法令 安全衛生情報センター:ホームへ
ホーム > 法令・通達(検索) > 法令・通達

職場における熱中症の予防について
(令和3年4月20日 基発0420第3号により廃止)

改正履歴
                                        基発第0619001号
                                        平成21年6月19日

都道府県労働局長 殿

                                    厚生労働省労働基準局長



                  職場における熱中症の予防について
           (令和3年4月20日 基発0420第3号により廃止)
 職場における熱中症の予防については、平成8年5月21日付け基発第329号「熱中症の予防について」及 び平成17年7月29日付け基安発第0729001号「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」により対策 を推進しているが、熱中症による死亡者数が年間約20名を数え、また、休業4日以上の業務上疾病者数が 年間約300名にも上っているところである。  さらに、糖尿病、高血圧症等が一般に熱中症の発症リスクを高める中、健康診断等に基づく措置の一層 の徹底が必要な状況であること等から、下記のとおり、職場における熱中症の予防に関する事業者の実施 事項を示すこととしたところである。  各労働局においては、関係事業場等において、下記事項が的確に実施されるよう指導等に遺憾なきを期 されたい。  また、関係業界団体等に対しては、本職から別添(略)のとおり要請を行ったので、了知されたい。  なお、本通達をもって、平成8年5月21日付け基発第329号通達は廃止する。                       記 第1 WBGT値(暑さ指数)の活用  1 WBGT値等    WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位:℃))の値は、暑熱環境による熱スト   レスの評価を行う暑さ指数(式[1]又は[2]により算出)であり、作業場所に、WBGT測定器を設置する   などにより、WBGT値を求めることが望ましいこと。特に、WBGT予報値、熱中症情報等により、事前に   WBGT値が表1−1のWBGT基準値(以下単に「WBGT基準値」という。)を超えることが予想される場合は、   WBGT値を作業中に測定するよう努めること。   ア 屋内の場合及び屋外で太陽照射のない場合     WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度 式[1]   イ 屋外で太陽照射のある場合     WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度 式[2]    また、WBGT値の測定が行われていない場合においても、気温(乾球温度)及び相対湿度を熱ストレ   スの評価を行う際の参考にすること。  2 WBGT値に係る留意事項    表1−2に掲げる衣類を着用して作業を行う場合にあっては、式[1]又は[2]により算出されたWBGT値   に、それぞれ表1−2に掲げる補正値を加える必要があること。    また、WBGT基準値は、既往症がない健康な成年男性を基準に、ばく露されてもほとんどの者が有害   な影響を受けないレベルに相当するものとして設定されていることに留意すること。  3 WBGT基準値に基づく評価等    WBGT値が、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、冷房等により当該作業場所のWB   GT値の低減を図ること、身体作業強度(代謝率レベル)の低い作業に変更すること、WBGT基準値より   低いWBGT値である作業場所での作業に変更することなどの熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実   施するよう努めること。それでもなお、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、第2の   熱中症予防対策の徹底を図り、熱中症の発生リスクの低減を図ること。ただし、WBGT基準値を超えな   い場合であっても、WBGT基準値が前提としている条件に当てはまらないとき又は補正値を考慮したWBGT   基準値を算出することができないときは、実際の条件により、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれ   のある場合と同様に、第2の熱中症予防対策の徹底を図らなければならない場合があることに留意する   こと。    上記のほか、熱中症を発症するリスクがあるときは、必要に応じて第2の熱中症予防対策を実施する   ことが望ましいこと。 第2 熱中症予防対策  1 作業環境管理  (1)WBGT値の低減等     次に掲げる措置を講ずることなどにより当該作業場所のWBGT値の低減に努めること。    ア WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある作業場所(以下単に「高温多湿作業場所」という。)     においては、発熱体と労働者の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設けること。    イ 屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮     ることができる簡易な屋根等を設けること。    ウ 高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備を設けること。また、屋内の高温多     湿作業場所における当該設備は、除湿機能があることが望ましいこと。      なお、通風が悪い高温多湿作業場所での散水については、散水後の湿度の上昇に注意すること。  (2)休憩場所の整備等     労働者の休憩場所の整備等について、次に掲げる措置を講ずるよう努めること。    ア 高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を設けること。     また、当該休憩場所は臥床することのできる広さを確保すること。    イ 高温多湿作業場所又はその近隣に氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の身体を適度に冷     やすことのできる物品及び設備を設けること。    ウ 水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行えることができるよう高温多湿作業場所に飲料水の     備付け等を行うこと。  2 作業管理  (1)作業時間の短縮等     作業の休止時間及び休憩時間を確保し、高温多湿作業場所の作業を連続して行う時間を短縮する    こと、身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること、作業場所を変更することなどの熱    中症予防対策を、作業の状況等に応じて実施するよう努めること。  (2)熱への順化     高温多湿作業場所において労働者を作業に従事させる場合には、熱への順化(熱に慣れ当該環境    に適応すること)の有無が、熱中症の発生リスクに大きく影響することを踏まえて、計画的に、熱    への順化期間を設けることが望ましいこと。特に、梅雨から夏季になる時期において、気温等が急    に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合、新たに当該作業を行う場合、また、長期間、当該    作業場所での作業から離れ、その後再び当該作業を行う場合等においては、通常、労働者は熱に順    化していないことに留意が必要であること。  (3)水分及び塩分の摂取     自覚症状以上に脱水状態が進行していることがあること等に留意の上、自覚症状の有無にかかわ    らず、水分及び塩分の作業前後の摂取及び作業中の定期的な摂取を指導するとともに、労働者の水    分及び塩分の摂取を確認するための表の作成、作業中の巡視における確認などにより、定期的な水    分及び塩分の摂取の徹底を図ること。特に、加齢や疾患によって脱水状態であっても自覚症状に乏    しい場合があることに留意すること。     なお、塩分等の摂取が制限される疾患を有する労働者については、主治医、産業医等に相談させ    ること。  (4)服装等     熱を吸収し、又は保熱しやすい服装は避け、透湿性及び通気性の良い服装を着用させること。ま    た、これらの機能を持つ身体を冷却する服の着用も望ましいこと。     なお、直射日光下では通気性の良い帽子等を着用させること。  (5)作業中の巡視     定期的な水分及び塩分の摂取に係る確認を行うとともに、労働者の健康状態を確認し、熱中症を    疑わせる兆候が表れた場合において速やかな作業の中断その他必要な措置を講ずること等を目的に、    高温多湿作業場所の作業中は巡視を頻繁に行うこと。  3 健康管理  (1)健康診断結果に基づく対応等     労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条第44条及び第45条に基づく健康診断の項    目には、糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等の熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患と    密接に関係した血糖検査、尿検査、血圧の測定、既往歴の調査等が含まれていること及び労働安全    衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の4及び第66条の5に基づき、異常所見があると診断された場    合には医師等の意見を聴き、当該意見を勘案して、必要があると認めるときは、事業者は、就業場    所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずることが義務付けられていることに留意の上、これら    の徹底を図ること。     また、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等の労働者については、事業者は、    高温多湿作業場所における作業の可否、当該作業を行う場合の留意事項等について産業医、主治医    等の意見を勘案して、必要に応じて、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずること。  (2)日常の健康管理等     高温多湿作業場所で作業を行う労働者については、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の    未摂取等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることに留意の上、日常の健康管理について指    導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行うこと。これを含め、労働安全衛生法第69条に基づき    健康の保持増進のための措置に取り組むよう努めること。     さらに、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等である場合は、熱中症を予防    するための対応が必要であることを労働者に対して教示するとともに、労働者が主治医等から熱中    症を予防するための対応が必要とされた場合又は労働者が熱中症を予防するための対応が必要とな    る可能性があると判断した場合は、事業者に申し出るよう指導すること。  (3)労働者の健康状態の確認     作業開始前に労働者の健康状態を確認すること。     作業中は巡視を頻繁に行い、声をかけるなどして労働者の健康状態を確認すること。     また、複数の労働者による作業においては、労働者にお互いの健康状態について留意させること。  (4)身体の状況の確認     休憩場所等に体温計、体重計等を備え、必要に応じて、体温、体重その他の身体の状況を確認で    きるようにすることが望ましいこと。  4 労働衛生教育    労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合には、適切な作業管理、労働者自身によ   る健康管理等が重要であることから、作業を管理する者及び労働者に対して、あらかじめ次の事項に   ついて労働衛生教育を行うこと。  (1)熱中症の症状  (2)熱中症の予防方法  (3)緊急時の救急処置  (4)熱中症の事例    なお、(2)の事項には、1から4までの熱中症予防対策が含まれること。  5 救急処置  (1)緊急連絡網の作成及び周知     労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合には、労働者の熱中症の発症に備え、    あらかじめ、病院、診療所等の所在地及び連絡先を把握するとともに、緊急連絡網を作成し、関係    者に周知すること。  (2)救急措置     熱中症を疑わせる症状が現われた場合は、救急処置として涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩    分の摂取等を行うこと。また、必要に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせること。   (解説)   本解説は、職場における熱中症予防対策を推進する上での留意事項を解説したものである。  1 熱中症について    熱中症は、高温多湿な環境下において、体内の水分及び塩分(ナトリウム等)のバランスが崩れた   り、体内の調整機能が破綻するなどして、発症する障害の総称であり、めまい・失神、筋肉痛・筋肉   の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の   運動障害、高体温等の症状が現れる。  2 WBGT値(暑さ指数)の活用について  (1)WBGT値の測定方法等は、平成17年7月29日付け基安発第0729001号「熱中症の予防対策におけるWB    GTの活用について」によること。  (2)WBGT値の測定が行われていない場合には、表2の「WBGT値と気温、相対湿度との関係」などが熱ス    トレス評価を行う際の参考になること。  3 作業管理について  (1)熱への順化の例としては、次に掲げる事項等があること。    ア 作業を行う者が順化していない状態から7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くすること。    イ 熱へのばく露が中断すると4日後には順化の顕著な喪失が始まり3〜4週間後には完全に失われる     こと。  (2)作業中における定期的な水分及び塩分の摂取については、身体作業強度等に応じて必要な摂取量    等は異なるが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合には、少なくとも、0.1〜0.2%の食塩    水、ナトリウム40〜80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20〜30分ごとにカップ1〜    2杯程度を摂取することが望ましいこと。  4 健康管理について  (1)糖尿病については、血糖値が高い場合に尿に糖が漏れ出すことにより尿で失う水分が増加し脱水    状態を生じやすくなること、高血圧症及び心疾患については、水分及び塩分を尿中に出す作用のあ    る薬を内服する場合に脱水状態を生じやすくなること、腎不全については、塩分摂取を制限される    場合に塩分不足になりやすいこと、精神・神経関係の疾患については、自律神経に影響のある薬(    パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬等)を内服する場合に発汗及    び体温調整が阻害されやすくなること、広範囲の皮膚疾患については、発汗が不十分となる場合が    あること等から、これらの疾患等については熱中症の発症に影響を与えるおそれがあること。  (2)感冒等による発熱、下痢等による脱水等は、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあること。ま    た、皮下脂肪の厚い者も熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、留意が必要であるこ    と。  (3)心機能が正常な労働者については1分間の心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた値を超え    る場合、作業強度のピークの1分後の心拍数が120を超える場合、休憩中等の体温が作業開始前の体    温に戻らない場合、作業開始前より1.5%を超えて体重が減少している場合、急激で激しい疲労感、    悪心、めまい、意識喪失等の症状が発現した場合等は、熱へのばく露を止めることが必要とされて    いる兆候であること。  5 救急処置について    熱中症を疑わせる具体的な症状については表3の「熱中症の症状と分類」を、具体的な救急処置につ   いては図の「熱中症の救急処置(現場での応急処置)」を参考にすること。