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酸素欠乏症等の防止対策の徹底について

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                                                                            基安発第34号
                                                                        平成10年12月22日

  酸素欠乏症及び硫化水素中毒(以下「酸素欠乏症等」という。)については、従来より酸素欠乏症等防
止規則(以下「酸欠則」という。)に基づき、その防止対策の徹底を図っているところであるが、ここ数
年の発生状況を見ると、死亡者数は減少しているものの、被災者数は若干の増加傾向を示している。
  このような背景の中で、本年度を初年度とする第9次労働災害防止計画においては、酸素欠乏症等の撲
滅を図ることが計画の目標の一つとして掲げられているところである。
  今般、昭和63年から平成9年の酸素欠乏症等の災害発生状況について分析したところ、別添1のような問
題点等が認められることから、今後、関係事業場等に対する指導に当たっては、酸欠則に加えて特に下記
事項に留意し、酸素欠乏症等の防止対策の徹底を図られたい。
  また、平成8年及び平成9年の災害発生事例を別添2のとおりとりまとめたので、併せて活用されたい。

                                           記

1  酸素欠乏危険場所における措置
    酸素欠乏危険場所を有する事業場においては、労働者その他関係者の酸素欠乏危険場所の危険性に対
  する認識の向上及び理解の増進を図るとともに、酸素欠乏症等防止対策の実効を期するため、次の措置
  を講じること。
  (1) 酸素欠乏危険場所の把握及び周知の徹底
      災害発生の原因をみると、酸素(第2種酸素欠乏危険場所にあっては、酸素及び硫化水素)の濃度
    (以下「酸素濃度等」という。)の測定や酸素濃度等を適切に保つための換気等、基本的な対策の未
    実施が目立つことから、酸素欠乏危険場所であることの認識不足が最大の問題であると考えられるの
    で、次の対策を実施することにより、作業場又は施設における酸素欠乏危険場所の把握及び関係者に
    対する周知の徹底を図ること。
    イ  作業場又は施設の総点検等の機会を利用して、事業場内のすべての酸素欠乏危険場所を把握する
      こと。
    ロ  酸素欠乏危険場所の入口等の見やすい箇所に、次の事項を表示すること。
      (イ)  内部に立ち入ると酸素欠乏症等(第1種酸素欠乏危険場所にあっては酸素欠乏症)にかかる
          おそれがあること。
      (ロ)  当該場所に立ち入る場合に講ずべき措置
      (ハ)  事故発生時の措置
      (ニ)  空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスク(以下「空気呼吸器等」という。)、酸素濃度等の
          測定器具、送気設備、安全帯等の保管場所
      (ホ)  酸素欠乏危険作業主任者の氏名及び連絡先
      (ヘ)  通常、人の立ち入らない場所にあっては施設管理者の氏名及び連絡先
    ハ  作業場又は施設の入口等への内部に存在する酸素欠乏危険場所の位置等の表示、事業場内の「酸
      素欠乏危険マップ」の作成等により、一般作業者に対しても、各種の機会をとらえ、事業場内の酸
      素欠乏危険場所の位置の周知と立入禁止の徹底を図ること。
  (2) 適切な酸素濃度等の測定及び継続的な換気の実施
      酸素欠乏危険作業を行う必要がある場合は、次の措置を実施すること。
    イ  次の対策を徹底することにより、適切に酸素濃度等を測定すること。
      (イ)  測定器具の保守及び定期的な点検を実施すること。
      (ロ)  測定を行ったにもかかわらず、その時期が早過ぎ作業時と異なった条件下であったり、1点
          しか測定しない等、その方法又は時期が不適切であったために酸素欠乏症等が発生した事例が
          あることから、測定は、作業条件を勘案して測定点を選定し、作業の直前に実施すること。
    ロ  作業前に換気を行い、酸素濃度が18%以上、硫化水素濃度が10ppm以下に保たれていることを確
      認したにもかかわらず、立ち入って被災した事例があることから、酸素欠乏空気の流入や硫化水素
      の発生のおそれがある場合には、作業中も継続的に換気を行うことにより、当該濃度の値を保つこ
      と。
  (3) 労働衛生教育の徹底
      特別教育を実施し、作業標準が整備されているにもかかわらず、被災した事例もあり、労働者の酸
    素欠乏症等に対する認識の不足が問題と考えられることから、酸素欠乏危険作業に従事する労働者に
    対しては、必要に応じ、特別教育の一部又は全部の科目について労働衛生教育を繰り返し行うことが
    望ましいこと。
  (4) 酸素欠乏危険場所に近接して作業を行う場合の措置
      酸素欠乏危険場所への立入りが予定されていない作業においても、槽内への落下物の回収等のため
    に立ち入り被災した事例も多いので、このような作業においても空気呼吸器等を備え付け、酸素欠乏
    危険場所への立入りの必要が生じた場合にはこれを使用させること。
  (5) 施設管理者の措置
      施設管理者は、通常立ち入る必要のない酸素欠乏危険場所については、施錠等により人が立ち入る
    ことができないようにし、清掃、点検等のために立入許可を与える場合は、酸素欠乏症等の防止のた
    めに必要な措置について指示すること。
  (6) 施設の清掃、補修等の非定常作業に係る発注者の措置
      酸素欠乏危険場所を有する施設の清掃、補修等の発注者は、請負人に対し、当該酸素欠乏危険場所
    に係る注意事項について教示するとともに、酸素欠乏症等の防止に係る措置を講じることを発注条件
    として明示すること。
2  通風が不十分な場所におけるガス配管工事に係る措置
    通風が不十分な場所において、プロパンガス等を送給する配管を取り外し、又は取り付ける作業を行
  う場合は、次の措置を講じること。
  (1) 作業指揮者の選任
      酸素欠乏症の防止について必要な知識を有する者のうちから作業指揮者を選任し、その者に作業を
    直接指揮させること。
  (2) ガスの遮断の徹底
      当該作業に係る災害のほとんどは、ガスを遮断せず作業を行ったことが原因であるので、作業指揮
    者は、当該作業を行う箇所にガスが流入しないよう確実にガスを遮断したことを確認した後でなけれ
    ば当該作業を開始させてはならないこと。
      また、当該工事の発注者は、請負人に対し、これらのガスの確実な遮断について指示の徹底を図る
    こと。
  (3) 安全衛生教育の実施
      災害の多くは、作業標準の不徹底により発生しており、労働者の酸素欠乏症等に対する認識の不足
    が問題と考えられるので、当該作業に従事する労働者に対して、酸素欠乏症の危険性等について安全
    衛生教育を実施すること。
3  二次災害の防止のための措置
    酸素欠乏危険場所その他の酸素欠乏症等のおそれのある場所において作業を行う場合は、酸素欠乏症
  等に被災した者を救出する際の二次災害を防止するため、次の措置を講じること。
  (1) 空気呼吸器等の備付け
      酸素欠乏症等にかかった労働者を酸素欠乏等の場所において救出するに当たって、空気呼吸器等を
    使用しなかったために、二次災害が発生する場合が極めて多いので、酸素欠乏症等のおそれのある場
    所には空気呼吸器等を備え付けることにより、当該救出作業に従事する労働者に直ちに空気呼吸器等
    を使用させることができるようにすること。
  (2) 安全衛生教育等の実施
      酸素欠乏症等のおそれのある場所に近接した場所で別の作業を行っている者が、当該救出作業を行
    った際に酸素欠乏症等に被災する例も多いことから、それらの者に対しても、酸素欠乏症等の危険性、
    空気呼吸器等の使用方法等について安全衛生教育を行うとともに、救出に関する訓練を実施すること
    が望ましいこと。

別添1

酸素欠乏症等災害発生状況の分析(昭和63年〜平成9年) 

1  災害発生状況の推移(表1図1  図2 図3)
    酸素欠乏症等は長期的には減少しているものの、ここ数年間増減を繰り返しており、特に酸素欠乏症
  の被災者数については増加の傾向を示している。最近10年間の合計で見ると、発生件数は192件、被災
  者数は312人であり、うち死亡者数は127人、被災者に占める死亡者の割合(以下「死亡率」という。)
  は41%となっており、死亡率が高いことが特徴である。
2  発生原因(図4)
    酸素欠乏症等の災害発生の原因は、換気が未実施であることによるもの123件(64%)、酸素濃度等の
  測定が未実施であることによるもの119件(62%)となっており、基本的な防止対策がなされていないこ
  とが災害につながっている。
    また、空気呼吸器等を使用しなかったことによるものは75件(39%)となっているが、これは二次災害
  発生の主要な原因ともなっており、二次災害を伴う災害75件のうち、空気呼吸器等を使用しなかった
  ことによるものが45件(60%)となっている。
3  管理面での問題点(図5)
    酸素欠乏症等が発生した原因のうち、管理面の問題について見てみると、安全衛生教育不十分76件
  (40%)、特別教育未実施67件(35%)、作業主任者未選任62件(32%)、作業標準の不徹底55件(29%)、
  安全衛生管理体制不備37件(19%)となっている。
    それらの背景には、事業者の酸素欠乏症等に対する認識の不足がうかがわれ、それとも相まって労働
  者に対して必要な知識が与えられていないため、上記2にあるような基本的対策の未実施につながって
  いるものと考えられる。
4  形態別発生状況(図6及び7)
    酸素欠乏症148件についてその発生形態を見ると、無酸素空気に置換されたもの73件(49%)、有機物
  の腐敗や微生物の呼吸・発酵による酸素の消費によるもの43件(29%)、タンクその他の素材の酸化に
  よるもの17件(11%)等となっている。
    最も多い無酸素空気による置換について、その無酸素空気の内訳を見ると、爆発や酸化の防止等のた
  めに設備等に充填された窒素が18件(25%)、二酸化炭素消火設備や保冷車のドライアイス等から生じた
  二酸化炭素が13(18%)、ガス管工事で漏洩したプロパンガスが13件(18%)、金属の製錬・溶接等のため
  に用いていたアルゴンガスが12件(16%)、冷凍装置等から漏洩したフロン等が11件(15%)等となってい
  る。
    硫化水素中毒44件については、汚水・汚泥・し尿からの硫化水素の発生によるもの31件(70%)、パル
  プ液からの硫化水素の発生によるもの5件(11%)等となっている。
5  月別災害発生件数(図8)
    酸素欠乏症等の月別の発生件数を見ると、酸素欠乏症では、季節的な影響はほとんど見られないのに
  対し、硫化水素中毒では、全災害44件のうち23件(52%)が5月から7月にかけて集中して発生しており、
  死亡者数では、23人のうち14人(61%)が集中している。これは硫化水素の発生の多くが腐敗物に 起因
  しており、腐敗の進行しやすい夏期に集中しているためであると考えられる。
6  業種別発生状況(表2及び3図9及び10)
    酸素欠乏症の被災者数は最近10年間の合計で230人であり、このうち、建設業が95人(41%)、製造業
  が87人(38%)となっている。製造業ではいくつかの業種にわたって発生しているが、特に食料品製造
  業で23人と多く発生しており、製造業全体の26%を占めている。
    硫化水素中毒の被災者数は最近10年間の合計で82人であり、このうち清掃業が34人(41%)と最も多く、
  次いで製造業が21人(26%)、建設業が18人(22%)となっている。製造業では、特にパルプ・紙・紙加工
  品製造業で10人と多く発生しており、製造業全体の48%を占めている。
  (1) 建設業における発生状況
      建設業では、他の業種にまたがる災害も含め、酸素欠乏症は61件発生し、硫化水素中毒9件を合わ
    せ合計70件の災害が発生している。建設業全体での死亡率は、44%と比較的高くなっている。
      発生場所は、下水道のマンホールが12件、その他のマンホールが4件、ガス管の掘削穴が10件、工
    事現場の地下ピットが7件、ゴミ焼却場その他のピットが5件、内壁が酸化したタンクが3件、その
    他のタンクが5件、汚水等の槽が3件、井戸が2件等となっている。
      主な場所について、比較的多くみられる発生形態としては、下水道のマンホール内では、汚水から
    の硫化水素の発生による硫化水素中毒が5件、有機物の腐敗・微生物の酸素の消費による酸素欠乏症
    が4件等となっている。また、ガス管掘削穴内では、ガス管工事中にガスの漏洩を遮断しなかったこ
    とによる災害が9件発生しており、建設業に目立つ災害である。工事現場の地下ピットでは、有機物
    の腐敗・微生物の酸素の消費による災害が4件等となっている。
  (2) 清掃業における発生状況
      清掃業では、硫化水素中毒の発生が全業種で最も多く20件発生しており、酸素欠乏症3件を含め23
    件の災害が発生している。死亡率は37%となっている。
      大部分の災害が、下水道等のマンホール内、排水ピット、汚水の入ったタンク・槽、し尿処理施設、
    汚水処理施設等で発生しており、汚水・汚泥・し尿から発生した硫化水素による硫化水素中毒が18件
    発生している。このうち11件(61%)が5月から7月にかけて発生している。
      このほかには、魚のあらから発生した硫化水素による中毒、温泉の源泉に溶解していた硫化水素の
    気化による中毒、マンホール内やピット内での有機物の腐敗や微生物の酸素の消費による酸素欠乏症
    等も発生している。
  (3) 食料品製造業における発生状況
      食料品製造業では、酸素欠乏症19件、硫化水素中毒1件の合計20件の災害が発生している。死亡率
    は21%と比較的低い。
      そのうち17件が、清酒やしょう油等のタンク内で発生しており、微生物の発酵による酸素の消費が
    酸素欠乏空気の生じる原因となっている。災害の発生形態としては、清掃作業のために立ち入ったも
    ののほか、タンク開口部での作業中に転落したもの、タンク内に落とした物を拾うために立ち入った
    もの等がある。
      関係労働者に対して特別教育がなされていない事例が15件(75%)と、ほかの業種と比べて高い割合
    であることが特徴である。
  (4) その他の業種
      化学工業では、酸素欠乏症が10件発生しており、うち、死亡災害は1件1名である。発生形態として
    は、タンク等の内部が無酸素気体に置き換えられたことによる災害が6件発生しており、最も多い。
      パルプ・紙・紙加工品製造業では、硫化水素中毒5件、酸素欠乏症1件の合計6件の災害が発生し
    ている。そのうちパルプ液からの硫化水素の発生による災害が4件と最も多い。

  表1  酸素欠乏症等発生状況

  図1  酸素欠乏症等発生状況
  図2  酸素欠乏症発生状況
  図3  硫化水素中毒発生状況
  図4 酸素欠乏症等の発生原因別発生件数(昭和63年〜平成9年、以下同様)
  図5 酸素欠乏症等の管理面問題別発生件数
  図6 発生形態別発生件数
  図7 置換した無酸素気体の種類別
  図8 月別災害発生状況

  表2  酸素欠乏症の被災者数

  表3  硫化水素中毒の被災者数

  図9 酸素欠乏症等の業種別被災者数
  図10 主要業種の発生場所等別発生件数

別添2
 
1  平成8年における酸素欠乏症等発生事例
  (1) 酸素欠乏症発生事例
  (2) 酸素欠乏危険場所等における硫化水素中毒発生事例

2  平成9年における酸素欠乏症等発生事例
  (1) 酸素欠乏症発生事例

  (2) 酸素欠乏危険場所等における硫化水素中毒発生事例