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安全衛生情報センター
化学防護手袋の選択、使用等について
基発0112第6号
平成29年1月12日
都道府県労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長
化学防護手袋の選択、使用等について
有害な化学物質が直接皮膚に接触することによって生じる、皮膚の損傷等の皮膚障害や、体内への経皮
による吸収によって生じる健康障害を防止するためには、化学物質を製造し、又は取り扱う設備の自動化
や密閉化、適切な治具の使用等により、有害な化学物質への接触の機会をできるだけ少なくすることが必
要であるが、作業の性質上本質的なばく露防止対策を取れない場合には、化学防護手袋を使用することが
重要である。化学防護手袋は、使用されている材料によって、防護性能、作業性、機械的強度等が変わる
ため、対象とする有害な化学物質を考慮して作業に適した手袋を選択する必要がある。
今般、特定化学物質障害予防規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令(平成28年厚生労働省令
第172号)による特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)の改正により、経皮吸収対策に係る
規制を強化したことに伴い、化学防護手袋の選択、使用等の留意事項について下記のとおり定め、別添1
により日本防護手袋研究会会長あて及び別添2により別紙関係事業者等団体の長あて通知したので、了知
されたい。また、今後、有害な化学物質を取り扱う事業場を指導する際には、下記の内容を周知されたい。
記
第1 事業者が留意する事項
1 全体的な留意事項
化学物質へのばく露防止対策を講じるに当たっては、有害性が極力低い化学物質への代替や発散源
を密閉する設備等の工学的対策等による根本的なレベルでのリスク低減を行うことが望ましく、化学
防護手袋の使用はより根本的なレベルでのばく露防止対策を講じることができない場合にやむを得ず
講じる対策であることを前提として、事業者は、化学防護手袋の選択、使用等に当たって、次に掲げ
る事項について特に留意すること。
(1) 事業者は、衛生管理者、作業主任者等の労働衛生に関する知識及び経験を有する者のうちから、
作業場ごとに化学防護手袋を管理する保護具着用管理責任者を指名し、化学防護手袋の適正な選
択、着用及び取扱方法について労働者に対し必要な指導を行わせるとともに、化学防護手袋の適
正な保守管理に当たらせること。なお、特定化学物質障害予防規則等により、保護具の使用状況
の監視は、作業主任者の職務とされているので、上記と併せてこれを徹底すること。
(2) 事業者は、作業に適した化学防護手袋を選択し、化学防護手袋を着用する労働者に対し、当該
化学防護手袋の取扱説明書、ガイドブック、パンフレット等(以下「取扱説明書等」という。)に
基づき、化学防護手袋の適正な装着方法及び使用方法について十分な教育や訓練を行うこと。
2 化学防護手袋の選択に当たっての留意事項
労働安全衛生関係法令において使用されている「不浸透性」は、有害物等と直接接触することがな
いような性能を有することを指しており、日本工業規格(以下「JIS」という。)T8116(化学防護手袋)
で定義する「透過」しないこと及び「浸透」しないことのいずれの要素も含んでいること。(「透過」
及び「浸透」の定義については後述)
化学防護手袋の選択に当たっては、取扱説明書等に記載された試験化学物質に対する耐透過性クラ
スを参考として、作業で使用する化学物質の種類及び当該化学物質の使用時間に応じた耐透過性を有
し、作業性の良いものを選ぶこと。
なお、JIS T 8116(化学防護手袋)では、「透過」を「材料の表面に接触した化学物質が、吸収され、
内部に分子レベルで拡散を起こし、裏面から離脱する現象。」と定義し、試験化学物質に対する平均
標準破過点検出時間を指標として、耐透過性を、クラス1(平均標準破過点検出時間10分以上)からク
ラス6(平均標準破過点検出時間480分以上)の6つのクラスに区分している(表1参照)。この試験方法は、
ASTM F739と整合しているので、ASTM規格適合品も、JIS適合品と同等に取り扱って差し支えない。
また、事業場で使用されている化学物質が取扱説明書等に記載されていないものであるなどの場合
は、製造者等に事業場で使用されている化学物質の組成、作業内容、作業時間等を伝え、適切な化学
防護手袋の選択に関する助言を得て選ぶこと。
表1 耐透過性の分類
クラス |
平均標準破過点検出時間(分) |
6 |
>480 |
5 |
>240 |
4 |
>120 |
3 |
>60 |
2 |
>30 |
1 |
>10 |
3 化学防護手袋の使用に当たっての留意事項
化学防護手袋の使用に当たっては、次の事項に留意すること。
(1) 化学防護手袋を着用する前には、その都度、着用者に傷、孔あき、亀裂等の外観上の問題がな
いことを確認させるとともに、化学防護手袋の内側に空気を吹き込むなどにより、孔あきがない
ことを確認させること。
(2) 化学防護手袋は、当該化学防護手袋の取扱説明書等に掲載されている耐透過性クラス、その他
の科学的根拠を参考として、作業に対して余裕のある使用可能時間をあらかじめ設定し、その設
定時間を限度に化学防護手袋を使用させること。なお、化学防護手袋に付着した化学物質は透過
が進行し続けるので、作業を中断しても使用可能時間は延長しないことに留意すること。また、
乾燥、洗浄等を行っても化学防護手袋の内部に侵入している化学物質は除去できないため、使用
可能時間を超えた化学防護手袋は再使用させないこと。
(3) 強度の向上等の目的で、化学防護手袋とその他の手袋を二重装着した場合でも、化学防護手袋
は使用可能時間の範囲で使用させること。
(4) 化学防護手袋を脱ぐときは、付着している化学物質が、身体に付着しないよう、できるだけ化
学物質の付着面が内側になるように外し、取り扱った化学物質の安全データシート(SDS)、法令等
に従って適切に廃棄させること。
4 化学防護手袋の保守管理上の留意事項
化学防護手袋は、有効かつ清潔に保持すること。また、その保守管理に当たっては、製造者の取扱
説明書等に従うほか、次の事項に留意すること。
(1) 予備の化学防護手袋を常時備え付け、適時交換して使用できるようにすること。
(2) 化学防護手袋を保管する際は、次に留意すること。
ア 直射日光を避けること。
イ 高温多湿を避け、冷暗所に保管すること。
ウ オゾンを発生する機器(モーター類、殺菌灯等)の近くに保管しないこと。
第2 製造者等が留意する事項
化学防護手袋の製造者等は、次の事項を実施するよう努めること。
1 化学防護手袋の販売に際しては、事業者等が適切な化学防護手袋を選択できるよう、JIS T 8116に
基づく耐透過性試験の結果など、その性能に係る情報の提供を行うこと。
2 化学防護手袋の不適切な選択、使用等を把握した場合には、使用者に対し是正を促すとともに、必
要に応じ不適切な選択、使用等の事例をホームページで公表する等により水平展開するなどにより、
合理的に予見される誤使用の防止を図ること。
第3 その他の参考事項
JIS T8116に定められている「耐浸透性」及び「耐劣化性」の定義及び指標は、以下のとおりである。
1 耐浸透性
JIS T8116では、「浸透」を「化学防護手袋の開閉部、縫合部、多孔質材料及びその他の不完全な
部分などを透過する化学物質の流れ。」と定義し、品質検査における抜き取り検査にて許容し得ると
決められた不良率の上限の値である品質許容基準[AQL:検査そのものの信頼性を示す指標であり、数
値が小さいほど多くの抜き取り数で検査されたことを示す。]を指標として、耐浸透性を、クラス1
(品質許容水準[AQL]0.65)からクラス4(品質許容水準[AQL]4.0)の4つのクラスに区分することとして
いる(表2参照)。
発がん物質等、有害性が高い物質を取り扱う際には、クラス1などAQLが小さい化学防護手袋を選ぶ
ことが望ましい。
表2 耐浸透性の分類
クラス |
品質許容水準(AQL) |
4 |
4.0 |
3 |
2.5 |
2 |
1.5 |
1 |
0.65 |
2 耐劣化性
JIS T8116では、「劣化」を「化学物質との接触によって、化学防護手袋材料の1種類以上の物理
的特性が悪化する現象。」と定義し、耐劣化性試験を実施したとき、試験した各化学物質に対する物
理性能の変化率から、耐劣化性をクラス1(変化率80%以下)からクラス4(変化率20%以下)の4つのク
ラスに区分することとしている(表3参照)。なお、耐劣化性についてはJIS T8116において任意項目と
されているとともに、JIS T8116解説に、「耐劣化性は、耐透過性、耐浸透性に比べ、短時間使用す
る場合の性能としての有用性は低い」と記載されている。
表3 耐劣化性の分類
クラス |
変化率 |
4 |
≦20 |
3 |
≦40 |
2 |
≦60 |
1 |
≦80 |