印刷業等の洗浄作業における有機塩素系洗浄剤のばく露低減化のための予防的取組みについて

基安発0723第3号
平成24年7月23日
中央労働災害防止協会会長 殿
厚生労働省労働基準局安全衛生部長

印刷業等の洗浄作業における有機塩素系洗浄剤のばく露低減化のための予防的取組みについて

 日ごろより労働安全衛生行政の推進につきご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
 先般、印刷業の2事業場において、印刷業務に従事した複数の労働者が胆管がんを発症したとする労災
請求が相次いでなされたところであり、所轄の労働基準監督署においては、労災請求を受けて立入調査を
実施するとともに、化学物質管理の観点からも調査を行っているところです。現在までのところ発症と業
務との関連について調査中ですが、当該2事業場に共通して、印刷インク等の洗浄作業が行われ、過去に
行われていた洗浄作業では、有機塩素系洗浄剤の使用が確認されています。
 印刷業における印刷インク等の洗浄作業においては、印刷工程が完了するごとに印刷インク等を短時間
で効率よく洗浄できるよう、有機塩素系洗浄剤をはじめとする揮発性の高い化学物質が多量に使用されて
いること、印刷機の形状や作業の性質上化学物質の蒸気が広い発散面から拡散しやすく、かつ労働者は発
散面の近傍で作業を行う必要があること、洗浄槽による洗浄作業と異なり使用した化学物質は回収されず
に作業環境中に放出されること等の特徴があり、印刷業の洗浄作業に従事する労働者のばく露は他の産業
における洗浄作業に比べて大きくなる傾向にあります。
 有機塩素系洗浄剤は、油脂に対する洗浄力が高く、印刷業における印刷インク等の洗浄のほか、メッキ・
金属加工における金属類の脱脂・洗浄、半導体製造工程における洗浄等でも使用されており、その主成分
として、脂肪族塩素化合物(ベンゼン環を含まない直鎖又は環状炭化水素の一部が塩素化された化合物)が
含まれています。脂肪族塩素化合物は、現在の知見では必ずしも物質そのものの有害性が高いとされてい
るものばかりではなく、「有機溶剤中毒予防規則」(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)
の対象物質でないものも含まれていますが、労働者に健康障害を生ずるリスクは、物質そのものの有害性
だけでなく、ばく露の程度により大きく異なることを踏まえ、事業者は、有機則等の法令で個別対策が規
定されているかどうかによらず、当該化学物質を取り扱う作業場においては、労働者が高濃度の蒸気にば
く露することがないようにすることが重要です。
 このため、印刷業等の事業場で、これら脂肪族塩素化合物を用いて、地下室の内部その他通風が不十分
な屋内作業場で洗浄作業を行う場合には、高濃度の蒸気にばく露することを予防する観点から、当該物質
が有機則の対象物質でない場合であっても、次に掲げる対策を講ずる必要があります。本対策は、印刷業
の洗浄作業におけるばく露状況を踏まえて策定したものであり、必ずしも他の産業における洗浄作業を念
頭に置いたものではありません。例えば、メッキ・金属加工における金属類の脱脂・洗浄、半導体製造工
程における洗浄等においては、主として有機則の対象物質が使用されていること、洗浄槽による洗浄作業
が行われていることから、印刷業の洗浄作業とはばく露状況が異なると考えられますが、下記1の対象に
該当する場合は、必要な対策を講ずるよう、貴会会員に対する周知をお願いします。
1 対象
  地下室の内部その他通風が不十分な屋内作業場において、脂肪族塩素化合物(有機則の対象物質を除く。)
 を用いて行う洗浄作業

2  講ずべき対策
 (1) 適切な換気の確保
   有機則第5条の規定に準じて、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設け、脂肪族塩素化合
  物の蒸気の発散を抑制すること。これが困難な場合には、同第6条第1項の規定に準じて、全体換気装
  置を設けることにより適切な換気を確保し、作業場内の脂肪族塩素化合物の蒸気の濃度を下げること。
   なお、事務室等に設置されている空調設備は、温度湿度の管理を行う観点から外気の取入れ割合を
  抑えた還流型の方式が一般的であるが、有害物の排出という観点からは、還流型の空調設備は適切な
  換気には含まれないこと。
 (2) 呼吸用保護具の使用
    (1)により全体換気装置を設けたときは、脂肪族塩素化合物の蒸気による労働者のばく露を低減化
  するため、作業に従事する労働者に有機ガス用防毒マスクを使用させること。
 (3) 保護手袋の使用
   脂肪族塩素化合物の多くは、皮ふに付着した場合、皮ふを刺激するだけでなく皮ふから体内に吸収
  されやすい性質をもつことに鑑み、作業に従事する労働者に不浸透性の保護手袋を使用させること。
 (4) 作業方法等の改善
   通風が不十分な作業場においては、空気中の揮発性物質の蒸気の濃度は、必ずしも均一でないこと
  に留意し、作業に従事する労働者の呼吸域におけるばく露をできるだけ低減させるよう、作業位置、
  作業姿勢及び作業方法を選択するとともに、作業時間をできるだけ短縮させること。
 (5) 危険有害性等の表示、通知
   平成24年4月から、危険有害性情報を有するすべての化学物質を対象に、譲渡、提供を行う者は、
  容器等に有害性等を表示するとともに、安全データシートを交付することとされていることから、事
  業者は、労働安全衛生法第57条又は第57条の2に規定する対象物質であるかどうかに関わらず、脂肪
  族塩素化合物を含む洗浄剤を労働者に取り扱わせる際には、表示事項及び通知事項を確認し、取り扱
  う容器等に必要な表示を行うとともに、安全データシートを作業場内に掲示し、又は備え付ける等に
  より労働者に周知すること。

3 その他
  有機塩素系洗浄剤には、複数の脂肪族塩素化合物や揮発性炭化水素等の他の化学物質が含まれている
 こともあり、これらによる健康影響を予防するため、洗浄作業に当たっては、すべての揮発性物質の蒸
 気へのばく露の低減化に努めること。
  また、脂肪族塩素化合物には、引火性のものもあるため、あらかじめ安全データシートで確認し、適
 切な対策を講ずること。






                                            (参考)
1 解説
 (1) 局所排気装置(2の(1)関係)
   局所排気装置は、発散源に近いところにフードを設けて、局部的かつ定常的な吸込み気流を作り、
  揮発性物質の蒸気が周囲に拡散する前に高濃度の状態で吸い込み、作業に従事する労働者へのばく露
  を予防するものである。したがって、フードは、発散源全体を囲むか、発散源にできるだけ近い位置
  に設けて発散源全体に対して十分な吸込み気流を生じさせるものでなければならない。有機則第16条
  第1項に規定する制御風速にも留意すること。
 (2) プッシュプル型換気装置(2の(1)関係)
   プッシュプル型換気装置は、フードの吸込み気流のまわりを同じ向きのゆるやかな吹出し気流で包
  むことにより乱れ気流を吸収しつつ、揮発性物質の蒸気をかきまぜることなく発散源からフードの近
   くまで運んで吸い込むものである。したがって、発散源が大きい作業や移動する作業にも有効である
  が、気流の一様性を確保する必要がある。有機則第16条の2及び平成9年労働省告示第21号に規定する
  構造及び性能に留意すること。
 (3) 全体換気装置(2の(1)関係)
   全体換気装置は、新鮮な外気を給気口から吹き出して、作業場内に発散した揮発性物質の蒸気を混
  合希釈しつつ、作業場内の汚染された空気を排気口から外部に排出することにより、作業場内の揮発
  性物質の蒸気の濃度を下げるものである。したがって、排出口からの汚染された空気は、外部に直接
  排出する必要があること(温度湿度の管理を行うために、別途還流型の空調設備を設けることは差し支
  えない。)。ここで、全体換気を効果的に行うため、揮発性物質の使用量に応じて希釈に必要な換気量
  を確保するとともに、給気口を、吹き出す新鮮な外気が部屋全体に行き渡るよう配置し、排気口を、
  発散源からできるだけ近い位置にするなどの工夫が必要である。
 (4) 専門家の活用(2の(1)関係)
   洗浄作業においては、作業場内に高濃度の揮発性化学物質の蒸気が発散するおそれがあることから、
  既に局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置が設置されている場合であっても、衛
  生管理士、労働衛生コンサルタント等の専門家にその構造及び性能の確認を依頼し、また、作業環境
  測定士に作業環境測定を依頼し、作業場が良好な作業環境にあるかどうか評価させることが望ましい。
 (5) 有機ガス用防毒マスクの選定(2の(2)関係)
   有機ガス用防毒マスクは、国家検定に合格したものを使用させるのはもちろんのこと、正しい装着
  と管理によりはじめて所定の効果が得られるものであるので、平成17年2月7日付け基発第0207007号
  「防毒マスクの選択、使用等について」に従うこと。なお、なお、脂肪族塩化化合物の中には、試験
  ガスと比べて、破過時間(吸収缶が除毒能力を喪失するまでの時間)がきわめて短いものがあるため、
  吸収缶の交換時期に留意するとともに、休憩中に防毒マスクを作業場に放置することがないよう、保
  管にも留意すること。業界団体等においては、(社)日本保安用品協会の保護具アドバイザーに指導を
  求めることも有効である。
 (6) 保護手袋の使用(2の(3)関係)
   洗浄作業において、皮ふからの吸収を防止するために使用する不浸透性の保護手袋については、そ
  の組成により透過時間が大きく異なることに留意し、適切なものを選定すること。
 (7) 作業方法の改善(2の(4)関係)
   全体換気装置による換気が行われている作業場であっても、給気口から送られる新鮮な外気が作業
  場全体に行き渡らない等により、空気中の揮発性物質の蒸気の濃度は、必ずしも均一とはならない。
  このため、作業に従事する労働者が局所的に高い濃度の蒸気にさらされることにより当該労働者のばく
  露が大きくなることがあることに留意すること。また、洗浄作業を手作業で行う場合には、労働者の
  呼吸域が揮発性化学物質の発散場所からできるだけ離れて行うことができるよう工夫する必要がある。
 (8) 危険有害性等の表示、通知(2の(5)関係)
   労働安全衛生規則第576条及び第577条は、有害物を取り扱い、蒸気を発散する有害な作業場におい
  ては、事業者は、その原因を除去し、屋内作業場における蒸気の含有濃度が有害な程度とならないよ
  う必要な措置を講ずることとされており、化学物質を取り扱う事業者は、有機則等の特別則による規
  制の有無にかかわらず、その物質の危険性や有害性を把握した上で、適正な化学物質管理を行うこと
  が求められている。
   労働安全衛生法第57条は、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物等約100物質及びその混合物を
  表示対象物質とし、同法第57条の2は、640物質及びその混合物を通知対象物質としているが、労働安
  全衛生規則の改正により、平成24年4月から、その他の危険有害性情報を有するすべての化学物質及び
  その混合物について、表示や通知をすることが努力義務とされている。このため、事業者は、洗浄剤
  を購入する際に、含まれる化学物質に関する危険有害性情報を入手して確認し、労働者に周知する必
  要がある。その詳細は、「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」
  (平成4年労働省告示第60号)によること。                   

2 有機塩素系洗浄剤に多く含まれている代表的な脂肪族塩素化合物
名称 有機則分類 がん指針 管理濃度(ppm) 表示 通知
ジクロルメタン
(ジクロロメタン、塩化メチレン)
第2種 50
1,2-ジクロロプロパン
(塩化プロピレン)
10  
1トリクロルエチレン
(トリクロロエチレン)
第1種   10
1テトラクロルエチレン
(テトラクロロエチレン)
第2種 50



基安発0723第3号
平成24年7月23日
社団法人全国鍍金工業組合連合会会長 殿
厚生労働省労働基準局安全衛生部長

印刷業等の洗浄作業における有機塩素系洗浄剤のばく露低減化のための予防的取組みについて

 日ごろより労働安全衛生行政の推進につきご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
 先般、印刷業の2事業場において、印刷業務に従事した複数の労働者が胆管がんを発症したとする労災
請求が相次いでなされたところであり、所轄の労働基準監督署においては、労災請求を受けて立入調査を
実施するとともに、化学物質管理の観点からも調査を行っているところです。現在までのところ発症と業
務との関連について調査中ですが、当該2事業場に共通して、印刷インク等の洗浄作業が行われ、過去に
行われていた洗浄作業では、有機塩素系洗浄剤の使用が確認されています。
 印刷業における印刷インク等の洗浄作業においては、印刷工程が完了するごとに印刷インク等を短時間
で効率よく洗浄できるよう、有機塩素系洗浄剤をはじめとする揮発性の高い化学物質が多量に使用されて
いること、印刷機の形状や作業の性質上化学物質の蒸気が広い発散面から拡散しやすく、かつ労働者は発
散面の近傍で作業を行う必要があること、洗浄槽による洗浄作業と異なり使用した化学物質は回収されず
に作業環境中に放出されること等の特徴があり、印刷業の洗浄作業に従事する労働者のばく露は他の産業
における洗浄作業に比べて大きくなる傾向にあります。
 有機塩素系洗浄剤は、油脂に対する洗浄力が高く、印刷業における印刷インク等の洗浄のほか、メッキ・
金属加工における金属類の脱脂・洗浄、半導体製造工程における洗浄等でも使用されており、その主成分
として、脂肪族塩素化合物(ベンゼン環を含まない直鎖又は環状炭化水素の一部が塩素化された化合物)が
含まれています。脂肪族塩素化合物は、現在の知見では必ずしも物質そのものの有害性が高いとされてい
るものばかりではなく、「有機溶剤中毒予防規則」(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)
の対象物質でないものも含まれていますが、労働者に健康障害を生ずるリスクは、物質そのものの有害性
だけでなく、ばく露の程度により大きく異なることを踏まえ、事業者は、有機則等の法令で個別対策が規
定されているかどうかによらず、当該化学物質を取り扱う作業場においては、労働者が高濃度の蒸気にば
く露することがないようにすることが重要です。
 このため、印刷業等の事業場で、これら脂肪族塩素化合物を用いて、地下室の内部その他通風が不十分
な屋内作業場で洗浄作業を行う場合には、高濃度の蒸気にばく露することを予防する観点から、当該物質
が有機則の対象物質でない場合であっても、次に掲げる対策を講ずる必要があります。本対策は、印刷業
の洗浄作業におけるばく露状況を踏まえて策定したものであり、必ずしも他の産業における洗浄作業を念
頭に置いたものではありません。例えば、メッキ・金属加工における金属類の脱脂・洗浄、半導体製造工
程における洗浄等においては、主として有機則の対象物質が使用されていること、洗浄槽による洗浄作業
が行われていることから、印刷業の洗浄作業とはばく露状況が異なると考えられますが、下記1の対象に
該当する場合は、必要な対策を講ずるよう、貴会会員に対する周知をお願いします。
1 対象
  地下室の内部その他通風が不十分な屋内作業場において、脂肪族塩素化合物(有機則の対象物質を除く。)
 を用いて行う洗浄作業

2  講ずべき対策
 (1) 適切な換気の確保
   有機則第5条の規定に準じて、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設け、脂肪族塩素化合
  物の蒸気の発散を抑制すること。これが困難な場合には、同第6条第1項の規定に準じて、全体換気装
  置を設けることにより適切な換気を確保し、作業場内の脂肪族塩素化合物の蒸気の濃度を下げること。
   なお、事務室等に設置されている空調設備は、温度湿度の管理を行う観点から外気の取入れ割合を
  抑えた還流型の方式が一般的であるが、有害物の排出という観点からは、還流型の空調設備は適切な
  換気には含まれないこと。
 (2) 呼吸用保護具の使用
    (1)により全体換気装置を設けたときは、脂肪族塩素化合物の蒸気による労働者のばく露を低減化
  するため、作業に従事する労働者に有機ガス用防毒マスクを使用させること。
 (3) 保護手袋の使用
   脂肪族塩素化合物の多くは、皮ふに付着した場合、皮ふを刺激するだけでなく皮ふから体内に吸収
  されやすい性質をもつことに鑑み、作業に従事する労働者に不浸透性の保護手袋を使用させること。
 (4) 作業方法等の改善
   通風が不十分な作業場においては、空気中の揮発性物質の蒸気の濃度は、必ずしも均一でないこと
  に留意し、作業に従事する労働者の呼吸域におけるばく露をできるだけ低減させるよう、作業位置、
  作業姿勢及び作業方法を選択するとともに、作業時間をできるだけ短縮させること。
 (5) 危険有害性等の表示、通知
   平成24年4月から、危険有害性情報を有するすべての化学物質を対象に、譲渡、提供を行う者は、
  容器等に有害性等を表示するとともに、安全データシートを交付することとされていることから、事
  業者は、労働安全衛生法第57条又は第57条の2に規定する対象物質であるかどうかに関わらず、脂肪
  族塩素化合物を含む洗浄剤を労働者に取り扱わせる際には、表示事項及び通知事項を確認し、取り扱
  う容器等に必要な表示を行うとともに、安全データシートを作業場内に掲示し、又は備え付ける等に
  より労働者に周知すること。

3 その他
  有機塩素系洗浄剤には、複数の脂肪族塩素化合物や揮発性炭化水素等の他の化学物質が含まれている
 こともあり、これらによる健康影響を予防するため、洗浄作業に当たっては、すべての揮発性物質の蒸
 気へのばく露の低減化に努めること。
  また、脂肪族塩素化合物には、引火性のものもあるため、あらかじめ安全データシートで確認し、適
 切な対策を講ずること。






                                            (参考)
1 解説
 (1) 局所排気装置(2の(1)関係)
   局所排気装置は、発散源に近いところにフードを設けて、局部的かつ定常的な吸込み気流を作り、
  揮発性物質の蒸気が周囲に拡散する前に高濃度の状態で吸い込み、作業に従事する労働者へのばく露
  を予防するものである。したがって、フードは、発散源全体を囲むか、発散源にできるだけ近い位置
  に設けて発散源全体に対して十分な吸込み気流を生じさせるものでなければならない。有機則第16条
  第1項に規定する制御風速にも留意すること。
 (2) プッシュプル型換気装置(2の(1)関係)
   プッシュプル型換気装置は、フードの吸込み気流のまわりを同じ向きのゆるやかな吹出し気流で包
  むことにより乱れ気流を吸収しつつ、揮発性物質の蒸気をかきまぜることなく発散源からフードの近
   くまで運んで吸い込むものである。したがって、発散源が大きい作業や移動する作業にも有効である
  が、気流の一様性を確保する必要がある。有機則第16条の2及び平成9年労働省告示第21号に規定する
  構造及び性能に留意すること。
 (3) 全体換気装置(2の(1)関係)
   全体換気装置は、新鮮な外気を給気口から吹き出して、作業場内に発散した揮発性物質の蒸気を混
  合希釈しつつ、作業場内の汚染された空気を排気口から外部に排出することにより、作業場内の揮発
  性物質の蒸気の濃度を下げるものである。したがって、排出口からの汚染された空気は、外部に直接
  排出する必要があること(温度湿度の管理を行うために、別途還流型の空調設備を設けることは差し支
  えない。)。ここで、全体換気を効果的に行うため、揮発性物質の使用量に応じて希釈に必要な換気量
  を確保するとともに、給気口を、吹き出す新鮮な外気が部屋全体に行き渡るよう配置し、排気口を、
  発散源からできるだけ近い位置にするなどの工夫が必要である。
 (4) 専門家の活用(2の(1)関係)
   洗浄作業においては、作業場内に高濃度の揮発性化学物質の蒸気が発散するおそれがあることから、
  既に局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置が設置されている場合であっても、衛
  生管理士、労働衛生コンサルタント等の専門家にその構造及び性能の確認を依頼し、また、作業環境
  測定士に作業環境測定を依頼し、作業場が良好な作業環境にあるかどうか評価させることが望ましい。
 (5) 有機ガス用防毒マスクの選定(2の(2)関係)
   有機ガス用防毒マスクは、国家検定に合格したものを使用させるのはもちろんのこと、正しい装着
  と管理によりはじめて所定の効果が得られるものであるので、平成17年2月7日付け基発第0207007号
  「防毒マスクの選択、使用等について」に従うこと。なお、なお、脂肪族塩化化合物の中には、試験
  ガスと比べて、破過時間(吸収缶が除毒能力を喪失するまでの時間)がきわめて短いものがあるため、
  吸収缶の交換時期に留意するとともに、休憩中に防毒マスクを作業場に放置することがないよう、保
  管にも留意すること。業界団体等においては、(社)日本保安用品協会の保護具アドバイザーに指導を
  求めることも有効である。
 (6) 保護手袋の使用(2の(3)関係)
   洗浄作業において、皮ふからの吸収を防止するために使用する不浸透性の保護手袋については、そ
  の組成により透過時間が大きく異なることに留意し、適切なものを選定すること。
 (7) 作業方法の改善(2の(4)関係)
   全体換気装置による換気が行われている作業場であっても、給気口から送られる新鮮な外気が作業
  場全体に行き渡らない等により、空気中の揮発性物質の蒸気の濃度は、必ずしも均一とはならない。
  このため、作業に従事する労働者が局所的に高い濃度の蒸気にさらされることにより当該労働者のばく
  露が大きくなることがあることに留意すること。また、洗浄作業を手作業で行う場合には、労働者の
  呼吸域が揮発性化学物質の発散場所からできるだけ離れて行うことができるよう工夫する必要がある。
 (8) 危険有害性等の表示、通知(2の(5)関係)
   労働安全衛生規則第576条及び第577条は、有害物を取り扱い、蒸気を発散する有害な作業場におい
  ては、事業者は、その原因を除去し、屋内作業場における蒸気の含有濃度が有害な程度とならないよ
  う必要な措置を講ずることとされており、化学物質を取り扱う事業者は、有機則等の特別則による規
  制の有無にかかわらず、その物質の危険性や有害性を把握した上で、適正な化学物質管理を行うこと
  が求められている。
   労働安全衛生法第57条は、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物等約100物質及びその混合物を
  表示対象物質とし、同法第57条の2は、640物質及びその混合物を通知対象物質としているが、労働安
  全衛生規則の改正により、平成24年4月から、その他の危険有害性情報を有するすべての化学物質及び
  その混合物について、表示や通知をすることが努力義務とされている。このため、事業者は、洗浄剤
  を購入する際に、含まれる化学物質に関する危険有害性情報を入手して確認し、労働者に周知する必
  要がある。その詳細は、「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」
  (平成4年労働省告示第60号)によること。                   

2 有機塩素系洗浄剤に多く含まれている代表的な脂肪族塩素化合物
名称 有機則分類 がん指針 管理濃度(ppm) 表示 通知
ジクロルメタン
(ジクロロメタン、塩化メチレン)
第2種 50
1,2-ジクロロプロパン
(塩化プロピレン)
10  
1トリクロルエチレン
(トリクロロエチレン)
第1種   10
1テトラクロルエチレン
(テトラクロロエチレン)
第2種 50
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