間濃度基準値を超え、かつ、短時間濃度基準値以下の場合にあっては、毒性学の見地か
   ら、複数の高い濃度のばく露による急性健康障害を防止するため、十五分間時間加重平均値が八時
   間濃度基準値を超える最大の回数を4回とし、最短の間隔を1時間とすることを努力義務としたこと。
  (2) 八時間濃度基準値が定められており、かつ、短時間濃度基準値が定められていないものについて
   努める事項(第3号ロ関係)
    八時間濃度基準値が設定されているが、短時間濃度基準値が設定されていない物質については、
   八時間濃度基準値が均等なばく露を想定して設定されていることを踏まえ、毒性学の見地から、短
   期間に高濃度のばく露を受けることは避けるべきであること。このため、たとえば、8時間中ばく
   露作業時間が1時間、非ばく露作業時間が7時間の場合に、1時間のばく露作業時間において八時間
   濃度基準値の8倍の濃度のばく露を許容するようなことがないよう、作業中のいかなるばく露にお
   いても、十五分間時間加重平均値が、八時間濃度基準値の3倍を超えないことを努力義務としたこと。
    なお、この場合、十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超える回数の制限はないが、人
   体への有害性を考慮し、できる限り回数を減らすことが望ましいこと。
  (3) 天井値について努める事項(第3号ハ関係)
    天井値については、眼への刺激性等、非常に短い時間で急性影響が生ずることが疫学調査等によ
   り明らかな物質について規定されており、いかなる短時間のばく露においても超えてはならない基
   準値であること。事業者は、濃度の連続測定によってばく露が天井値を超えないように管理するこ
   とが望ましいが、現時点における連続測定手法の技術的限界を踏まえ、その実施については努力義
   務とされていること。
  (4) 有害性の種類及び当該有害性が影響を及ぼす臓器が同一であるものを2種類以上含有する混合物
   について努める事項(第3号ニ及びホ関係)
    混合物に含まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用する場
   合、それらの物質の相互作用によって、相加効果や相乗効果によって毒性が増大するおそれがある
   こと。しかし、複数の化学物質による相互作用は、個別の化学物質の組み合わせに依存し、かつ、
   相互作用も様々であること。これを踏まえ、混合物への濃度基準値の適用においては、混合物に含
   まれる複数の化学物質が、同一の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用することが明らかな
   場合には、それら物質による相互作用を考慮すべきであるため、本号ニに定める相加式を活用して
   ばく露管理を行うことが努力義務とされていること。
    したがって、「有害性の種類及び当該有害性が影響を及ぼす臓器が同一であるもの」とは、同一
   の毒性作用機序によって同一の標的臓器に作用することが明らかなものをいう趣旨であること。
    なお、「有害性の種類及び当該有害性が影響を及ぼす臓器」を確認するための方法としては、日
   本産業規格Z7252(GHSに基づく化学品の分類方法)による有害性の分類結果における特定標的臓器毒
   性(単回ばく露)や特定標的臓器毒性(反復ばく露)等で記載されている情報のほか、対象物質の有害
   性に係る学術論文、事業者が自ら保有している対象物質の有害性情報などが考えられること。

 3 別表関係
  (1) 別表で示す「物の種類」については、リスクアセスメント対象物としての名称を使用しているこ
   と。また、物の種類には、異性体の種類を特定していないものについては、該当する物質の全ての
   異性体が含まれること。
  (2) 濃度基準値の単位については、通常使用される測定の方法に応じ、ガス又は蒸気でのばく露が主
   な物質についてはppm、粉じんでのばく露が主な物質については、mg/m3としていること。なお、技
   術上の指針において、ppmからmg/m3への換算式を示しているので、参照されたいこと。



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